争訟法務最前線

第85回(『地方自治職員研修』2014年1月号掲載分)

収用委員会の裁決の判断内容が損失補償に関する事項に限られている場合でも、損失補償に関する訴えではなく、裁決の取消訴訟を提起することができる。

弁護士 羽根一成

今月の判例

収用委員会の裁決の判断内容が損失補償に関する事項に限られている場合でも、損失補償に関する訴えではなく、裁決の取消訴訟を提起することができる。(最高裁平成25年10月25日)

土地収用事例

一般に、土地収用事例においては、国交大臣または知事による業務認定のプロセスと、都道府県の収用委員会による収用裁決のプロセスがあり、後者の収用裁決には、さらに、権利取得裁決と明渡裁決があり、これらの裁決に不服のある者は、権利取得裁決ないし明渡裁決の訴訟を提起し、ただ、その不服が損失補償の部分に関するものであるときは、損失補償に関する訴え(形式的当事者訴訟)を提起するものとされています。

このことからすると、本件のように、収用委員会の裁決(道路法70条4項に基づく土地収用法94条7項の規定による裁決)の判断内容が損失補償に関する事項に限られている場合には、その不服は損失補償に関するものであり、損失補償に関する訴えを提起することになりそうです(原判決である高松高裁平成24年2月23日判決)。

ところが、本判決は、裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由が、損失補償に関する事項以外の違法事由に限られているにすぎない(土地収用法132条2項参照)としました。つまり、主張が制限されるだけで訴えを提起することは差し支えないし、そこで、損失補償に関する事項以外の違法事由であれば主張することも差し支えないということです。

本件における収用委員会の裁決の判断内容は、道路法70条1項の要件を満たさない(補償を要する場合に該当しない)というものでしたが、原告の主張する違法事由が、裁決手続きの違法でしたので、裁決の取消訴訟を提起することは差し支えないのはもとより、そこで、裁決手続の違法を主張することも差し支えないということになります。

同じことは、文化庁長官の補償金についての裁定(著作権法72条)、特許庁長官の特許無効審判(特許法170条但書)など、形式的当事者訴訟とされているものにも当てはまることになるでしょうか。

処分なのに裁決

本判決は、「土地収用法に基づく収用委員会の裁決は、行政事件訴訟法3条2項の「処分」に該当するものである」(同法3条3項の「裁決」ではない。)としています。「処分」とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最高裁昭和39年10月29日判決)をいいますので、権利取得裁決及び明渡裁決は「処分」に該当することになりますが、「処分」なのに裁決というネーミングは不親切といわざるを得ません。

裁決を受けた処分庁の措置

話は飛びますが、取消裁決は行政(上級庁)による取消しですから、形成力の有無を論じるまでもなく、取消裁決により原処分の効力は失われると解されます。したがって、取消裁決があったときは、原処分庁があらためて原処分の取消処分をする必要はないことになります。ただ、原処分が申請に対する処分(たとえば不許可処分)であるときは、取消裁決により応答がない状態に戻りますので、原処分庁は、裁決の趣旨に従ってあらためて申請に対する処分(たとえば許可処分)をしなければなりません(行審法43条2項)。また、原処分を公示したとき、原処分を利害関係人に通知したときは、それぞれ、取り消されたことを公示、通知しなければならないとされています(行審法43条3・4項)。国の例ですが、最近社会問題になった消えた年金の事例において、再審査請求の裁決で、年金記録の訂正処分が取り消され、その後、日本年金機構から年金記録の訂正の取消処分の通知が、教示文つきでありましたが、これでは、あたかも取消裁決を受けて原処分庁があらためて原処分の取消処分をしたかのような誤解を生じさせてしまうのではないでしょうか。