争訟法務最前線

第45回(『地方自治職員研修』2010年9月号掲載分)

国賠請求訴訟において、行政行為の違法性を主張するにあたり、あらかじめ取消訴訟で当該行政行為の違法性を確定しておく必要がないことは、課税処分の場合であっても変わらない

弁護士 羽根一成

今月の判例

国賠請求訴訟において、行政行為の違法性を主張するにあたり、あらかじめ取消訴訟で当該行政行為の違法性を確定しておく必要がないことは、課税処分の場合であっても変わらない。(最高裁平成22年6月3日判決)

公定力とその限界

行政行為には公定力が認められ、たとえ違法であっても、取消訴訟などで取り消されない限り、有効なものとして扱われます(最高裁昭和30年12月26日判決)。

分限免職処分を例にとると、それがたとえ地方公務員法28条1項各号に定める要件を欠く違法なものであったとしても、不服申立て(地方公務員法49条の2第1項)または取消訴訟などで取り消されない限り、有効なものとして扱われ、職員はその身分を喪失します。なお、取消訴訟を提起するには不服申立てを前置するものとされ(地方公務員法51条の2)、不服申立ては60日以内にしなければならないとされます(地方公務員法49条の3)。

そうすると、60日以内に不服申立てをせず、もはや取り消す余地がなくなった場合には、分限免職処分は、たとえ違法なものであったとしても、有効として扱われることが確定するわけですから、それによって被った損害の賠償を請求すること(国賠法1条1項)もできなくなるように思いますが、そうではありません。

公定力は、あくまでも行政行為の法的効果に関するものであるところ、国賠請求は、行政行為の効果に影響を及ぼすものではなく(すなわち、国賠請求が認容されても、分限免職処分の効力が否定されることにはならない)、公定力に抵触しないから、国賠請求訴訟を直ちに提起することができるのです。

課税処分と公定力

本判決は、違法な固定資産税の賦課決定について、「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得ると解すべきである。」としました。

課税処分の場合は、それが金銭を納付させることを直接の目的とする行政処分であることから、直ちに国賠請求訴訟を提起することができるとすると、税務署長に対する異議申立て→国税不服審判所長に対する審査請求→取消訴訟というルート(国税の場合)がまったく無意味になってしまうので、公定力が及ぶとするのが通説(塩野宏『行政法Ⅰ行政法総論』第4版134頁)でしたが、本判決は、最高裁が課税処分の場合にも上記の理を徹底して、通説とは異なる見解を採用したものとして、重要な判例であるといえると思います。

住民訴訟と公定力

最高裁は、住民訴訟においても、上記の理を徹底しているようです。すなわち、分限免職処分を受けた職員に対して支給した退職手当相当額について、分限免職処分が違法であることを理由として、住民が市長に対して、市を代位して損害賠償請求をした事案において、原審が、分限免職処分には公定力があり、たとえ違法であっても、取り消されるまでは有効と扱わざるを得ず、それに基づく退職手当の支給は違法とはいえないとしたのに対して(東京高裁昭和55年3月31日判決)、最高裁は、財務会計行為が「違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となるのである」として、原審の考え方に与しませんでした(最高裁昭和60年9月12日判決)。

住民訴訟(損害賠償請求)が認容されても、分限免職処分の効力が否定されることにはならず、住民訴訟は公定力に抵触しないから、住民訴訟も直ちに提起することができるのです。