争訟法務最前線

第81 回(『地方自治職員研修』2013年9月号掲載分)

管理職による指揮命令を歯牙にも掛けず、周囲と無用の軋轢を生じさせている、組織の一員として管理職の指揮命令の下で、一定の制約の中でその職務を遂行しなければならないのにその意識が希薄であるなどとして、適格性の欠如を理由とする分限免職処分が適法とされた事例

弁護士 羽根一成

今月の判例

管理職による指揮命令を歯牙にも掛けず、周囲と無用の軋轢を生じさせている、組織の一員として管理職の指揮命令の下で、一定の制約の中でその職務を遂行しなければならないのにその意識が希薄であるなどとして、適格性の欠如を理由とする分限免職処分が適法とされた事例(東京高裁平成25年7月17日判決、原判決:甲府地裁平成25年3月19日判決)

問題職員の処遇

自治体法務専門の三弁護士による鼎談では、問題職員の問題は蓋をされがちであるとされ、その原因として、地方公共団体の場合、民間と異なって役に立たない職員がいても経営が成り立たなくなるというプレッシャーが弱いこと、問題職員の問題(分限処分)が、非違行為(懲戒処分)と異なって外部の目にとまりにくいことが指摘されています。

しかし、問題職員がいると、当該職員の職務が停滞するだけでなく、周囲に物心両面でマイナスの影響を及ぼし、問題職員が日々引き起こす問題への対応のことなどを考えると、役所全体が疲弊すると言っても過言ではありません。また、役に立たない職員を税金で養い続けることについて、納税者の理解が得られるはずなく、地方公共団体に対する監視の目がますます厳しくなっている昨今、問題職員対して厳正に対処する必要性は高いといえると思います。

行動記録作成上の留意点

分限免職処分をしても、問題職員がそれに平伏するとは考えにくく、後に、人事委員会または公平委員会への不服申立て、取消訴訟が待っていることを想定して証拠を残しておかなければなりません。そのためには、勤務実績の不良・適格性の欠如のいずれを理由とする場合もそれが日々の問題行動の積み重ねであることから、行動記録を概ね1年分以上つける必要があります。行動記録作成上の留意点については、次のとおりです。

(1)作成名義は、日々の問題行動を直接観察する立場にある所属長(課長)であるのが一般的です。(2)恣意にわたらないように、問題行動が見られる都度、事務的・機械的に記録をつけます。(3)例えば、問題行動に対する上司の指導に従わなかった等抽象的な評価が記載されているだけでは、何があったのか事実が立証できないうえ、上司の指導が適切なものであったことも立証できないので、問題行動→それに対する指導→それに対する態度を日誌様に具体的に記載します。(4)反省文があれば問題行動を認めた証拠になり、弁明書に不合理な言い訳があれば問題性の裏付けになります。また、係長・主任や問題職員の同僚からの課長宛の報告書は、作成名義人以外の第三者の目撃証言に相当するものになります。問題行動の程度によっては、それらを徴しておきます。(5)後から1年分の問題行動を整理し直すことは(特に後任者の)負担が大きくなりますので、早い時期に、問題行動を類型ごとに整理しておきます。

なお、問題職員に仕事を割り当てるとかえって仕事が増えるため、仕事を割り当てないことがあり、気持ちは理解できますが、問題行動がなければ行動記録のつけようがありませんので、通常の仕事は割り当ててください。

条件付採用期間中の問題行動・理由説明書の記載の程度

本判決は、問題行動そのものというよりも、それを改善するための上司の指導に悉く従わないという点を重視して、分限免職処分を適法としたものです。また、条件付採用期間中の問題行動も、正式採用後の分限免職処分の評価対象となるとしています。

さらに、分限免職処分の理由は、概ね1年以上にわたる日々の問題行動の積み重ねであり、量が膨大でそれを理由説明書にどのように記載すればいいのか悩ましいところですが、問題行動の骨子・類型を記載したものについて「十分具体的に示されている」と評価しています。