争訟法務最前線

第56回(『地方自治職員研修』2011年8月号掲載分)

理由付記の程度

弁護士 羽根一成

今月の判例

一級建築士免許取消処分にあたって、法令の適用関係だけではなく、処分基準の適用関係も示していなければ、理由提示(行政手続法14条1項本文)を欠き、同処分は違法となる。(最高裁平成23年6月7日判決)

理由付記

多くの地方公共団体では、行政手続法のほか、同法とほぼ同趣旨、同内容の行政手続条例が定められており、不利益処分をするときは、処分の理由を付記(提示)することになっています(なお、個別の法律が理由付記を義務づけていることもあり、例えば、職員に対する懲戒その他の不利益処分については、地方公務員法49条1項が、処分の事由を記載した説明書の交付を義務づけています。)。

不利益処分(行政処分)をするには、法令の規定がなければならず(法律による行政の原理)、法令の規定にあてはまる事実がなければならず、事実を認定する資料(証拠)がなければなりません。不利益処分の理由とは、この一連の過程、すなわち(1)資料から事実を認定し、(2)認定事実を法令の規定に当てはめ、(3)結論を導く経過のこと(法令を大前提、事実を小前提とする法的三段論法)です。

理由付記の程度

法令によって理由付記が義務づけられている場合に、理由付記を欠くときは、処分自体が違法となると解されています(最高裁昭和38年5月31日判決)。行政手続法、行政手続条例が制定されたことによって、不利益処分全般について理由付記が義務づけられていますから、不利益処分をするときは、原則として理由を付記しなければなりません(もっとも、行政手続法14条1項但書は、「当該理由を示さないで処分をなすべき差し迫った必要がある場合」を例外として定めています。)。

それでは、理由付記とは、どの程度の理由を付記することをいうのでしょうか。

根拠法令の根拠条文のみ(「○○法○○条○○項に該当する」のみ)を付記したのでは不十分であると解されています(最高裁昭和60年1月22日)。理屈では、理由付記の趣旨である行政の恣意の抑制、被処分者の不服申立ての便宜に叶うかどうかによって、個別の事案ごとに判断されることになると思われますが、一般的には、裁判所の判決のように(1)資料から事実を認定する部分までは必要なく、こういう具体的な事実があった、その事実は○○法○○条○○項に該当する、したがって、○○法○○条○○項に基づいて○○処分をする程度のこと、すなわち(2)認定事実を法令に当てはめる部分、(3)結論を導く部分を記載するのが無難ではないでしょうか。

(2)認定事実を法令に当てはめる部分

本判決は、認定事実を法令の規定に当てはめる部分を記載する際に、認定事実は○○法○○条○○項に該当するだけでなく、処分基準(行政手続法12条)○○に該当することも記載しなければならないとしました。これは、処分基準が複雑であるため「上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分ではないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分である」とするもので、個別の事案ごとに判断したものと考えられますが、一般的にも、法令への当てはめだけでなく、処分理由への当てはめも記載するのが無難であると思います。

なお、理由付記を欠くとして不利益処分が違法とされ、取り消された場合でも、あらためて理由を付記すれば、同じ処分をすることができます。