争訟法務最前線

第50回(『地方自治職員研修』2011年2月号掲載分)

起訴議決の適否を行政事件訴訟で争うことの可否

弁護士 羽根一成

今月の判例

起訴議決の適否について行政事件訴訟を提起して争うことはできない。(最高裁平成22年11月25日決定)

決定・命令に対する不服申立ての手続き

通常、地裁の判決に不服があるときは、高裁に控訴を、最高裁に上告ないし上告受理申立てをすることになりますが、地裁の決定・命令に不服があるときは、法律が認めた場合に限り、高裁に抗告(通常抗告または即時抗告)を、最高裁に再抗告(許可抗告または特別抗告)をすることになります。

本件(最高裁平成22年(行フ)第4号)は、地裁の執行停止申立てを却下する決定に対して、高裁に即時抗告(行訴法25条7項)を、最高裁に許可抗告(民訴法337条)をした事案になります。

起訴議決の適否を行政事件訴訟で争うことの可否

1 公訴は、検察官(検察庁ではありません。)が行うものとされ(刑訴法247条)、起訴処分・不起訴処分は検察官の判断(訴追裁量権の行使)によるものとされていますが、不当な不起訴処分を審査するために、地裁の庁舎内に、衆議員議員選挙の選挙権を有する者の中からくじ引きで選定された検察審査員が組織する検察審査会が設置されています。そして、検察審査会が、不起訴処分に対して起訴を相当とする議決をし、再度の不起訴処分に対して起訴をすべき旨の議決(起訴議決)(検察審査会法41条の6第1項)をしたときは、裁判所は、公訴の提起・維持をする者を弁護士の中から指定し(指定弁護士)(検察審査会法41条の9第1項)、指定弁護士は、速やかに公訴を提起するものとされています(強制起訴)(検察審査会法41条の10第1項)。

2 決定書が実質1枚しかないため詳細は明らかでありませんが、報道などを総合すると、本件は、強制起訴手続の差止訴訟(行訴法3条7項)を提起し、これを本案とする起訴議決の執行停止(効力の停止)(行訴法25条2項)を申し立てた事案のようです。

そして、本決定は、起訴議決は「刑事訴訟手続における公訴提起(同法41条の10第1項)の前提となる手続であって、その適否は、刑事訴訟手続において判断されるべきものであり、行政事件訴訟を提起して争うことはできず、これを本案とする行政事件訴訟法25条2項の執行停止の申立てをすることもできない。」として、起訴議決の適否を行政事件訴訟で争うことを認めませんでした。検察官の起訴処分・不起訴処分の適否が行政事件訴訟で争われることはないことからすれば、最高裁の判断は結論として当然のことではありますが、刑事裁判とは別に行政裁判でも争えるのではないかと考えたことは、既存の枠に囚われない発想であると思います。

3 思えば、起訴議決のみならず検察官の起訴処分・不起訴処分も、「処分」(行訴法3条2項)すなわち「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最高裁昭和39年10月29日判決)に当たると考えられないではなく、そうであるならば、行訴法上は、これに対する抗告訴訟を否定する規定がないように思います(なお、行審法は4条1項6号で「刑事事件に関する法令に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察員が行う処分」を対象から除外しています。)。この点、地裁は、起訴議決の執行停止の申立てを認めない理由として、起訴議決は行政処分に当たらない、刑訴法に基づいて刑事裁判の中で判断されるべきとしていたようですが、最高裁は、本決定で起訴議決が「処分」に当たらないとは明言しませんでした。「刑事訴訟手続における公訴提起(同法41条の10第1項)の前提となる手続であって、その適否は、刑事訴訟手続において判断されるべきものであり」とするのも、中間段階の行為であることから「処分」に当たることを否定したというよりも、「処分」に当たるものであっても、制度論として、抗告訴訟の対象となりえないものがあることを明らかにしたのではないかと思います。