争訟法務最前線

第71回(『地方自治職員研修』2012年11月号掲載分)

連帯保証人に対する公営住宅の家賃の請求が権利濫用として許されないとされた事例

弁護士 羽根一成

今月の判例

連帯保証人に対する公営住宅の家賃の請求が権利濫用として許されないとされた事例(広島地方裁判所福山支部平成20年2月21日判決)

督促

地方公共団体は、債務者に履行遅滞があるときは、期限を指定して督促しなければならず(自治法施行令171条)、督促後相当期間を経過しても履行されないときは、保証人に対して請求しなければならないとされています(自治法施行令171条の2第1号)。

すなわち、公営住宅の入居者が納付日までに家賃を支払わないときは、督促状を送付し、それでも支払いがないときは、連帯保証人に請求することが、地方公共団体の義務とされています。

履行遅滞後いつまでに督促しなければならないのかについて規定はありませんが、債権回収の基本は早期着手です。とくに公営住宅の場合は低所得者(世帯の収入が下から4分の1の階層)を対象としており、1回滞ると、翌月に2回分をまとめて支払うことは困難となり、さらに滞納が蓄積すると、それを解消して解決することはほとんど不可能となりますので、債権回収の観点からは、督促を見合わせる理由がありません。

連帯保証人への請求時期についても規定はなく、連帯保証人の場合、催告の抗弁、検索の抗弁がありませんので(民法454条)、極端な話、入居者より先に連帯保証人に請求することも可能です(自治法施行令171条の2第1項は禁止規定ではありません。)。督促しても入居者から支払いがないときに、連帯保証人に請求するのが常識的であると思いますが、債権回収の観点からは、やはり、必要以上に連帯保証人への請求を見合わせる理由がありません。連帯保証人にとっても、滞納が蓄積した後に突然請求されるのでは、思いもかけない大きな出費を余儀なくされることになり、トラブルの原因となります。

さらに、連帯保証人への請求を長期間放置、失念していると、それができなくなることがある、とするのが本判決です。

信義則違反、権利濫用

本判決は、連帯保証人に対して、滞納家賃約10年分と遅延損害金の合計300万円を請求した事案において、「明渡請求訴訟の提起を猶予する等の処置をするに際しては、・・・滞納額の増加の状況を連帯保証人に適宜通知して連帯保証人の負担が増えることの了解を求めるなど、連帯保証人に対しても相応の措置を講ずるべきものである」としたうえで、連帯保証人への請求は権利濫用として許されないとしました。

最高裁は、民間の賃貸借において、「賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に違反するとして否定されることがあり得る」としていますので(最高裁平成9年11月13日判決)、本判決の結論はやむを得ないと思います。なお、契約当事者の意思表示の合理的解釈(保証人としての通常の意思に反する)として、保証人への請求を制限した裁判例(東京地裁平成6年6月21日判決)もあります。

しかし、「催告書を全く送付することなく、また訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり、原告には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず、その責任を棚に上げる一方、民法上、連帯保証における責任範囲に限定のないことや、連帯債務における請求の絶対効が認められていることなどから、被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として、敢えて本件訴訟提起に及んでいる」ことから権利濫用とする理由はどうでしょうか。

公営住宅の入居決定に期間の定めがなく、その更新がないこと、請求全額を棄却する必要があったことから、権利濫用としたものと思われますが、連帯保証人への請求制限は、滞納が蓄積する前に連絡があるものと期待、信頼していた保証人の保護に求めるべきであると思います。