争訟法務最前線

第48回(『地方自治職員研修』2010年12月号掲載分)

地方公共団体による貸付け

弁護士 羽根一成

今月の判例

同和高度化事業にかかる貸付けが適法とされた事例(京都地裁平成22年7月22日判決)

貸付けが違法となる場合

本判決は、地方公共団体による貸付けが違法となる場合について、「貸付けの判断は、支出負担行為を行う担当機関の合理的な判断にゆだねられているといえ、当該貸付けについての公益性、償還可能性、担保の徴求の程度、法令遵守等の諸般の事情から、その判断が著しく不合理である場合には、裁量の逸脱・濫用が認められ、貸付けが違法となり、貸付けにかかる支出負担行為が不法行為になり得る」としたうえで、「例えば、法令や当該地方公共団体の規則等により、当該貸付けを行う際にとるべき手続が定められ、かつ、当該定めの内容自体が上記の公益性等の観点から不合理なものでない場合には、当該定めに従って行われた貸付けについては、原則として、支出負担行為を行う担当機関の合理的裁量の範囲内で行われたものと解することができる」としています。

貸付けに対する規制

地方公共団体は、本件で問題となった同和高度化事業にかかる貸付けのほかにも、街づくり宅地住宅資金貸付け、生活一時資金貸付け、奨学資金貸付けなど種々の金銭の貸付け(金銭消費貸借)をしており、これらの貸金返還請求権は、地方公共団体の有する債権のうち相当部分を占めているといわれます。

ところで、地方自治法には、地方公共団体の補助・寄付(贈与)については、「公益上必要がある場合」(232条の2)という規制がありますが、貸付けについては、その存在を前提とする規定(地方自治法施行令171条の6第5号など)はあるものの、それを規制する規定が見当たりません(「財産」(237条1項)である「物品」から「現金」が除外される結果(239条1項1号)、237条2項の適用もありません。)。

したがって、地方公共団体は、その裁量により、貸付けをすることができると考えて差し支えないと思います。しかし、そうだからといって、地方公共団体が好き勝手に貸し付けることができるわけではないことは、縁故者に対する無利息での貸付けの場合を想起すれば明らかです。本判決が「裁量の逸脱・濫用」といっているのは、この趣旨でしょう。

公益上の必要性

本判決によれば、「公益性」の大小(優劣)を裁判所が判断するようですが、そもそも貸付けにかかる裁量権の逸脱・濫用を問題とするに当たって、「償還可能性、担保の徴求の程度」を考慮すべきでしょうか。地方公共団体は、返済の見込みが十分でなくても、また担保の確保が十分できなくても、あえて貸し付けることがあります(生活一時資金貸付け、奨学資金貸付けなど)。公益上の必要性があれば、贈与することさえできるのですから、貸付けをすることも、公益上の必要性があればできていいはずです。(なお、手続について規定があれば、それを遵守しなければならないことは当然のことですから、「法令遵守」は、裁量の逸脱・濫用とは別の問題だと思います。)

ところで、補助金の交付を非難するときに、当該補助金の交付に公益性があるのかないのかについては、地方公共団体の裁量に委ねられているが、その裁量の逸脱・濫用があるという主張を目にすることがあります。

しかし、地方自治法が要求しているのは、公益上の必要性であり、公益性だけではありません。そして、公益性は、地方公共団体の裁量によって、あったりなかったりするものではなく、目的を達成するためにいかなる手段をとる必要があるのかについて判断の余地があり、それが、地方公共団体の裁量に委ねられていると分析的に考えるのが正確ではないでしょうか。すなわち、公益上の必要性という要件は、目的に公益性があって、手段に必要性(関連性)があることであり、前者についてはその有無が、後者についてはその裁量の逸脱・濫用が問題となるように思います。