争訟法務最前線

第51回(『地方自治職員研修』2011年3月号掲載分)

議会の議決に付すべき財産の取得・処分の基準

弁護士 羽根一成

今月の判例

議会の議決を要する土地の買入れなのかどうかは、事業を単位とするのではなく、売買契約(地権者ないし筆)を単位として判断する。(千葉地裁平成22年12月17日判決)

1 議会の議決事項

地方自治法96条1項各号の定める議会が議決すべき事項の1つに、「政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得または処分をすること」(8号)というのがあります。

この政令である地方自治法施行令121条の2第2項及び別表第4では、700万円を下らない不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地については、市町村にあっては、1件5000㎡を超えるものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払いを基準とすることを定めており、条例(議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例)では、この政令の基準の上限を議会が議決すべき財産の取得または処分とすることを定めているのが一般的であると思われます。

すなわち、市町村が土地を買い入れる場合は、その代金額が700万円を超えるときでかつ目的物が5000㎡を超えるときは、議会の議決を要するわけです。

2 問題の所在

問題となるのは、代金額が700万円を超えるときでかつ目的物が「1件」5000㎡を超えるときというのは、何を単位として判断するのかという点です。

すなわち、1筆の土地を買い入れる場合であれば何の問題もないのですが、道路整備事業のための道路用地の取得のように、1つの事業のために、1地権者が所有する数筆の土地を買い入れたり、数人の地権者がそれぞれ所有する数筆の土地を買い入れたりする場合には、売買契約(地権者ないし筆)を単位として判断すればいいのか、事業を単位として判断すべきであるのかが問題となります。

3 「1件」の意味

地方自治法96条1項8号が、土地の買入れを議会が議決すべき事項とした趣旨は、「一定の額を超える又は一定の大きさを超える財産の取得は、普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであることから、その財産取得の価格の適否、その財産取得の必要性などについて、議会が審査すること」にあると解されますから、なるほど、議会による審査を広く及ぼそうとすれば、事業を単位として判断すべきであるということになります。

しかし、売買契約の内容(とくに土地の価格)は、契約(地権者ないし目的物)ごとに異なりうるものであり、その適否は契約ごとに判断されるべき事柄ですし、通常、「1件」というのは契約の個数を指しますから(土地の買入れが、常に事業のためとは限りません。)、上記1で述べた法(政令、条例)が事業を単位とすることを予定しているとはいえないでしょう。

そうすると、事業を単位とすれば代金額が700万円を超えるときでかつ目的物が1件5000㎡を超えるとして、議会の議決を経ていないことを理由に、売買代金の支出命令は違法であり、支出命令者に損害賠償を請求しなければならないということはできないことになります。

4 留意すべき事項

本判決は、上記3と同旨を判示したうえで、ただし、「法の制限を潜脱することを目的として、本来であれば1個の売買契約によるべき土地をことさら細切れにして売買契約を締結した場合においては、このこと故に、違法となる場合がありうる」としており、もとより、このことには留意する必要があります。

なお、土地の売払いの事例ですが、1筆の土地を数筆に分筆しても、法の制限を潜脱したことを目的としたものではないとした参考判例として大阪地裁昭和55年6月18日判決(判例タイムズ425号95頁)(控訴審:大阪高裁昭和56年5月20日判決、上告審:最高裁昭和62年5月19日判決)があります。