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007

H16.12.22 東京高裁

損害賠償請求控訴,附帯控訴事件

平成15年(ネ)第5365号損害賠償請求控訴,平成16年(ネ)5987号附帯控訴事件
平成16年12月22日判決言渡
(原審・横浜地方裁判所平成14年(ワ)第1158号)

判   決

控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」という。)X市
代表者水道事業管理者水道局長 A
訴訟代理人弁護士 橋本 勇
被控訴人(附帯控訴人,以下「被控訴人」という。)Y株式会社
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 C 外5名

主   文

1 原判決主文1項を次のとおり変更する。
(1)控訴人は,被控訴人に対し,12万5700円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求に係る主位的請求を棄却する。
2 控訴人は,被控訴人に対し,3332万7432円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は,1,2審を通じて全部控訴人の負担とする。
4 この判決は,主文2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 当事者の求める裁判
(控訴)
1 控訴人
(1)原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。

2 被控訴人
(1)本件控訴を棄却する(被控訴人は,当審において,従前の国家賠償法2条1項による損害賠償請求を主位的請求とし,その主たる請求の額を3332万7432円として1円減縮した。)。
(2)控訴費用は,控訴人の負担とする。

(附帯控訴)
1 被控訴人
(1)主文2項と同旨(附帯控訴をした上,上記主位的請求に予備的に追加した請求である。)
(2)附帯控訴費用は,控訴人の負担とする。
(3)仮執行宣言

2 控訴人
(1)本件附帯控訴に係る予備的請求を棄却する。
(2)附帯控訴費用は,被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要等
事案の概要は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」に記載のとおりであり,証拠関係は,本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから,これらを引用する。なお,被控訴人は,当審において,本件附帯控訴をした上,従前の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求を主位的請求とし,これに民法717条1項の土地の工作物の占有者又は所有者の責任に基づく損害賠償請求を予備的請求として追加した。

1 原判決書2頁5行目の「水需要者所有の」を削り,8行目の「被告が」の次に「所有するか,少なくとも」を,24行目の「原告所有のガス管」の次に「(以下「本件ガス管」ともいう。)」を,末行の「公道」の次に「(X市道)」をそれぞれ加え,3頁2行目の「同人所有の」を削り,15行目の冒頭から4頁7行目の末尾までを次のとおり改める。

「(1)国家賠償法2条1項の責任の有無(争点(1))
(被控訴人の主張)
ア 水道事業は,国民生活に不可欠な水を一般の需要に応じて水道により供給する事業であり,水道とはその導管及びその他の工作物により,水を人の飲用に適する水として供給する施設の総体をいうものである(水道法3条1項,2項)。水道事業は施設の総体が機能して初めて清浄な水を供給するという水道事業の目的が達成されるのであって,道路に埋設されている個別の給水管を分離独立してその性格を論ずるべきではなく,給水管も,配水管と同様に総体としての水道施設の一部として清浄な水を供給する機能を有しており,これが公の営造物として公の目的に供されているということができる。

また,控訴人は,本件給水管について所有権譲渡を受けておりこれが公の営造物であることは明らかである。すなわち,本件給水管が埋設されている団地水道管に係る昭和48年2月27日付け「分岐承諾に関する申出書」(甲A47)によると,団地内の各区画に引き込まれた水道管につき,給水申込みの分岐承諾書をもって所有権譲渡も含むこととし,また,将来道路内の配水本管がX市に移管された場合,道路横断部分は自動的に給水申込者から無償譲渡することを誓約するとされており,したがって,昭和52年の公道移管(乙A27)の際に,本件給水管は自動的に控訴人に譲渡されたものというべきである。

イ 仮に,控訴人が本件給水管を所有していないとしても,国家賠償法2条1項にいう公の営造物の管理者とは,必ずしも当該営造物について法律上の管理権ないしは所有権,賃借権等の権原を有している者に限られるものでなく,事実上の管理をしているにすぎない国又は公共団体も同条にいう管理者に含まれるものであり,控訴人は次のとおり本件給水管について法律上の管理義務を負っているか,又は少なくとも事実上管理していることは明らかである。

(ア)控訴人は,道路管理者に対しては,公道下に埋設されている給水管について,占用企業者として,①給水管の道路占用許可申請は水道局長の名義で行われ,その際には「常時良好な状態に保つ義務」の履行が許可条件とされている(乙A9)こと,②昭和44年の通達(乙A8)から,控訴人が占用企業者として,具体的に地下占用物件の把握,工事方法の協議立会,占用物件埋設後の維持管理の強化等種々の義務を負っていること,③占用期間が満了した際の占用の更新も占用企業者として水道局長が行っている(甲A50の①ないし⑤,51の①ないし③,乙A9)こと,④道路工事等に起因して給水管の移設が必要となったときは,水道局長に対して道路法71条に基づく行政指導が行われ,水道局長の責任で移設していること,⑤ガス工事が給水管に影響を与える可能性がある場合は,立会の依頼を水道局営業所あてに行い,必要に応じて水道局の職員が立ち会っていることなどからして,道路占用の申請からその後の維持管理まで,控訴人は占用企業者として種々の法律上の義務を負っている。

(イ)控訴人は,公道下の給水管の管理について,水道局の中に漏水管理所を設け,数年ごとにX市内の地下漏水を調査している。控訴人は,道路内の漏水についての連絡先は水道局のみであり,また,給水管の使用者又は所有者に公道下の給水管についてまで維持管理を要求するものではないとの広報活動(控訴人のホームページにおいては,敷地内の漏水については水道局・指定給水装置工事事業者とする一方,道路の漏水の場合には水道局のみを記載しているほか,パンフレット(乙A12の①ないし⑧)には「各ご家庭に引き込まれた給水管,止水栓,蛇口など」については「あなたの財産であって各ご家庭で管理していただくものです。」と記載されているのみで公道下の給水管について水需要者の負担で管理すべきものとはされていない。)を行っている。さらに,X市水道局発行の「給水装置工事設計・施工指針(平成15年12月1日改正)」(甲A25の①ないし④)によれば,水質責任分界点は,宅地内のメーター下流地点であり,配水管から分岐した道路下の給水管を越えた宅地内のメーター下流地点まで,水道局の水質責任を認めている。その他,控訴人は,公道下の給水管が漏水した場合に無償で修理をしている。

(ウ)昭和38年の「公道内私設管移管取扱要綱」(甲A43の①ないし⑧)を改訂した昭和50年5月1日実施の「給水装置工事に係わる公道内私設管取扱要綱」(甲A44の①ないし⑥)によると,「公道内私設管のうち私有地へ引き込むため公道内を横断して布設されたもの」は譲渡(寄付)の対象外とする旨規定されている(3条2項ただし書)が,同時に同条3項においては「公設管から直接分岐し,公道内を横断する私設管の維持管理は,所有者からの異議の申し立てがない限り,管理者が行う。」としており,明白に給水管について管理者(X市水道事業管理者)の維持管理責任を規定している。

ウ 控訴人は,当審において本件給水管とガス管との離隔距離について主張しているが,この点に関しては原審において明示的に攻撃防御の対象から外されていたものであり(控訴人の平成14年10月23日付け準備書面(3)において,隔離距離についての記述は地下埋設物設置者としての常識的な設置義務について述べただけで,給水装置が公の営造物であることを前提とし,過失相殺等の主張をするために述べたものではない。」と主張し,D陳述書(乙A10)の第9項「隔離距離について」の陳述部分が削除され,双方の証人尋問でも立証対象外とされた上,平成15年6月20日の第8回口頭弁論期日において,控訴人は本件事故について過失相殺の主張は行わないと述べ,その旨口頭弁論調書に記載されたことなどに照らすと,控訴人の上記主張は,訴訟上の信義誠実をないがしろにし,民事訴訟法156条に反するもので,時機に後れた攻撃防御として却下されるべきである。

さらに,近接して施工されたことを問題とするなら,むしろ給水管が後に埋設されたものといえる。すなわち,供給管装置図面(甲A35)にはNO733との記載が図面上部にあり,これと甲A2の配管図にある733との表示を比較すると昭和47年12月15日に,先に本件ガス管を被控訴人が埋設したことが分かるものである。平成2年に本件ガス管が埋設されている市道の舗装工事がされたが,その際,被控訴人は,ガス管を敷設し直したが,ガス管本管口径100ミリメートルからの取り出し位置を変えずに継承し,従前より距離を開けて離隔をとった(すなわち,取り出し位置から0.5メートルほどは当初埋設時の位置にガス管を埋設したが,その先の車道6メートルの道路横断部分は当初の位置から離隔をとった(甲A4の②,5の③)のであって,乙A19の近接の離隔について1センチとの客観的な根拠はない。)。以上によれば,むしろ控訴人の側にこそ責任が存するというべきである。

(控訴人の主張)
ア 本件配水管は控訴人が管理する配水施設として水道施設に属し,本件給水管は配水施設から分岐して設けられた給水管として給水装置に属するものであるところ,水道法14条及び同法施行規則12条2(2)チにおいて,水道事業者が給水装置の管理責任について定めることとされており,これを受けたX市水道条例17条1号において,給水装置の管理責任がその使用者又は所有者にあることを定め,給水装置である本件給水管の管理責任は水需要者が負っているものである。本件給水管は,水需要者の所有に属し,その利用に供されるものであって,控訴人又は控訴人が代表する市民若しくは需要者一般の利益に寄与しているものでもなく,公の目的に供されているものでもなく,公の営造物には当たらない。本件給水管が公道下にあるからといって公の目的に供されていると解することはできない。

本件給水管はE株式会社(その後E’株式会社に商号変更。以下「E」又は「E’」という。)から需要者であるF(以下「F」という。)に譲渡された後に同人から控訴人に譲渡されることとされている(甲A47)にもかかわらず,本件においては,そのような事実はなく,依然としてE’の所有及び管理の下にとどまっており,控訴人が本件給水管を通じて需要者に水道を供給するという事実上の関係を生じたこともない。また,本件配水管は,当初Eが所有・管理する私道に同社が給水装置として設置・管理していたものであるが,当該私道がX市に譲渡されて公道となったことから,昭和52年3月7日に当時の所有者であったEから控訴人に譲渡されたものであるが,この譲渡の対象には本件給水管は含まれていなかったものである(乙A21)。

イ 本件給水管は,水需要者が設置し,その後も同人が所有・管理しているものであり,控訴人はそれを修繕等する権限もない。
控訴人は,道路内の漏水についての連絡先は水道局のみであり,給水管の使用者又は所有者に公道下の給水管についてまで維持管理を要求するものではないとの広報活動を行ったことはない。控訴人が発行するパンフレットや作成するホームページでは,公道下にある給水装置(給水管)は需要者の負担で設置し管理すべきことを周知しているし(乙A12の①ないし⑧),新たに給水管が設置されたときは,その工事を担当した業者からその発注者である需要者に対して工事図面の写しを渡して,当該需要者が公道下にある給水管についても管理しなければならないことを説明するように指導している(乙A13)。控訴人が,道路内の漏水について水道局に連絡すべきこととしているのは,漏水の事実だけでは漏水箇所が特定できず,漏水箇所にかかわらず交通事故につながるおそれもあることから,控訴人としても直ちに事実関係を調査し,道路管理者や警察等の関係行政機関に通報する必要があることによるものであり,そのことによって需要者の修繕(管理)義務を免除するものではない。調査の結果,漏水が給水装置によることが判明した場合は,需要者が水道工事店に依頼して修繕するか,その暇がないときは控訴人が修繕することになるが,その場合でも需要者の管理責任が免除されるものではない。ところで,道路内における漏水の場合,その原因となる箇所が給水管であるときにも控訴人がその破損箇所等を修繕することがあるが,これは当該給水管についての管理責任があるからではなく,水道事業を経営する主体として,漏水による水資源の浪費及び商品としての水の逸失を防ぐ(道路内での漏水は計量されず,事実上料金を徴収することができない。)という自己の権利を防衛するためやむを得ず行うものであって,給水管の所有者の財産である給水管の維持保全を目的とするものではない。この場合,修繕費用を給水管の所有者に請求しないのは,緊急避難として行う修繕等について需要者の理解と協力を得るという政策的見地からされた判断によるものである。控訴人が,過去に公道下の給水管の管理責任を認めたことはあるが,当時は給水管の管理責任の所在についての認識が十分でなく,鑑定を依頼した弁護士の意見に従ったにすぎず,そのことの故に本件給水管の管理責任が控訴人にあるということにはならない。控訴人が,本件事故発生部分に係る給水管を持ち帰り,その後同給水管が所在不明となっていることは事実であるが,これは,そのような破損した給水管は需要者にとって不要な物であり,廃棄処分を依頼されるのが通常であることから,保管に慎重を欠いたとはいえ,そのことの故に本件給水管の管理責任が控訴人にあるとはいえない。

ウ 公の営造物の瑕疵というのは,そのものが本来有すべき安全性に欠けていることを意味するものであるところ,本件給水管は昭和47年ころ設置された口径25ミリメートルのもので,本件ガス管は同時期に設置され,その後平成2年1月に敷設替えされた口径25ミリメートルのものであり,本件破裂箇所における両者の間隔は1センチメートルにすぎず,このようなガス管の設置は昭和44年7月15日,ガス管,水道管の埋設位置及び深さに関し,建設省道路局の会議で取扱いが示された基準(他の埋設管,構造物等との隔離距離は0.3メートル以上とすること)(乙A16),昭和54年3月12日に告示されたX市の「道路占用許可基準」(水道管とガス管との間隔は,その中心間で50センチメートルを確保する。)(乙A18)及び昭和60年に被控訴人により作成された「ガス設備とその設計」(他設備との離隔距離としてガス管が50A以下の場合は平行離隔距離を20センチメートル以上とすべきことを明らかにしていた。)(乙A22)を無視し,専門家の常識に反する危険なものであって,適切な隔離距離が確保されていれば本件事故は生じなかったものであるから,本件ガス管を設置した被控訴人との関係においては,本件給水管の管理に瑕疵があったとすることはできない。

被控訴人は,本件給水管が昭和49年4月9日に工事が完了したものの一部であるから,同47年12月15日に埋設した本件ガス管よりも後に埋設されたものである旨主張し,供給管装置図面(甲A35)と配管図(甲A2)を比較すれば分かるとするが,この二つの図面を見て分かるのは733番の土地に本件ガス管が引き込まれていることだけであり,本件給水管との埋設の前後が分かるものではない。給水装置完了届(乙A3の①)によれば,本件給水装置工事はEが一団の土地の造成工事の一環として実施したものであり,それを請け負ったのはG株式会社(以下「G」という。)であり,本件ガス管の埋設工事を行ったのもGであることは,上記供給管装置図面により明らかであり,写真(乙A20)によれば,本件事故地点周辺においては水道管とガス管がほとんど接して埋設されており,その状況から両者は同一の時期に埋設されたものと考えざるを得ない。」

2 原判決書4頁8行目の「(2)本件事故と相当因果関係のある損害」を「(3)本件事故と相当因果関係のある損害(争点(3))」に,5頁1行目の「65万9234円」を「65万9233円」に,21行目の「(3)事務管理あるいは不当利得の成否」を「(4)事務管理あるいは不当利得の成否(争点(4))」に,23行目の「上記(2)」を「上記(3)」にそれぞれ改め,同行目の「損害賠償請求」の次に「(主位的に国家賠償法2条1項,予備的に民法717条1項に基づくもの)」を加える。

3 当審において追加された予備的請求(民法717条1項の土地の工作物の占有者又は所有者の責任)(争点(2))
(1)被控訴人の主張
ア 「土地の工作物」とは,土地に接着して人工的作業を加えることによって成立した物とされ,本件給水管も土地の工作物に該当する。

イ 「工作物の占有者」とは,工作物を事実上支配し,その瑕疵を修補し得て損害の発生を防止し得る関係にある者をいうところ,控訴人は,事実として公道(市道)下に位置する本件給水管を管理・支配してきており,瑕疵を修補して損害発生を防止し得る立場にあるので,土地の工作物である本件給水管の占有者に該当する。工作物の占有については,国家賠償法2条1項に基づく主位的請求についての主張((1)イ(ア)ないし(ウ))と同様である。

また,控訴人は,本件給水管について国家賠償法2条1項に基づく主位的請求についての主張((1)ア)のとおり,所有権譲渡を受けており工作物の所有者でもある。

ウ 工作物の「設置又は保存に瑕疵」があるとは,工作物が通常有すべき安全性に関する性状又は設備を欠くことをいうものであるところ,本件給水管が破裂して漏水したことは,通常有すべき安全性を欠いていることを意味するので,本件給水管について保存に瑕疵があったものである。

エ 本件給水管の保存に瑕疵があったため,本件事故が発生し,そのために被控訴人に損害が生じたが,損害の内容は原判決書4頁8行目の冒頭から5頁13行目の末尾まで記載の主位的請求の場合と同様(ただし,設計監督費は65万9233円である。)であり,損害の合計額は3332万7432円である。

(2)控訴人の主張
ア 本件給水管が土地の工作物であることは認めるが,控訴人が本件給水管を占有しているとの点やこれの所有者であるとの点はいずれも争う。国家賠償法2条1項に基づく主位的請求についての控訴人の主張(ア及びイ)のとおり,本件給水管は一度も給水の用に供されることなく,依然としてE’の所有及び管理の下にとどまっており,控訴人はこれを修繕等する権限もない。

イ 本件事故の原因は,国家賠償法2条1項に基づく主位的請求についての控訴人の主張(ウ)のとおり,必要最小限の離隔距離をとらないままに漫然と設置された本件ガス管の設置又は保存の瑕疵によるものであるから,本件給水管の設置又は保存に瑕疵があったということはできない。

第3 当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人の請求は,民法717条1項に基づく損害賠償請求に係る予備的請求3332万7432円及び事務管理による費用償還請求のうち12万5700円並びにこれらに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」(ただし,原判決書15頁5行目の冒頭から13行目の末尾まで及び24行目の冒頭から末行末尾までを除くほか,9頁19行目の「2 争点(2)について」を「4 争点(3)(本件事故と相当因果関係のある損害)について」に,12頁12行目の「請求額65万9234円,1円棄却」を「請求額認容」に,15頁16行目の「3 争点(3)」を「5 争点(4)(事務管理あるいは不当利得の成否)について」にそれぞれ改める。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決書6頁1行目の冒頭から9頁18行目の末尾までを次のとおり改める。

「1 証拠(甲A2,3の①ないし④,4の①,②,5の①ないし③,7の①,②,8,14の①ないし④(いずれも枝番を含む。),25の①,②,35,36,44の①ないし⑥,47,50の①ないし⑤,51の①ないし③,乙A1,3の①ないし⑩,5,7,9ないし11,20,21,27,32,33,証人D,同H)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

(1)本件給水管及びガス管の設置工事は,住宅団地の造成を行うEから発注を受けたGが行った。この中で,本件給水管を含む団地全体に係る給水装置の工事は,Eによって昭和47年5月30日に申請され,同年6月1日に審査を受けた後,同49年4月2日に工事が完了した旨の完了届が提出され,同月9日に完了が確認された。本件ガス管は,昭和47年12月15日に埋設された(甲A2,35,乙A3の①ないし⑦)。

(2)本件給水管の設置者であるEは,本件給水管を新設するに当たり,控訴人に対し,本件給水管について止水栓を開栓して盗水したり,器具類を破損したりすることのないように十分管理することを誓約した(乙A3の⑦)。

(3)本件給水管は,市道に平行して走る控訴人所有の配水管から,Fが所有する土地(以下「給水対象地」という。)へ水道水を供給するためのものであるが,給水対象地には家屋等はなく,水道メーターも設置されておらず,需要者による水道使用はなかったが,本件配水管と連結しており水道水が充満していた。本件給水管については,設置者であるEから需要者であるFに譲渡された後に同人から控訴人に譲渡されることが予定されていたが,正式にFへの譲渡手続がされたとの事実は明らかでない。なお,給水対象土地については,昭和48年3月12日売買を原因としてE’からFに所有権が移転した(同49年12月23日登記)(甲A36)。

(4)平成2年に本件ガス管が埋設されている市道の舗装工事がされたが,その際,被控訴人は,新たな舗装工事が行われた後は一定期間工事が制限されるとして,ガス管を敷設し直した。このとき,ガス管本管口径100ミリメートルからの取り出し位置は変えなかったが,従前より本件給水管との距離を開けて離隔をとった(取り出し位置から0.5メートルほどは当初埋設時の位置にガス管を埋設したが,その先の車道6メートルの道距横断部分は当初の位置よりも離隔をとった。)(甲A4の②,5の③)。その状況は別紙図面のとおりである。

(5)本件給水管の破裂箇所は,別紙図面のように本件給水管の所有者が所有する土地(図面上方)から見ると,幅員6メートルの車道(公道)を挟んだ反対側の歩道(公道)下に埋設された部分に存し,上記歩道下に埋設された控訴人所有の直径150センチメートルの配水管に結合した所から上記私有地側に約15センチメートル離れた場所にある(甲A4の②,5の②,③)。

(6)公道下に埋設される給水管について,水道局長名義で道路占用許可申請がされ,その際の許可条件として「占用物件を常時良好な状態に保つように管理し,もって道路の構造又は交通に支障を及ぼさないように努める」義務が課せられている(乙A9)。そして,占用期間が満了する場合の占用の更新も水道局長が行っている(甲A50の①ないし⑤,51の①ないし③,乙A9)。

(7)控訴人は,昭和50年5月1日以降,公設管から直接分岐し,公道内を横断する私設管について,その維持管理は,所有者から異議の申立てがない限り,X市水道事業管理者が行うものとし(給水装置工事に係わる公道内私設管取扱要綱(以下「公道内私設管取扱要綱」という。)3条3項),私有地へ引き込むため公道内を横断する工事施工に必要な道路掘さく占用許可申請等の手続については,申込者から異議の申立てがない限り,上記管理者が行うものとしている(同要綱3条5項)(甲A44の①ないし⑥)。

(8)その後,公道内私設管取扱要綱が廃止されて道路内私有管取扱要綱が定められ(昭和61年4月1日から実施),同要綱では,従前どおり道路内平行私有管についての控訴人への譲渡(道路内横断私有管についても従前どおり除外している。)についての定めを置いているが,公設管から直接分岐し,公道内を横断する私設管のX市水道事業管理者の維持管理等についての定めはない(乙A32,33)。

(9)控訴人は,インターネット上で市民への広報活動を行っているが,そこでは,水道の故障の主な連絡先として,宅地内の漏水については水道局及び指定給水装置工事事業者としているのに対し,道路内の漏水については水道局のみとしている(甲A8)。また,控訴人は,昭和52年度から公道下の給水装置が漏水した場合についても,原則として無料で修理を行っている(甲A7の①,証人D)。

(10)控訴人は,配管台帳図を管理しており,給水管の大まかな場所と埋設時期について検索すれば認識することができるシステムとなっている。また,控訴人には漏水管理所が設置されており,数年ごとに市内の地下漏水を調査している(証人D)。

(11)控訴人は,平成7年6月18日にX市J区で発生した事故(口径150ミリメートルの配水管から分岐する口径25ミリメートルの給水管が破裂し,漏水が隣接するマンションに流入して建物及び家財等を汚損した。)について,破裂したのは私人所有の給水管であるが,その原因は外傷による影響,車両等による重量負荷等による影響,土壌等による影響等が相互に影響しあったものと考えられるとした上,公道内にあって事実上当局が管理する水道管であるとして,弁護士鑑定により国家賠償法2条1項に基づく賠償責任を負担すべきものとの判断の下,事故の被害者に対して賠償金を支払った(甲A14)。控訴人は,その後も平成8年(給水装置からの漏水を原因とする路盤陥没による軽貨物自動車落下事故),同10年(給水装置からの漏水を原因とする路盤陥没によるタンクローリーの落下事故),同12年(配水管から給水管への分水サドル取付部からの漏水による家屋傾斜事故)にも損害賠償に応じている(甲A32の①,②,33の①,②,38の①ないし③)。

(12)控訴人は,本件事故後,破裂した本件給水管を持ち帰り,いったん管理下に置いたが,その後同給水管が所在不明となっている。

2 争点(1)(国家賠償法2条1項の責任の有無-主位的請求)について
(1)国家賠償法2条1項の責任の有無に関し,まず本件給水管が公の営造物に当たるか否かについて検討する。
公の営造物とは,国又は地方公共団体その他これに準ずる行政主体により直接公の目的に供せられる有体物ないし物的施設をいうところ,当該国,地方公共団体等がこれに対して法律上の管理権を持たない場合であっても,事実上管理しているものであれば足りるが,直接公の目的に供せられることが必要である。これを本件についてみると,本件配水管を含む配水管はそこから給水管を分岐させて市民一般に水を供給するという公の目的を有する公の営造物ということができるが,本件給水管を含む給水管は配水管から分岐して,個々の水需要者のみに水を供給するための設備であって,直接市民一般に水を供給するという公の目的に供せられているものとはいい難いものである。後に述べるように,本件給水管について控訴人の占有を認めることができるほか,本件給水管の破裂部分が本件配水管から約15センチメートルしか離れていないものではあるが,これらの点をもって本件給水管を配水管の延長部分にすぎないとして公の営造物とみることは,上記配水管と給水管の機能ないし役割の違いを無視するとともに営造物の範囲をあいまいにするもので相当ではないというべきである。

(2)なお,被控訴人は,分岐承諾書(甲A47)の提出によって少なくとも昭和49年4月2日には道路内の配水本管が市に移管されることを停止条件とする本件給水管の控訴人への寄付契約(無償譲渡契約)が成立し,昭和52年の本件配水管の控訴人への移管によって条件が成就し,本件給水管は確定的に控訴人の所有となった旨主張する。しかし,本件給水管について,これによって給水を受けることが見込まれる土地は,昭和48年3月12日の売買によりE’からFへ所有権が移転していたものと認められるが,本件給水管がFに譲渡されたとの事実は明らかでない(同人に対する分岐承諾書が提出された事実もうかがわれない。)ほか,一度も給水の用に供されることがなかったこと,さらには,昭和52年3月7日付けのE’と控訴人との間の給水施設贈与契約において,本件給水管はその目的に含まれていなかった(乙A21)こと(給水装置工事に係わる公道内私設管取扱要綱3条2項では,私有地へ引き込むため公道内を横断して敷設されたものについては,控訴人が譲り受ける対象となる水道管から除外している。)などにかんがみると,本件給水管が控訴人に譲渡されてその所有となったとの事実は認め難い。

(3)よって,その余の点について判断するまでもなく被控訴人の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。

3 争点(2)(民法717条1項の土地の工作物の占有者又は所有者の責任-予備的請求)について
(1)本件給水管が民法717条1項にいう「土地の工作物」に当たることは当事者間に争いがない。
そこで,控訴人が本件給水管についてこれを占有していたか否かについて検討すると,同項にいう「工作物の占有者」とは,工作物を事実上支配し,その瑕疵を修補することができ,損害の発生を防止し得る関係にある者をいうものと解されるところ,争いのない事実等及び前記認定の事実のとおり,①本件給水管は別紙図面のとおりの設置状態で控訴人の市道下に埋設されているものであること,②控訴人は,配管台帳図を管理していて,給水管の大まかな場所と埋設時期について把握することができるほか,漏水管理所を設けて定期的に市内の地下漏水について調査していること,③控訴人は,インターネット上での広報活動で,水道の故障の主な連絡先として,宅地内の漏水については水道局及び指定給水装置工事事業者としているのに対し,道路内の漏水については水道局のみとし,昭和52年度からは,公道下の給水装置が漏水した場合について原則として無料で修理を行っていること,④公道内私設管取扱要綱では,公設管から直接分岐し,公道内を横断する私設管について,その維持管理は所有者から異議の申立てがない限り,X市水道事業管理者が行うものとするほか,私有地へ引き込むため公道内を横断する工事施工に必要な道路掘さく占用許可申請等の手続についても,申込者から異議の申立てがない限り,上記管理者が行うものと定めているところ,本件給水管の管理等について所有者から異議の申立てがされた事実はうかがわれない(公道内私設管取扱要綱が廃止されて道路内私有管取扱要綱が定められ,同要綱にはX市水道事業管理者による公道内を横断する私設管の維持管理等についての定めはないが,その後発生した公道下の私人所有の給水管の漏水事故に対する控訴人の対応状況や上記②及び③のような措置をとっていることなどに照らし,公設管から直接分岐し,公道内を横断する私設管についてはX市水道事業管理者の管理下にあるものと認められる。)ことなどにかんがみると,控訴人は,本件給水管を事実上支配し,その瑕疵を修補することができ,損害の発生を防止し得る関係にあった者ということができ,したがって,控訴人は本件給水管を占有していたものと認めることができる。前記認定のとおり,控訴人は,過去にも,公道下における私人が所有する給水管からの漏水事故において度々被害者に対して損害賠償を行ったことがあり,また,本件においても,事故後直ちに破裂した本件給水管を持ち帰っているが,このような対処及び行動は,控訴人において公道下の給水管を管理ないし占有しているとの認識に基づくものとみられ,これは上記占有を肯定するに当たっての事情であると考えられるほか,私人が所有ないし使用する給水管であっても,これが公道下に存することから私人が維持・管理することが実際上困難であること,公道下の給水管については道路上を通過する車両等による重量負荷等の影響を受けるなどして損傷したり,老朽化が早く進行するなどの問題が生ずるところ,私人にそのことによる負担を強いることは相当でないと考えられること,私人による管理が困難である一方で漏水による路面陥没等は重大な事故の発生につながることなどから,私人に管理責任を負わせることが酷ないし適切でないのみならず,控訴人としても漏水を減少して収益率を高めることなどの諸事情も上記占有を肯定する要素と考えることができる。

(2)工作物の「設置又は保存に瑕疵」があるとは,工作物が通常有すべき安全性に関する性状又は設備を欠くことをいうものと解せられるところ,前記争いのない事実等記載のとおり,本件事故は本件給水管の老朽化による破裂が原因であり,工作物の保存に瑕疵があったものというべきである。

控訴人は,本件事故の原因は,必要最小限の離隔距離をとらないままに漫然と設置された本件ガス管の設置又は保存の瑕疵によるものであるから,本件給水管の保存に瑕疵があったということはできない旨主張する。

しかし,前記認定のとおり,本件ガス管の設置工事はGにより行われ,昭和47年12月15日に埋設されたものであるところ,本件給水管を含む給水装置の工事はこれもGが行ったものであるが,Eによって昭和47年5月30日に工事の申請がされ,同年6月1日に審査を受けた後,同49年4月2日に工事が完了した旨の完了届が提出され,同月9日に完了が確認されたというもので,ガス管が埋設される前に本件給水管が設置されていたとの事実は認められないのみならず,むしろガス管が設置された後に本件給水管が設置されたものとみるのが自然であること,平成2年に行った被控訴人の本件ガス管の敷設替え工事は,ガス管本管との接続の関係で基本的に従前の敷設状況に従って行われたが,全体的に従前よりも本件給水管との距離が開けられていることから,被控訴人の本件ガス管の設置又は保存に瑕疵があるとは認められず,また,そもそも本件事故は本件給水管の老朽化による破裂に基づく漏水によるものであって,本件ガス管の本件給水管との離隔距離の一事をもって本件給水管の瑕疵を否定する根拠とはならないものである。そして,上記によれば,過失相殺をしんしゃくすべき事情ともならないというべきである。

(3)前記争いのない事実等記載のとおり,土地の工作物である本件給水管の保存に瑕疵があったことにより漏水が生じて本件事故に至ったものであることが認められるところ,本件事故により被控訴人が被った損害については,原判決書9頁20行目の冒頭から15頁15行目の末尾まで記載のとおりであり,本件事故と相当因果関係のある損害額は3332万7432円である。

(4)以上によれば,被控訴人の民法717条1項に基づく損害賠償請求は理由がある。」

第4 結論
よって,本件控訴に基づき原判決主文1項を上記のとおり変更し,附帯控訴に係る予備的請求に基づき控訴人に対して3332万7432円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずることとし,主文のとおり判決する。

(平成16年12月13日口頭弁論終結)

東京高等裁判所第17民事部
 裁判長裁判官・秋山壽延,裁判官・堀内明,同・志田博文
 〔別紙図面 省略〕