争訟法務最前線

第59回(『地方自治職員研修』2011年11月号掲載分)

住民訴訟における弁護士報酬の算定

弁護士 羽根一成

今月の判例

住民訴訟における弁護士報酬の算定の基礎となる「判決の結果普通地方公共団体が回収した額」は、現に回収された額であり、国に返還されることとなる国庫補助金相当額を控除した額ではない。(最高裁平成23年9月8日判決)

片面的敗訴者負担制度

地方自治法242条の2第12項は、住民「訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。」と規定しています。これは、株主代表訴訟の場合(会社法852条1項)と同様に、原告(住民)勝訴の場合に限り、敗訴者(地方公共団体)が勝訴者(住民)の弁護士報酬を負担する片面的敗訴者負担制度を採用したものです。

地方自治法242条の2第12項に関する近時の最高裁判例としては、「勝訴した場合」について、被告(地方公共団体)が請求を認諾した場合もこれに当たるとする最高裁平成10年6月16日判決、住民訴訟を契機として地方公共団体が損害の填補を受けた(自主的に長が損害額を支払ったり、議員が損害金を返還した)ので、原告(住民)が訴えを取り下げた場合はこれに当たらないとする最高裁平成11年2月9日判決、最高裁平成17年4月26日判決などがあります。

相当と認められる額

また、「相当と認められる額」について、最高裁は、「住民訴訟において住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として社会通念上適正妥当と認められる額」とし、具体的には、「当該訴訟における事案の難易、弁護士が要した労力の程度及び時間、認容された額、判決の結果普通地方公共団体が回収した額、住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべき」としています(最高裁平成19年3月28日判決)。

このうち「住民訴訟の性格」というのは、客観訴訟ないし民衆訴訟であることを指していると思われますが、公益的活動に熱心に取り組んでいることを評価し、増額の考慮要素とするというのであればともかく、公益的活動であることから、減額の考慮要素とするというのであれば、考え違いも甚だしいと思います。弁護士を大幅増員し、弁護士法33条2項から8号(弁護士の報酬に関する標準を示す規定)を削除したということは、弁護士といえども市場競争に曝すという明確な意思表示であり、そうでありながら公益的活動を期待すること(あまつさえその報酬を減額すること)は背理ではないでしょうか。弁護士の職務の公益性は、職務遂行そのもの(法の支配)に求められるべきであり、個人的な経済的、労力的、時間的な過重負担(しかも、ほとんど一般に周知されていない。)に求められるべきではないと思います。

ともあれ、住民訴訟において、事案が易しく、弁護士が要した労力、時間が少ないということは稀でしょうから、結局のところ、認容された額、判決の結果普通地方公共団体が回収した額、すなわち経済的利益の額が最も重要な考慮要素になると思います。

判決の結果普通地方公共団体が回収した額

本判決は、「当該地方公共団体は、当該勝訴判決で認められた損害賠償等の請求権を行使することにより本来その認容額の全額を回収し得る地位に立つ」のであるから、「当該勝訴判決の結果現に回収された金員が、当該弁護士の訴訟活動によって当該普通地方公共団体が確保した経済的利益に当たる」のであり、「本件のような国庫補助金相当額の返還は上記請求権の行使とは別の財務会計行為によるもの」であるとし、「勝訴により確保された経済的利益の額として判決の結果当該普通地方公共団体が回収した額を考慮する際には、その額は、現に回収された額とすべきであり、現に回収された額からその回収に伴い国に返還されることとなる国庫補助金相当額を控除した額とすべきものではない」としました。