争訟法務最前線

第63回(『地方自治職員研修』2012年3月号掲載分)

選挙管理委員会委員の月額報酬制

弁護士 羽根一成

今月の判例

選挙管理委員会委員について、条例で、月額報酬制を採用することは許される(最高裁平成23年12月15日判決)

日額報酬制の原則

地方公共団体には、条例上のものを含めるとけっこうな数の委員会(地方自治法138条の4、180条の5等)が設置されているようですが、原判決(大阪高裁平成22年4月27日判決)によれば、「全国のほとんどの地方公共団体が各種委員について月額報酬制を半世紀以上継続して採用」しているということです。委員(非常勤職員)を引き受ける側からすれば、事前準備分が反映されないなど、負担に比して報酬が低廉になる日額報酬制よりも、月額報酬制の方がありがたいところですが一方で、地方自治法は、「前項の職員(引用者注:非常勤職員)に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。」(203条の2第2項本文)とし、「ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。」(同項但書)としています。

本判決は、月間の平均登庁実日数が1.89日にすぎない選挙管理委員会委員についても、条例で、月額報酬制(月額20万2000円)を採用することは許されるとしましたが、これは、自治立法権、自治組織権といった思想の下に、議会にフリーハンドを認めたものではないようです。

すなわち、地方自治法203条の2第2項を、日額報酬制を原則としつつ、月額報酬制その他日額報酬制以外の報酬制度について、議会の裁量権に基づく判断に委ねた規定と解して(もっとも、委任規定という趣旨ではないように思われます。)、「当該非常勤職員の職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸般の事情を総合考慮して、当該規定(引用者注:条例の規定)の内容が、同項の趣旨に照らし、合理性の観点から上記裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものであるかどうかによって判断する」としています。

選挙管理委員会委員

本判決が、月間の平均登庁実日数が1.89日を超える委員会の委員であれば、月額報酬制を採用することが許されるとしたものでもないことには注意を要します。

すなわち、本判決は、選挙管理委員会委員の職務の性質・内容・職責、勤務の態様・負担等を詳細に検討していますので、これらについて同程度の実質を有する委員会の委員である必要があるように思います。

なかでも、前者について、「その業務に堪え得る一定水準の適性を備えた人材の一定数の確保が必要であるところ、報酬制度の内容いかんによっては、当該普通地方公共団体におけるその確保に相応の困難が生ずるという事情があることも否定しがたいところである。」、「公正中立性に加えて一定程度の専門性が求められているものということができる」、後者について、「広範で多岐にわたる一連の業務について執行権者として決定をするには各般の決裁文書や資料の検討等のため登庁日以外にも相応の実質的な勤務が必要となる」、「選挙期間中における緊急事態への対応に加えて衆議院議員や県議会の解散等による不定期な選挙への対応も随時必要となる」、「これらの争訟に係る案件についても、登庁日以外にも書類や資料の検討、準備、事務局等との打合せ等のために相応の実質的な勤務が必要となる」、「上記のような業務の専門性に鑑み、その業務に必要な専門知識の習得、情報収集等に努めることも必要となる」とする判示などは、注目に値するように思います。

給与条例主義

非常勤職員の報酬の額、支給方法については、月額報酬制を採用するまでもなく、条例で定めていなければなりません(同法203条の2第4項)。「常勤の職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内において別に任命権者が定める。」とする規定が少なくありませんが、これを「裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものであるかどうかによって判断する」とどうでしょうか。