争訟法務最前線

第54回(『地方自治職員研修』2011年6月号掲載分)

住宅用地の特例

弁護士 羽根一成

今月の判例

家屋の建替え中のため居住用家屋が存しない土地も「敷地の用に供されている土地」(地方税法349条の3第1項、2項)に当たり、住宅用地に対する課税標準の特例の適用がある。(最高裁平成23年3月25日判決)

固定資産税の課税標準と住宅用地の特例

住宅用地については、住宅政策等の観点から、固定資産税の課税標準が、(1)一般住宅用地については評価額の3分の1(地方税法349条の3の2第1項)、(2)小規模住宅用地(主として200平方メートル以下の住宅用地)については6分の1とされており(同条2項)、一般の宅地に比して格安となっています。この特例の適用を受けるためには、宅地が「住宅用地」に当たらなければなりませんが、住宅用地とは、「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋・・・の敷地の用に供されている土地・・・」(地方税法349条の3の2第1項)のことをいいます。「敷地の用に供されている」というのですから、現に居住用家屋の敷地となっている宅地でなければならず、例えば、将来に居住用家屋を建築する予定地は特例の対象とならないことになります。

家屋の建替えと住宅用地の特例

家屋を建て替えるには、家屋を取り壊さなければなりません。家屋を取り壊すと宅地上に居住用家屋が存在しない状態になります。そのために、特例の対象とならず、固定資産税の課税標準が跳ね上がるのでは、家屋の建替えを躊躇させ、住宅政策の観点からも、課税の公平の観点からも、好ましくありません。

そこで、東京都では、通達により、(1)当該土地が当該年度の前年度に係る賦課期日において住宅用地であったこと、(2)住宅の新築が建替え前の住宅の敷地と同一の敷地において行われるものであること、(3)当該年度の前年度にかかる賦課期日における建替え前の住宅の所有者と建替え後の住宅の所有者が同一であること、(4)当該年度に係る賦課期日において、住宅の新築工事に着手しているか、又は、確認申請書を提出していて確認済証の交付後直ちに(既に確認済証の交付を受けている場合は直ちに)住宅の新築工事に着手するものであることという要件をすべて具備する土地については、住宅が完成するまでに通常必要と認められる期間中は、従前の住宅用地の認定を継続することとしていました。

このような東京都の措置は、家屋の建替え中のため居住用家屋が存しない土地は「敷地の用に供されている」に当たらないことを前提としつつも、実質的にこれと同視できる場合には、納税義務者に有利に取り扱うようにしたものになります。ですから、建替え中に所有権が移転した場合に、(3)の要件を欠くとして特例の対象としなくても、本来あるべき状態に戻ったにすぎないということになります。

最高裁の判決

本件は、平成16年7月に着工し、建替え中の平成18年4月に所有権が移転したという事案ですが、最高裁は、「平成17年度の固定資産税の賦課期日である平成17年1月1日における本件土地の現況は、居住用家屋であった旧家屋の取り壊し後に、その所有者であった上告人を建築主とし、同16年7月26日から平成17年5月31日までを工事予定期間と定めて、居住用家屋となる予定の新家屋の建設工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあったということができる。このような現況下では、本件土地は上記「敷地の用に供されている土地」に当たるということができ」ると判示し、家屋の建替え中のため居住用家屋が存しない土地も「敷地の用に供されている」に当たるとしました。

これは、固定資産税(さらには都市計画税)について、税務行政の考え方とは180度異なる判断がなされたものとして、重要な判例であるように思います。今後は、家屋の建替え中のため居住用家屋が存しない土地については、各年度の賦課期日(1月1日)毎に、「敷地の用に供されている土地」に当たるのかどうかを判断していく必要があり、それで足りることになります。