争訟法務最前線

第80回(『地方自治職員研修』2013年8月号掲載分)

1 長が議会の議決がない状態を作出したとはいえないとして長の専決処分の効力を認めた事例  2 議会の議決がないとしてなされた長の専決処分に係る議案について議会の追認が有効とされた事例  3 副村長、監査委員の選任の同意について長の専決処分の効力が認められた事例  4 臨時議長による臨時会の開会が法律の手続に則った議会の開会ではないとされた事例

弁護士 羽根一成

今月の判例

1 長が議会の議決がない状態を作出したとはいえないとして長の専決処分の効力を認めた事例

2 議会の議決がないとしてなされた長の専決処分に係る議案について議会の追認が有効とされた事例

3 副村長、監査委員の選任の同意について長の専決処分の効力が認められた事例

4 臨時議長による臨時会の開会が法律の手続に則った議会の開会ではないとされた事例

(東京高裁平成25年5月30日判決)

長と議会の関係

地方公共団体の行政事務の停滞を防止するため、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」は、長が専決処分をすることができるようになっています(地方自治法179条1項)。本件では、長が議会を招集したにもかかわらず、議長が議会を開会しないで流会とした場合、これに当たるのかが争われ、原判決(甲府地裁平成24年9月18日判決)は、長においてそのことを確実なものとして予測できていれば、これに当たらないとしていました(同旨の判決として千葉地方裁判所平成24年12月18日判決)。阿久根市(鹿児島県)の例を彷彿とさせる事案において、10億円超の返還請求を命じた原判決は、地元紙はもとより判例雑誌でも大きく取り上げられており、記憶に新しい方も少なくないのではないでしょうか。

しかし、本件のように議長が流会を繰り返していた場合、次も議長が議会を開会しないであろうことは誰にでも予測可能であり、そのような状況が続く限り、いつまでも専決処分をすることができないというのでは、行政事務の停滞を防止するという法の趣旨が没却されることにはなりはしないでしょうか。また、長には議会を招集する権限があるだけで、議会を開会する権限はなく、長と議会(議長)は独立かつ対等の関係にあるにもかかわらず、議長が議会を開会しないことにより、長の専決処分が違法とされるのは道理に合わないと思います。本判決ではこの理が認められ、地方公共団体側の逆転勝訴となりました。

追認議決

また、本件では、原判決後になされた追認議決により、議会の議決がないという瑕疵が治癒されるのかが争われ、本判決は、「議会がその後、本件専決処分(2)ないし(4)を追認する同意ないし議決をしたことによって、本件専決処分(2)ないし(4)はいずれも、その瑕疵が治癒されたものというべきである」としています。本判決は、追認議決の効力について正面から判断したものとして、住民訴訟敗訴後の権利放棄の議決に関する判例と並んで、実務上の参考になります。

人事と専決処分

さらに、本件では、副村長、監査委員の選任の同意(同法162条)について、専決処分をすることができるのかが争われ、本判決は、「副村長及び監査委員に係る人事案件について専決処分を禁止する規定はなく、上記人事案件であることをもって、本件専決処分(2)が違法であるということはできない」としています。

人事について専決処分をすることを消極に解する見解も有力ですが、副村長(同法167条1項)及び監査委員(同法199条等)の職責の大きさからすれば、その長期欠員は行政事務に支障を来します。そうであるならば、行政運営の停滞を防止するため、「議会が議決すべき事件を議決しないとき」なのであれば、長が専決処分をする必要があることは、他の議決事項と同様ではないでしょうか。

もっとも、現在では、同法179条1項に但書が追加され、副村長の選任については、同項に基づく専決処分ができないことになっていますので、実務上の参考になるのは、監査委員に関する部分になります。

以上取り上げたもののほか、本件には、臨時議長による臨時会の開会、住宅防音工事の公益上の必要性、入会権と道路工事など日頃目にしない争点が含まれており、いずれも実務上の参考になりますので、詳しくは本判決の原文をご参照ください。