争訟法務最前線

第73回(『地方自治職員研修』2013年1月号掲載分)

債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定について、預金最大店舗指定方式を適法とした事例

弁護士 羽根一成

今月の判例

債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定について、預金最大店舗指定方式を適法とした事例(名古屋高裁平成24年9月20日決定)

支店名個別指定方式

地方公共団体が、債権(強制徴収により徴収する債権を除く。)を回収するために民事執行に着手するに際し、最も有力となるのが預金債権の差押です。預金債権の差押に当たっては、債権差押命令申立書において、「差し押さえるべき債権の種類及び額その他債権を特定するに足りる事項」を記載しなければならず(民事執行規則133条2項)、一般的には、預金口座のある金融機関と支店で特定します(支店名個別特定方式)。これは、金融機関では預金取引や顧客管理が支店ごとに行われていると言われているためです。

全店一括順位付け方式

預金口座のある金融機関又は支店がわからない場合、主だった金融機関の地元支店をすべて記載することにより対処することがしばしば行われています。しかし、これでは、債務者が別の地域の支店に預金口座を開設していると対処できません。そもそも、第三債務者はあくまでも金融機関であり、支店に法人格があるわけではないですし、金融機関では、顧客管理にCFIシステム(預金保険法に基づく名寄せシステム)を利用しています。

 そこで、支店を限定せずに、「複数の店舗に預金債権があるときは、支店番号の若い順序による」という順位付けをする方式(全店一括順位付け方式)により、差押債権を表示することにチャレンジした例がありました。しかし、最高裁平成23年9月30日決定は、差押債権の特定としては、金融機関や競合する差押債権者等の利害関係人の地位が不安定になることのないよう、金融機関において、「直ちにとはいえないまでも、差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるもの」でなければならないとし、全店一括順位付け方式では、金融機関が、先順位の店舗の預金債権のすべてについて、差押えの効力が生ずる預金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預金債権に差押の効力が生ずるのか否かが判明せず、金融機関において、上記の程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものであるとはいえないとしていました。

預金額最大店舗指定方式

そこで、支店は限定せずに、「複数の店舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、預金債権合計額の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権と対象とする」という順位付けをする方式(預金額最大店舗指定方式)ではどうか、というのが本件の事案です。

本決定は、預金額最大店舗指定方式は、支店名個別指定方式に「当該金融機関の店舗の中で預金債権額合計の最も大きな店舗を特定する作業(ただし、これが複数あるときは、そのうち支店番号が最も若い店舗を特定する作業が加わる。)及び第三債務者の本店に送達された債権差押命令の写しを当該店舗にファクシミリなどにより転送する作業が加わるだけ」であり、全店一括順位付け方式とは異なって、金融機関において、上記の程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものであるとしました。

本決定に先立ち、東京高裁平成23年10月26日決定も同様の判断を示しており、預金債権の差押が奏功する場面が増えるのではないかと期待されますが、訴訟提起前の納付相談の段階、あるいは判決後の支払計画書を提出させる段階で、将来の民事執行に備えて、不動産登記、車検証、通帳、社員証、保険証書などの写しの交付を求め、あるいはこれらの記載事項を聴取しておくことが肝要であると思います。