争訟法務最前線

第55回(『地方自治職員研修』2011年7月号掲載分)

選挙費用の公費負担制度における支出の違法

弁護士 羽根一成

今月の判例

選挙運動の公費負担制度に基づいて支払われたポスター作成費用、選挙運動用自動車の費用につき、候補者、業者に対する損害賠償請求権等の行使が命じられた事例(住民訴訟)(京都地裁平成23年2月24日判決)

選挙費用の公費負担制度

地方議会議員、首長選挙については、選挙公営制度の理念を実現するために、お金のかからない選挙、選挙運動の機会均等を目的として、選挙費用を無料とする制度があります。

すなわち、公職選挙法を受けた条例(○○市議会議員及び○○市長の選挙における公費負担に関する条例)により、ポスター作成費用、選挙用運動自動車の費用などについて、地方公共団体が公金を支出することになっています。

手続はやや複雑で、概ね、候補者と業者が有償契約(ポスター作成の請負契約、自動車の賃貸借契約、運転手の雇用契約など)を締結し、そのことを候補者が地方公共団体(選管)に届け出、候補者が業者に証明書を提出し、業者が地方公共団体に費用を請求し、地方公共団体が業者に費用を支払うという仕組みになっています。

この仕組みは、候補者と業者と間の有償契約に基づく候補者の債務について、地方公共団体が、候補者に代わって支払うというものですから、民法474条の第三者弁済に当たると解されます。

選挙費用の公費負担制度における支出の違法

本判決では、問題とされたもののうち、ポスター作成費用については、「元来同一の製品につき、公費負担のある部分を有償とし、公費負担のない部分を無償と」しているもの、「元来同一の製品につき、公費の負担のある部分と、公費の負担のない部分とで、単価に差がある」ものに限り、有償分・公費負担のある部分の単価に、無償分・公費負担のない部分の単価を上乗せしていることになるといわざるを得ないとして、選挙運動用自動車の費用については、「選挙期間全体を担当した運転手が複数いる場合に、そのうちの1人が代表者として(引用者注:当該代表者が運転していない日の分も含めて)費用のすべてを請求して受領し、その後協議してこれを他の運転手に分配する」ものに限り、「条文の文言からすれば、運転手報酬の支払いを受け得るのは、選挙期間の各日について、その日に実際に運転した者のみであり、しかもそれが複数の場合は、うち1名のみであると解するほかな」いとして、違法と判断されました。

議員に関連する公金の支出が問題となる典型として、政務調査費があり、政務調査費の場合は、地方公共団体が、支出科目から適否をチェックする余地がありますが、選挙費用の公費負担制度の場合は、そもそも支出科目が限定されており、地方公共団体が、そこから適否をチェックすることは困難ですから、請求の内容は、候補者、業者に対する損害賠償請求権等の行使を求めるものになってます。

実務上の参考になる事項

本判決は、選挙費用の公費負担について次のように述べており、実務上の参考になると思います。

(1)選挙運動用ポスターではない一般用ポスターの実勢価格や民間における相場を超える高額なものであったとしても、違法とはいえない。(2)既に原版作成費用等が計上されている場合に、後に発注された分について原版作成費用等を含めずに単価を設定することは、契約当事者として合理的である。(3)掲示板用ポスターの方が、室内用ポスターよりも、材料等について高額なものが用いられているというのは合理的である。(4)車両運送法80条1項の許可を受けた貸渡約款に反する契約が締結されたとしても、その契約は、必ずしも私法上無効となるわけではない。(5)選挙運動用自動車の賃貸については、通常の場合よりも高額の料金設定がされても、直ちに不合理とはいえない。(6)賃貸人が車両運送法80条1項の許可を受けていない者であっても、同法の規制の潜脱となるような場合を除いて、条例が、同賃貸人との間で選挙用自動車を賃借した場合の賃料を支払うことは想定していないとはいえない。