争訟法務最前線

第58回(『地方自治職員研修』2011年10月号掲載分)

抗告訴訟にかかる上訴の提起と議会の議決

弁護士 羽根一成

今月の判例

抗告訴訟について、地方公共団体が控訴又は上告を提起するには、議会の議決を要しない(最高裁平成23年7月27日判決)

訴え提起と議会の議決

地方自治法96条1項は、議会の議決を要するものについて規定しており、同項12号は、そのうち、不服申立て、訴えの提起、和解、斡旋、調停、仲裁について規定しています。

訴えの提起に議会の議決を要するということは、議会の議決が訴訟要件であるということを意味し、議決証明書を提出しないと、訴えが不適法なものとして却下されるということになります。

訴えの提起に当たるものとして、解説書には、(1)第一審の訴え提起、(2)上訴(控訴、上告など)の提起(ただし、第一審の訴え提起の議決の際に特段の議決がなければ不要)、(3)附帯控訴などが挙げられており、それに当たらないものとして、(1)被告としてする応訴、(2)支払督促の申立て(ただし、異議が申し立てられ訴訟に移行するときは必要)、(3)保全命令の申立て、(4)民事再生手続開始の申立てなどが挙げられています。

抗告訴訟と議会の議決

訴えの提起に当たるものとして上訴(控訴、上告など)の提起が挙げられ、それに当たらないものとして被告としてする応訴が挙げられているということは、地方公共団体に対する抗告訴訟(処分取消訴訟、処分無効確認訴訟、不作為違法確認訴訟、義務付け訴訟など)については、地方公共団体が敗訴し、上訴を提起する段階で、議会の議決が必要となってくるということになりそうです。

しかし、地方自治法96条1項12号は、訴え提起について、「訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第3条2項に規定する処分又は同条3項に規定する裁決をいう。・・・)に係る同法第11条1項(同法第38条第1項・・・において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟・・・に係るものを除く。)」と規定しています。この規定は、要するに、地方公共団体に対する抗告訴訟については、訴えの提起に議会の議決を要するとはしないということを謳っています。

原審(福岡高裁)が前者により、地方公共団体の上告及び上告受理の申立てを却下したのに対して、最高裁は、「地方自治法96条1項12号は、「普通地方公共団体がその当事者である・・・訴えの提起」について、その議会の議決を要する事項と定めており、この「訴えの提起」には、控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てが含まれると解される。その一方で、同号は、この「訴えの提起」のうち、普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る当該普通地方公共団体を被告とする抗告訴訟に係るものについては、取消訴訟の被告適格を定める行政事件訴訟11条1項の規定が同法38条1項により取消訴訟以外の抗告訴訟に準用される場合を含めて、抗告訴訟の類型の種別を問わず、その議会の議決を要する事項から除外している。したがって、普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る当該普通地方公共団体を被告とする抗告訴訟につき、当該普通地方公共団体が控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをするには、地方自治法96条1項12号に基づくその議会の議決を要するものではない。」とし、後者によることを明らかにしました。

地方自治法96条1項12号の規定からすれば、後者によるべきことは明らかで、原審が前者によった理由は(資料が入手困難なため)わかりませんが、「本件上告及び上告受理の申立てがされた翌日に同議会がこれらの取下げを求める旨の決議をした」という事情があったようです。このことについて、最高裁は、「なお、上記の抗告訴訟につき当該普通地方公共団体が適法な控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをした場合には、その議会がこれらの取下げを求める旨の議決をしたとしても、これらの効力が左右されるものではない。」と念を押しています。