争訟法務最前線

第74回(『地方自治職員研修』2013年2月号掲載分)

収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間は、土地収用法133条1項所定の3か月ではなく、行訴法14条3項所定の6か月である。

弁護士 羽根一成

今月の判例

収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間は、土地収用法133条1項所定の3か月ではなく、行訴法14条3項所定の6か月である。(最高裁平成24年11月20日判決)

出訴期間の基礎知識

取消訴訟の出訴期間に関する行訴法の知識をおさらいしておきましょう。

A 原処分に対する審査請求ができる場合、原則として、審査請求をすることもできるし、直接原処分の取消訴訟を提起することもできる(自由選択主義。行訴法8条1項本文)。

B 直接原処分の取消訴訟を提起する場合、原則として、処分があったことを知った日から6か月以内でなければならない(行訴法14条1項本文)。

C 審査請求をした場合、原処分の取消訴訟は、原則として、裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければならない(行訴法14条3項本文)。

D 先行する裁決の取消訴訟に、原処分の取消訴訟を併合提起する場合、原処分の取消訴訟は、裁決の取消訴訟を提起した時に提起されたものとみなされる(行訴法20条)。

E なお、裁決の取消訴訟においては、裁決固有の瑕疵のみを主張することができ、原処分の違法を主張することができない(行訴法10条2項)。

すなわち、原処分に不服がある者は、とりあえず審査請求をしておけば、原処分の取消訴訟の出訴期間が裁決があったことを知った日から6か月以内に伸長され、訴訟の準備時間を確保することができるようになるわけです。

収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間

原処分の取消訴訟の出訴期間に特例が設けられ、6か月から3か月に短縮されている場合はどうかというのが本件での問題です。

土地区画整理事業の施行者は、従前地にある建物を仮換地に強制移転(直接施行)させることができます(土地区画整理法77条1項)。強制移転された者は損失補償を請求することができ(同法78条1項)、損失補償についてはまず協議をし、協議が整わないときは収用委員会に裁決を申請することができ(同条3項・73条3項)、収用委員会の裁決(紛らわしいですがこれが原処分です。)に不服のある者は、国交大臣に審査請求をすることができます。そして、土地区画整理法133条1項では、収用委員会の裁決に関する訴え(損失補償の訴えは除かれます。)は、裁決書の送達を受けた日から3か月以内に提起しなければならないと規定されています。

本件は、平成18年10月24日に収用委員会の裁決(原処分)があり、平成21年7月22日に国交大臣の裁決があり、平成22年1月19日に裁決の取消訴訟が提起され、平成22年6月1日に収用委員会の裁決(原処分)の取消訴訟が併合提起されたという事案であり、原判決(広島高裁平成23年9月14日判決)は、行訴法14条3項(前記C)よりも土地区画整理法133条1項が優先的に適用される結果、収用委員会の裁決(原処分)の取消訴訟は、国交大臣の裁決があったことを知った日から6か月以内ではなく、国交大臣の裁決の裁決書の送達を受けた日から3か月以内に提起しなければならないとしていました。

これに対して最高裁は「収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において、審査請求がされたときは、収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間については、土地収用法の特例規定(133条1項)が適用されるものではなく、他に同法に別段の特例規定が存しない以上、原則どおり行政事件訴訟法14条3項の一般規定が適用され、その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内・・・となると解する」としました。

原判決が、土地区画整理法133条1項を、行訴法14条全体の特例と解したのに対し、最高裁は、あくまでも行訴法14条1項、すなわち直接原処分の取消訴訟を提起する場合(前記B)の特例であると解したといえると思います。