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006

H16.5.26 東京高裁

発信者情報開示請求控訴事件

平成16年(ネ)第852号発信者情報開示請求控訴事件
平成16年5月26日判決言渡

判    決

控訴人 ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社
同代表者代表取締役 山本泉二
同訴訟代理人弁護士 野村吉太郎
被控訴人 A
同 B
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 早川忠孝,同 小倉秀夫,同 黄川田純也,同 清水亜紀子

主     文

本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人らの請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

2 被控訴人ら

主文同旨

第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人らが,下記を内容とする「WinMX」という名称のコンピュータ・プログラム(以下「WinMXプログラム」という。)を用いた方法でインターネットを介して行われた情報の流通によって自己のプライバシー権を侵害されたと主張して,当該情報の流通に当たり発信者側のコンピュータとインターネットとの間の通信を媒介したインターネット・サービス・プロバイダ(以下「プロバイダ」という。)事業者である控訴人に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,発信者情報の開示を求めた事案である。

                      記   

WinMXプログラムは,マイクロソフト社のWindowsを搭載したパソコン上で作動するソフトウェアであり,これを作動させると,自己のパソコンの記憶装置に置いた電子ファイルを不特定多数者に公開し,相手方の求めに応じて配布することができ,その一方で同様にWinMXプログラムが作動している他者のパソコンの記憶装置に置かれた電子ファイルを検索し,ブラウザー機能(インターネットにおける検索機能)により,どのような公開ファイルがあるかを閲覧することができ,所望のファイルを受信可能とするソフトウェアである。

2 原判決は,被控訴人らの請求を認容したため,控訴人が不服を申し立てたものである。

3 以上のほかの事案の概要は,次のとおり訂正し,後記のとおり控訴人の当審における主張を付加するほか,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)原判決3頁19行目から20行目にかけての「(弁論の全趣旨)」を「(甲11,弁論の全趣旨)」と改める。
(2)原判決3頁24行目の「到達」を「送達」と改める。
(3)原判決10頁末行から11頁1行目にかけての「誰もが(不特定の者)によって」を「誰でも(不特定の者)が」と改める。
(4)原判決12頁7行目の「始点の位置する」を「始点に位置する」と改める。
(5)原判決14頁3行目の「解釈にすべき」を「解釈すべき」と改める。
(6)原判決15頁6行目の「送信設備」を「送信装置」と改める。

4 控訴人の当審における主張
法の立法過程においては,本件の場合の控訴人のような,いわゆる経由プロバイダも発信者情報開示請求の対象者となると明示的に議論されたことはなかった。裁判所の解釈によって法の適用範囲を拡張すべきではない。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人らの請求は理由があるものと判断する。
その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の1ないし7(ただし,7を6と訂正する。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)原判決22頁8行目末尾に「なお,控訴人は,WinMXプログラムには,送信側ユーザーが送信相手を確認してから情報を送信することを可能にする機能があり,本件ファイル送信においてもこの機能を有効にしていた可能性があるとの主張をするが,後記5において認定する本件電子ファイルの流通の状況からすれば,そのような可能性は認められない。」と加える。
(2)原判決22頁17行目の「)」の後に「があること」と加える。
(3)原判決22頁25行目の「公開した」を「公開したい」と改める。
(4)原判決23頁17行目から25頁9行目までを,次のとおり改める。
 「法2条3号の定義規定において,「特定電気通信役務提供者」は,特定電気通信について主体的に関与したり,一定の管理権限を有したりする者に限るとの限定は付されておらず,このことは,法4条1項においても同様である。

確かに,法3条においては,特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講ずることができる特定電気通信役務提供者は,上記のような者に限られるとも考えられる。しかしながら,それは,同条1項において「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」との限定が付されているからであって,「特定電気通信役務提供者」の意義が,法3条と法4条とで異なるわけではない。

そして,法4条1項は,被害者が発信者情報開示請求権を行使し得る場合を「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」であって,かつ,「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」に限ると定

めている。そうすると,この限りで,通信の秘密や通信者のプライバシーの保護等の要請には応えていると考えられ,それ以上に控訴人が主張するような限定解釈によって発信者情報開示請求権を行使し得る範囲を制限する必要はない。」

(5)原判決27頁8行目の「というのは,」を「すなわち」と改める。
(6)原判決27頁12行目の「情報送信と」を「情報送信とは,」と改める。
(7)原判決27頁22行目の「(c)から(d)」を「(c)から(f)」と改める。
(8)原判決27頁24行目の「おいてと」を「おいて」と改める。
(9)原判決28頁17行目の「記録媒体を持つ設備又は送信設備などの」を「記録媒体又は送信装置を有する」と改める。
(10)原判決28頁25行目の「「記録媒体」を持つ設備又は「送信設備」を持つ」を「記録媒体又は送信装置を有する」と改める。
(11)原判決29頁6行目の「そのものを」を「そのものが」と改める。
(12)原判決29頁9行目から10行目にかけての「記録媒体を持つ設備又は送信設備である」を「記録媒体又は送信装置を有するものに限る」と改める。
(13)原判決29頁14行目の「すぎないとも」を「すぎないと」と改める。
(14)原判決29頁17行目の「記録媒体を持つ設備又は送信設備」を「記録媒体又は送信装置を有する電気通信設備」と改める。
(15)原判決30頁17行目の「文字列の」を「文字列に」と改める。

2 控訴人の当審における主張に対する判断

争点(1)について判断したとおり,法4条1項の解釈適用において,WinMXプログラムによる本件ファイル送信は「特定電気通信」に該当し,控訴人の電気通信設備は「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当するので,これを用いる控訴人は「開示関係役務提供者」に該当し,被控訴人らの発信者情報開示請求の相手方となることが明らかである。

なお,法1条4号は,「発信者」を「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と定義しているところ,前記引用部分に係る原判決29頁2行目から7行目記載のとおり,送信側プロバイダの有するルータは,上記のような特定電気通信設備の送信装置に該当するものと解され,送信側ユーザーは,その送信装置に情報を入力した者に該当するから,「発信者」に該当すると解される。

控訴人は,法の立法過程において,本件の場合の控訴人のような,いわゆる経由プロバイダも発信者情報開示請求の対象者となると明示的に議論されたことがなかったとの主張をするが,そうであったとしても,以上の解釈が不当な拡張解釈であるとはいえない。

3 よって,被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・原田和徳,裁判官・北澤章功,同・竹内浩史)
 

《参考・原審判決》

原告 A
同 B
原告ら訴訟代理人弁護士 早川忠孝,同 小倉秀夫
上記早川忠孝訴訟復代理人弁護士 黄川田純也,同 清水亜紀子
被告 ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社
同代表者代表取締役 山本泉二
同訴訟代理人弁護士 野村吉太郎

主文

1 被告は,原告らに対し,平成14年12月27日21時54分ころに,「○○○.○○.○○.○○○」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者に関する氏名及び住所を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要
本件は,原告らが下記を内容とする「WinMX」という名称のコンピュータ・プログラム(以下「WinMXプログラム」という。)を用いた方法でインターネットを介して行われた情報の流通により自己のプライバシー権を侵害されたと主張して,当該情報の流通に当たり発信者側のコンピュータとインターネットとの間の通信を媒介したインターネット・サービス・プロバイダ(以下「プロバイダ」という。)事業者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき発信者情報の開示を求めた事案である。

                      記   

WinMXプログラムは,マイクロソフト社のWindowsのOSを搭載したパソコン上で作動するソフトウェアであり,これを動作させると,自己のパソコンの記憶装置に置いた電子ファイルを不特定多数者に公開し,相手方の求めに応じて,配布することができ,その一方で同様にWinMXプログラムが作動している他者のパソコンの記憶装置に置かれた電子ファイルを検索し,ブラウザー機能(インターネットにおける検索機能のこと。以下同じ。)により,どのような公開ファイルがあるか閲覧でき,所望のファイルを受信可能とするソフトウェアである。

1 前提となる事実(証拠を掲記していない事実は,当事者間に争いがない)
(1)当事者
ア 原告らは,いずれも一般市民である。(弁論の全趣旨)

イ 被告は,「So-net」等のサービス名称を用い,インターネット接続サービス,インターネット関連サービス等を業とする株式会社である。(甲1,弁論の全趣旨)

(2)侵害情報の流通
ア 「■■□□■■交換最優先856」と名乗る者(以下「ユーザー856」という。)は,平成14年12月27日21時54分ころ,その使用するパーソナル・コンピュータ(以下「コンピュータ」という。)においてWinMXプログラムをインストールしており,そのWinMXプログラム共有フォルダ(WinMXプログラムの公開領域に当たる。以下同じ。)に「(TBC)TBC流出顧客情報完全版(www_tbc_co_jp+cgi).zip」というファイル名の電子ファイル(以下「本件電子ファイル」という。)を置いた。本件電子ファイルには,別紙1の情報目録記載の各情報(以下「本件個人情報」という。)が含まれていた。(甲1,甲11)

イ ユーザー856がインターネットに接続したときに割り当てられたインターネットプロトコルアドレス(以下「IPアドレス」という。ユーザーが通信回線を通じてプロバイダに接続した時点でプロバイダから自動的に割り当てられ,インターネットに接続された個々の電気通信設備を識別するための番号のこと。以下同じ。)「○○○.○○.○○.○○○」によると,被告が提供する通信装置を利用していることが判明した(なお,通信装置とは,プロバイダの有するゲートウェイ装置,ルータ(複数のネットワークを接続するために設置されるコンピュータ又は専用装置のこと。一つのネットワークから送信されてきたデータをメモリ上に読み込んで,そのデータの宛先を判断し,適切な経路を判定し,そこにそのデータを送信する機能を有する。),専用回線等をいう。以下同じ。)。(弁論の全趣旨)

ウ 被告は,ユーザー856の氏名及び住所に関する情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。(弁論の全趣旨)

(3)原告の開示請求と被告の開示拒否
被告は,原告らから,法4条1項に基づき,平成15年2月3日到達の本件訴状により,本件発信者情報の開示を求められた。被告は,原告らの本件発信者情報の開示請求は,法4条1項にあたらないとして,これを拒んだ。

2 争点
(1)WinMXプログラムにより権利侵害情報を流通させた者(以下「送信側ユーザー」という。)が加入するプロバイダ(以下「送信側プロバイダ」という。)は,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するか。

ア WinMXプログラムによる電子ファイルの送信(以下「本件ファイル送信」という。)は,法4条1項にいう「特定電気通信」に該当するか。
イ 本件ファイル送信が行われた場合,送信側プロバイダの有する通信装置は,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当するか。

(2)本件電子ファイルは,流通したといえるか。

3 当事者の主張
(1)ア 争点(1)ア(「特定電気通信」の該当性)について
(原告の主張)
(ア)法2条1号は,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」をもって「特定電気通信」と規定している。法4条1項にいう「特定電気通信」もこれと同じである。

送信側ユーザーは,同じくWinMXプログラムにより情報を受信しようとする不特定のユーザー(以下「受信側ユーザー」という。)の送信要求に応じて電子ファイルを自動的に送信するから,本件ファイル送信は,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当し,法4条1項にいう「特定電気通信」に該当する。

この点を詳述すると,次のとおりである。

a「不特定の者によって受信される」の該当性
(a)本件ファイル送信は,客観的形式的に観察すると,送信側ユーザーと受信側ユーザーの1対1の通信といえる。しかし,法2条1号は,「不特定の者」と規定し,「多数の者」とは定めておらず,「特定電気通信」を,1対多数者間の電子ファイルの送信の形態に限定していない。また,我が国の法律においては,当該行為自体は,1対1で行われていることが予定されている場合であっても,行為の相手方を「不特定の者」と規定する例は少なくない(例えば,保険業法300条第1項6号,東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第2条2項等)。以上から,法2条1号に「不特定の者」

との定めがあるからといって,本件ファイル送信が法2条1号にいう「特定電気通信」に該当しないと解することはできない。

(b)法2条1号にいう「不特定の者」とは,「特定の者ではないこと」をいう。当該行為が「特定の者」に対し行われたというためには,行為者において単に一定の基準に基づいて行為の相手方を具体的に絞り込んだというだけでは足りず,少なくとも,当該行為とは関係のない目的による一定の人的なつながりが当該行為の相手方との間にあり,そのつながりと関連して当該相手方を対象として当該行為を行ったということが必要である。また,法2条1号所定の「不特定の者によって受信されること」という要件の判断は,「発信者」にとって,受信者が「不特定の者」であるか否かという点についてされるべきである。

本件ファイル送信においては,IPアドレス及びインターネットに接続する際のIDは,送信側ユーザーによって受信者ユーザーを特定する指標にはならず,ひいては一定の人的なつながりを有している相手方を特定できない。

したがって,本件ファイル送信は,法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当する。

b 本件ファイル送信は,法の趣旨,目的等に照らして法4条1項にいう「特定電気通信」に該当する。
(a)「特定電気通信」は,1対1の電話通信や,放送等の電気通信メディアの通信形態と比較すると,①誰もが容易に発信することが可能であり(発信の容易性),②ひとたび被害が発生すると容易に拡大し(被害の拡大性),③匿名で発信された場合には被害の回復が困難である(被害回復の困難性)などの特質を有しているため,法により規制を受けるとされる。本件ファイル送信においても,前記a(b)のとおり,送信者側と受信者側に人的なつながりがなく,技術的にも双方とも相手方を具体的に特定できないから,前記①から③までの特質を有しており,「特定電気通信」に該当する。

(b)法4条は,発信者情報の開示に関する規定であり,権利侵害情報を保存・蓄積しているサーバーを保有・管理するプロバイダが送信防止措置を講じなかった場合に損害賠償請求を受ける要件を定めた規定である法3条とは関連がない。法4条の「特定電気通信」においては,発信者と受信者との間に立って情報の媒介等を行っているプロバイダが,不特定の者に対する情報の送信において,主体的に関与し又は一定の管理権限を有することが前提となっていない。また,法4条1項,同2条各号においても,そのように解すべき文言はない。

(c)法が,発信者情報開示制度を創設した趣旨は,「特定電気通信」においては,他人の権利を侵害する情報発信が匿名で行われた場合には,被害者は加害者を特定して責任追及ができず,被害の回復が極めて困難であることにある。不法行為の加害者が特定できない事態は,「特定電気通信」における情報発信による権利侵害の場合に限られないものの,「特定電気通信」の場合には,発信者と受信者との間に立って情報の媒介等を行っているプロバイダ等が存在し,プロバイダ等は発信者の特定に資する情報(以下「発信者情報」という。)を保有している可能性が高いという特徴がある。したがって,被害者は,被害回復のために必要であれば,権利侵害の要件を満たす以上,広く,発信者情報等を保有するプロバイダ等に対し,発信者の情報開示を求めることができる。

本件においても,送信側プロバイダは,発信者情報を保有しており,本件ファイル送信は,法4条1項にいう「特定電気通信」に該当する。

(イ)被告の主張に対する反論

被告は,「発信者」につき,記録媒体への情報の「記録」又は送信装置への情報を「入力」する者と規定され(法2条4号),「特定電気通信」につき,記録媒体へ記録又は送信装置へ入力された情報の「送信」と分けて規定されていることから(法2条1号),法2条1号にいう「特定電気通信」とは,情報が記録された電気通信設備たる記録媒体又は情報が入力された送信装置(すなわち,法2条2号にいう「特定電気通信設備」)を用いる「電気通信役務提供者」(法2条3号)が,情報の「送信」を行う場合で,送信側プロバイダの情報の送信は,これに当たらないので,本件ファイル送信は,法2条1号にいう「特定電気通信」に該当しないと主張する。

しかし,以下のとおり,この主張は,理由がない。

a 法2条3号は,「特定電気通信役務提供者」について,「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。」と定義している。この定義構造は,電気通信事業法2条3号における「電気通信役務」の定義である「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他電気通信設備を他人の通信の用に供する」と同じである。

ところで,「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信」の始点とする被告の主張を前提にすると,同じ「電気通信役務」という文言を使用しているにもかかわらず,法の場合,「特定電気通信」の始点は,(特定)「電気通信設備を他人の通信の用に供する者」であり,電気通信事業法上の電気通信の始点は,「電気通信設備をその通信の用に利用する他人」であると解することになり,異なる意味内容を持つことになる。

b 法2条3号は,「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう」と定義して,「特定電気通信設備」を用いて他人の通信を「媒介」することをその典型例としている。しかし,「特定電気通信役務提供者」を,「特定電気通信」の始点として解すると,前記典型例である「他人の通信の媒介」すなわち,「他人」と「他人」との間の通信を媒介することは論理的にあり得ないことになる。

c 被告の主張によると,法2条4号にいう「発信者」は,常に法2条1号にいう「特定電気通信」の始点ではないことになる。しかし,「発信者」とは,通常の理解でいうならば,特定電気通「信」を「発」する「者」をさす概念であることから,日常用語の理解とも離れる。

d 被告の主張によると,法2条4号の規定は,法2条1号にいう「特定電気通信」の始点となる者から,同規定にいう「発信者」をあえて除外し,法2条3号の「電気通信役務提供者」に限る旨定めたことになる。しかし,法2条4号の規定において「送信」と「記録・入力」の文言が使い分けられていることのみでそのように解釈することには無理がある。他方で,法及び電気通信事業法には,法2条4号に規定する「発信者」の行為以外に送信行為の内容を定義したと見られる規定はない。このことからすると,法2条4号は,送信行為の主体たる「発信者」についての単なる定義規定にとどまると解される。

e 被告の主張によると,法2条1号にいう「特定電気通信」の送信行為の主体は,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に限られる。その場合,「特定電気通信役務提供者」にとっては,人的なつながりのない不特定の者から指示された情報を,別な不特定の者からの指示のとおり,不特定の者へ送り届けているだけである。そうすると,「特定電気通信役務提供者」の行う送信は,常に不特定の者によって受信されることを目的としたものになり,そもそも「特定電気通信」について「不特定の者によって受信されることを目的」とした通信と限定した法2条1号の趣旨が没却される。

f 法2条4号にいう「発信者」が法2条2号にいう「特定電気通信設備」の記録媒体に当該情報を記録するための電気通信と,その後に行われる当該記録媒体から不特定の者への当該情報の電気通信の送信とは,「一つの通信」であると社会通念上は考えられている。被告の主張は,両者を物理現象からして別個のものと考えているが,あえて物理現象ごとに分けて,法の適用を考察すべき理由はない。

(被告の主張)
(ア)本件ファイル送信は,次のとおり,法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」ではない。
a「不特定の者によって受信される」には該当しないことについて
(a)法に定められた「特定電気通信」とは,当該電気通信に係る情報が不特定の者に認知されることを目的とする電気通信ではなく,当該電気通信そのものが不特定の者に受信されることを意味している。

これに対し,送信側プロバイダは,送信側ユーザーの電子ファイルを単にルータで指示された宛先に転送しているに過ぎず,受信側ユーザーとの1対1の通信を媒介しているに過ぎない。送信側プロバイダのこのような電子ファイルの転送行為は,「不特定の者に受信されることを目的とする電気通信」ということはできない。

(b)法の「不特定の者によって受信される」の文言からすると,法に定められた「特定電気通信」とは,インターネットに接続する不特定多数の一般のユーザーがホームページ及び電子掲示板等を閲覧することを念頭に,それら不特定のユーザーが受信できるようにホームページ及び電子掲示板等の電気通信の送信をすることを指すと考えられる。

これに対し,本件ファイル送信は,送信側ユーザーから受信側ユーザーへ1対1で直接データを送信する形で行われており,電子メールの送受信等の1対1の関係と同じであって「不特定の者によって受信される」とはいえない。

b 法が,送信側プロバイダを規制しているとは解されないことについて
(a)法が定められた趣旨は,プロバイダが管理可能でかつ契約関係にある発信者(権利侵害者)に対し,規約を定めて自主的に権利侵害情報を削除すること,自主的ルールを支援しようとすることにある。いいかえると,法は,当該プロバイダが不特定の者に対する情報の送信において主体的に関与し又は一定の管理権限を有することを当然の前提にしていると考えられる。具体的には,法4条は,権利侵害情報そのものが当該プロバイダの管理・運営するサーバー等に複製・蓄積され,かつその情報がホームページ,電子掲示板等において公開され,インターネット上を通じて誰もが(不特定の者)によって閲覧できる(受信できる)状態にある場合を「特定電気通信」と解して規制している。

しかし,本件において,送信側プロバイダは,契約者に対し,導管としての通常のインターネット接続サービスを提供しているに過ぎず,本件ファイル送信において,主体的に関与したりあるいは一定の管理権限を有したりしていない。したがって,そもそも本件ファイル送信は法2条1号にいう「特定電気通信」には該当しない。

(b)なお,本件ファイル送信が法2条1号にいう「特定電気通信」に該当せず,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に送信プロバイダが含まれないとすると,確かに被害者において発信者を特定することが著しく困難ないし不可能になる。しかし,発信者情報開示は,「開示関係役務提供者」の通信の秘密に係る守秘義務を解除することであって,その情報は,発信者のプライバシーや表現の自由とも密接な関わりを有しており,一旦発信者情報が開示されればその損害は回復できない。憲法上の「通信の秘密」や「表現の自由」とも関わる重要な事項でもあり,どの範囲の者に,いかなる情報の開示を義務づけるかについては,明文の規定が必要であって,安易な拡張解釈は許されない。

(イ)法2条1号にいう「特定電気通信」は,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」が情報の送信を行う場合に限られ,本件ファイル送信はこれに該当しない。

a 法2条1号によれば,「特定電気通信」とは,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)」をいうと定義されている。ここで,電気通信とは,「有線,無線その他の電磁的方式により,符号,音響又は影像を送り,伝え,又は受けること」をいうところ(電気通信事業法2条1号),法2条1号にいう「送信」とは,電気通信事業法2条1号にいう「送り,伝え,又は受けること」のうち,「送ること」,すなわち,符号,音響又は影像を電気信号に変換して送り出すことを指すものと解される。そうすると,「特定電気通信」とは,その始点の位置する者において「不特定多数の者によって受信されることを目的とする電気通信」を「送信」することをいう。

他方,法2条4号は,「発信者」について定義しており,これを「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者」としている。

この規定の仕方からすると,法は,「特定電気通信」について,「特定電気通信設備」の記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものと,「特定電気通信設備」の送信装置に入力された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものとを予定しており,いずれの場合についても,上記記録媒体への情報の記録又は上記送信装置を用いる「特定電気通信役務提供者」が,同号にいう「送信」を行い,「特定電気通信」の始点に位置することを前提にしているものと解される。

そうすると,「特定電気通信設備」の記録媒体に情報を記録し,又は当該「特定電気通信設備」の送信装置に情報を入力することは,当該「特定電気通信設備」を用いる電気通信役務提供者による特定電気通信以前の,これとは別個の,当該情報の記録又は入力を目的とする発信者から「特定電気通信役務提供者」に対する1対1の電気通信に過ぎない。

したがって,インターネット網の中で,ルータでデータを転送するという送信側プロバイダの果たす機能は,法2条1号にいう「特定電気通信」に該当しない。

b かりに送信側プロバイダの果たす機能を法2条1号にいう「特定電気通信」にあたるとすると,発信者が「特定電気通信設備」の記録媒体に情報を記録するための電気通信それ自体が,法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当することをも意味する。しかし,同規定は,当該電気通信に関わる情報が不特定の者に認知されることを目的とする電気通信ということではなく,当該電気通信そのものが不特定の者に受信されることを意味していると解される。法2条4号の規定ぶりからしても,発信者が「特定電気通信設備」の記録媒体に情報を記録するための電気通信それ自体を法2条1号にいう「特定電気通信」と解することはできない。

c 原告の主張は,権利侵害情報の発信者から受信者までの一連の流れを全体として捉えて法2条1号にいう「特定電気通信」にあたるとするから,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」は常に法4条1項の「開示関係役務提供者」となる。しかし,これでは,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる」という限定文言が「特定電気通信役務提供者」の文言に付されていることは説明できない。前記限定文言の意味を生かすならば,「特定電気通信役務提供者」であるプロバイダは,ホームページや電子掲示板等のサーバ等により送信する機能を果たす場合には「開示関係役務提供者」となり,送信側プロバイダの機能を果たす場合は,「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用い」ていないとして「開示関係役務提供者」にはならないというように,プロバイダの果たす役割に応じて,相対的に解釈にすべきである。

イ 争点(1)イ(「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」の該当性)について。
(原告の主張)
(ア)前記ア(原告の主張)のとおり,本件ファイル送信は,法2条1号にいう「特定電気通信」に該当するから,送信側ユーザーが「特定電気通信」を行う際に用いられる電気的設備である送信側プロバイダの通信装置は,法2条2号にいう「特定電気通信設備」に該当する。そして,送信側プロバイダは,自己の保有・管理する通信装置(「特定電気通信設備」)を,送信側ユーザーから受信側ユーザーへの電子ファイルの送信という,他人の通信に利用させているから,法4条1項にいう「特定電気通信役務提供者」にも該当する。したがって,被告は,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。

(イ)被告の主張に対する反論
被告は,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」とは,「特定電気通信役務提供者」に,「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」という限定を付していることから,ホームページや電子掲示板の掲載及びホームページや電子掲示板を設置・運営・管理しているサーバ等の通信装置を有している「特定電気通信役務提供者」に限られると主張する。

しかし,「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」とは,単にその前にある「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された者は」を「当該特定電気通信」として受けている意味しかなく,被告の主張のようにそこに特別の意味があるわけではない。

(被告の主張)
(ア)法2条2号によれば,「特定電気通信設備」とは,「特定電気通信の用に供される電気通信設備」である。前記ア(被告の主張)のとおり,「特定電気通信」とは,「特定電気通信役務提供者」が情報を送信する場合に限られるから,「特定電気通信設備」とは,不特定者に送信されることを前提とした「記録媒体」を持つ設備又は「送信設備」を持つ設備(典型的には,ホームページや電子掲示板の設備を指す。)を意味する。

しかし,送信側プロバイダの有する通信設備は,電話の交換機と同じような媒介機能しかない。

したがって,送信側プロバイダの有する通信装置は,法2条2号にいう「特定電気通信設備」に該当しないし,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」にも該当しない。

(イ)本件ファイル送信が法2条1号にいう「特定電気通信」に該当するとしても,次のとおり,送信側プロバイダの有する通信設備は,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当しない。

a 法4条1項は,「開示関係役務提供者」の定義については,(a)「当該特定電気通信の用に供される」,(b)「特定電気通信設備を用いる」,(c)「特定電気通信役務提供者」と規定している。すなわち,法4条1項は,「特定電気通信役務提供者」(前記(c))に,さらに,「当該特定電気通信の用に供される」(前記(a)),「特定電気通信設備を用いる」(前記(b))の2つの限定を加えている。したがって,本件ファイル送信は「特定電気通信」に当たり,送信側プロバイダを「特定電気通信役務提供者」(前記(c))に該当すると広く解したとしても,「当該特定電気通信の用に供される」(前記(a)),「特定電気通信設備」を用いていなければ(前記(b)),「開示関係役務提供者」には該当しない。

前記のとおり,法4条1項は,「開示関係役務提供者」について,「特定電気通信役務提供者」をさらに限定しているところからすると,本件における「当該特定電気通信の用に供される」こと(前記(a))及び「特定電気通信設備」(前記(b))の意味するものは,

それぞれ,ホームページや電子掲示板の掲載(前記(a))及びホームページや電子掲示板を設置・運営・管理しているサーバ等(前記(b))を指すと考える他はない。したがって,プロバイダが,「特定電気通信設備」であるホームページや電子掲示板を設置・運営・管理しているサーバ等により,不特定多数の者に対し,情報の送信を行っている場合に初めて,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当すると解することになる。

しかし,本件において,送信側プロバイダは,特定電気通信設備であるホームページや電子掲示板を設置・運営・管理しているサーバ等により,情報の送信をしているわけではなく,電話回線及びルータ等の通信装置により,1対1の情報の転送を行っているに過ぎない。したがって,送信側プロバイダの通信装置は,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当しないから,送信側プロバイダは,「開示関係役務提供者」ではない。

b 原告の主張によると,プロバイダであれば,ホームページや電子掲示板を設置・運営・管理しているサーバ等の通信装置を使用しているか否かにかかわらず,常に法4条1項にいう「開示関係役務提供者」と解することになる。しかし,これでは,法4条1項が「特定電気通信役務提供者」にわざわざ「当該特定電気通信の用に供される」「特定電気通信設備を用いる」と二重の限定を付している点を説明できない。

(2)本件電子ファイルが流通したといえるか。
(原告の主張)
本件電子ファイルは,長期にわたってユーザー856の共有フォルダに置かれており,その間ユーザー856の共有フォルダには多数の人が受信要求をしてダウンロードをした。この事実から,本件電子ファイルが不特定の者に送信され,本件個人情報が流通したことは明らかである。

(被告の主張)
本件では,本件電子ファイルの受信を原告側で直接確認しているわけではなく,流通したとの立証が不十分である。原告の依頼した調査会社は,順次ファイルの転送を受けていることを確認したと述べているに止まり,その根拠となる証拠を示していないばかりか,他方で調査時においてファイルの転送は受けなかったとしており,流通の事実を確認しているわけではない。

第3 争点に対する判断
1 本件ファイル送信の仕組みについて
前記第2の1前提となる事実,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

(1)WinMXプログラムは,マイクロソフト社のWindowsのOSを搭載したパソコン上で作動するソフトウェアであり,これを作動させると,自己のパソコンの記憶装置に置いた電子ファイルを不特定多数者に公開し,相手方の求めに応じて配布することができ,一方,WinMXプログラムが作動している他者のパソコンの記憶装置に置かれた電子ファイルを検索し,ブラウザー機能によりどのような公開ファイルがあるかを閲覧でき,所望のファイルを受信可能とするソフトウェアである。WinMXプログラムは,電子ファイルの送受信が中央サーバー等を介することなく行われるため,ピア・ツー・ピア型ソフトウェア(パーソナル・コンピュータ同士を対等な立場で直接接続するネットワークの接続形態であり,各人がコンピュータ内に保有する情報を,プロバイダが提供するサーバヘのデータ蓄積及び同サーバヘのアクセスを経ることなく,直接他のコンピュータとの間でやりとりするもの)の一種に分類される。(甲1,甲9,甲10,甲12,弁論の全趣旨)

(2)WinMXプログラムによる情報の流通の具体的な仕組みは以下のとおりである。(甲1,甲9,甲12,弁論の全趣旨)
ア WinMXプログラムにより情報を公開する過程
WinMXプログラムのユーザーは,ある情報を第三者に対し公開する場合,WinMXプログラムの共有フォルダに当該情報の入力された電子ファイルを置く。

イ WinMXプログラムのユーザーが取得したい情報を検索するまでの過程
(ア)WinMXプログラムのユーザーが,ある情報を検索しようとする場合には,WinMXプログラムの操作画面において,検索条件(キーワード)を入力する。当該検索条件は,ユーザーのコンピュータから,WinMXプログラムの管理サーバーを介して,ネットワーク内において近接して接続された他のコンピュータ群へと送信され,さらに,この送信を受けたコンピュータ群に順次転送されるという方法により,WinMXプログラムを搭載している多数のコンピュータ間に伝達される。

(イ)WinMXプログラムのユーザーは,対象コンピュータを特定すると,ブラウザー機能により,当該コンピューターにおいて,どのようなファイルが公開されているか閲覧することができる。

(ウ)検索条件を受信したコンピュータの中で,当該検索条件を満たす情報を,WinMXプログラム共有フォルダに記録しているコンピュータがあった場合には,当該コンピュータは,検索結果を発信し,同結果は,情報を検索しようとした者のコンピュータヘと直接転送される。検索結果には,a 検索したキーワードに該当するファイルを公開しているコンピュータのグローバルIPアドレス,b ファイル名,c ファイルサイズ,d WinMXプログラムのユーザー名,e 送信の順番待ち状況が含まれている。

この際,情報を検索しようとするユーザーの使用するコンピュータ以外のコンピュータは,いずれもWinMXプログラムのプログラムに従い,送受信,転送等の情報処理を自動的に行い,WinMXプログラムの各ユーザーが逐一コンピュータを操作するわけではない。
 

ウ WinMXプログラムのユーザーが検索した情報を受信するまでの過程
(ア)検索結果の送信を受けたWinMXプログラムのユーザー(本件における受信側ユーザーに当たる。)は,その使用するコンピュータ(以下「受信側コンピュータ」という。)上のWinMXプログラムの操作画面において送信要求の入力を行うことにより,当該情報をWinMXプログラム共有フォルダ内に記録しているWinMXプログラムのユーザー(本件における送信側ユーザーに当たる。)が使用するコンピュータ(以下「送信側コンピュータ」という。)に対し,当該情報の送信要求を行う。

(イ)上記送信要求を受けた送信側コンピュータは,そのWinMXプログラム共有フォルダに記録した当該電子ファイルを受信側コンピュータヘと送信する。この際,送信側コンピュータは,WinMXプログラムに従い,送信の情報処理を行い,送信側ユーザーは,逐一コンピュータの機器を操作するわけではない。ただし,WinMXプログラムのユーザーは,WinMXプログラムの設定を変更することによって,自動的に電子ファイルを送信しないように設定することはできる。

エ 送信側プロバイダの果たす役割
送信側プロバイダは,送信側コンピュータにより送信された上記電子ファイルを,その有する通信装置を経由してインターネットに接続し,自動的に,受信側ユーザーが加入するプロバイダ(以下「受信側プロバイダ」という。)を介して受信側コンピュータに対し,送信する。この過程において,送信側プロバイダは,電子ファイルをサーバに蓄積することはない。

以上からすると,WinMXプログラムによる情報の流通は,次のとおりである。すなわち,(ア)WinMXプログラムの各ユーザーは,公開したい情報が入力された電子ファイルをWinMXプログラム共有フォルダに置く。(イ)受信側ユーザーが,受信側コンピュータのWinMXプログラムの操作画面において検索条件を入力する。(ウ)他のコンピュータが,当該検索条件を満たす情報を含んだ電子ファイルをWinMXプログラム共有フォルダに置いている場合には,受信側コンピュータに対し,検索結果(a 検索したキーワードに該当するファイルを公開しているコンピュータ,b ファイル名,c ファイルサイズ,d WinMXプログラムのユーザー名,e 送信の順番待ち状況)を転送する。(エ)受信側ユーザーは,受信側コンピュータ上のWinMXプログラム操作画面において,送信側コンピュータに対する当該電子ファイルの送信要求を入力する。(オ)送信側コンピュータから受信側コンピュータに対し当該電子ファイルが送信されるという一連の過程を経ることになる。

そして,WinMXプログラムの上記流通の過程において,送信側プロバイダ(受信側プロバイダもまた同じ)は,前記エの認定のとおり,その有する通信装置を用いて,情報を蓄積しないまま自動的に情報を転送する機能を果たしている。

2 争点(1)ア(「特定電気通信」の該当性)について
(1)本件ファイル送信が法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当するか。
ア 法を検討すると次のとおり指摘できる。
(ア)法2条1号は,「不特定の者によって」と定めており,「不特定多数の者によって」と定めていないことからすると,「特定電気通信」については,同時に1対「多数者」間において行われる電子ファイルの送受信の形態に限定していない。したがって,電気通信が1対1との間で行われても,1対「任意の不特定の一人」との間であれば「不特定の者」によって受信される電気通信であるといえる。

(イ)法2条1号は,文言上「不特定の者によって受信される電気通信」とせず,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」とし,あえて「目的とする」という字句を挿入している。したがって,法2条1号は,「特定電気通信」について電子ファイルの送信自体が不特定の者によってただちに受信される性質を有するものに限ると解釈する必要はない。

(ウ)法2条1号は「特定電気通信」を「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」と定め,電子メールの送受信等の1対1の通信を除外している。その趣旨は,電子メールが,送信側ユーザー及び受信側ユーザーとの間の人的なつながりを持つことを前提に,双方において具体的な相手方を特定できる関係にあるのに対し,「特定電気通信」の場合は,送信者側と受信者側に人的なつながりがなく,技術的にも双方とも相手方を具体的に特定できないため(匿名性),(a)誰もが容易に発信することが可能であり(発信の容易性),(b)ひとたび被害が発生すると容易に拡大し(被害の拡大性),(c)匿名で発信された場合には被害の回復が困難である(被害回復の困難性)などの特質があることによるとされている(甲2,甲3,乙3参照)。

イ 以上を踏まえて,本件ファイル送信の仕組みが法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当するか検討する。

(ア)前記1の認定事実によれば,本件ファイル送信の仕組みは次のとおりである。①送信側ユーザーは,送信側コンピュータ上のWinMXプログラム共有フォルダに公開したい情報を入力した電子ファイルを置くと,WinMXプログラムのユーザーであれば,誰でも自由にこれを取得できる状態になる。②送信側コンピュータから受信側コンピュータに対する電子ファイルの送信は,受信側ユーザーの送信要求により自動的に行われる。③送信側ユーザーは,電子ファイルを送信するかしないか又は誰に対し送信するか等の操作を要しない。

したがって,本件ファイル送信は,不特定の受信側ユーザーから送信側コンピュータに対し送信要求が行われ,送信側ユーザーは,何らの操作もせずに,送信側コンピュータから情報が自動的に送信されるという形態で行われる。

(イ)また,①接続プロバイダ(インターネットに接続する役割を果たすプロバイダのこと。送信側プロバイダは,この意味での接続プロバイダでもある。以下同じ。)は,送信側ユーザー及び受信側ユーザーに対し,インターネットに接続する度ごとに,任意にIPアドレスを割り当てること(前記前提となる事実(2)イで認定),②本件ファイル送信は,中央サーバー等を介しないピア・ツー・ピア型ソフトウェアであるため,適宜接続の際のIDを変更できること(前記1(1)で認定,弁論の全趣旨)からすると,IPアドレス及びIDは,受信側ユーザーを特定する指標にはならない。したがって,送信側ユーザーにとって,受信側ユーザーは,電子メールと同様の1対1の通信とは異なり,一定の人的つながりのある者とみることはできない。

前記(ア)及び(イ)の事実からすると,送信側ユーザーが,WinMXプログラム共有フォルダに公開した情報が入力された電子ファイルを置くことは,送信側プロバイダとは人的なつながりのない「不特定の者によって受信されることを目的」として,これを送信可能な状態に置いたとみることができ,受信側ユーザーの送信要求に応じて電子ファイルを送信することは,不特定の者に対し,無差別に電子ファイルの「送信」を行ったということができる。

以上から,本件ファイル送信の仕組みからすると,本件ファイル送信が法2条1号にいう「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」の「送信」に該当するといえる。

ウ ところで,送信側プロバイダは,電子ファイルを,その有する通信装置を経由して自動的に受信側コンピュータに対し送信しており,この過程において,送信側プロバイダは,電子ファイルをサーバに蓄積することはない(前記1(2)エで認定)。つまり,送信側プロバイダは,送信側ユーザーと受信側ユーザーとの1対1の通信を媒介しているものの,本件ファイル送信において主体的に関与したり,一定の管理権限を有したりしない。このような場合でも,本件ファイル送信が法2条1号にいう「特定電気通信」に該当し,送信側プロバイダが法4条1項にいう「開示関係役務提供者」として発信者情報開示の主体となるかについて,以下検討する。

法2条4号は,「発信者」につき,記録媒体への情報の「記録」又は送信装置への情報を「入力」する者と規定し,法2条1号は,「特定電気通信」につき,記録媒体へ記録又は送信装置へ入力された情報の「送信」と規定し,「記録・入力」と「送信」というように用語を使い分けている。したがって,法2条1号にいう「特定電気通信」とは,情報が記録された電気通信設備たる記録媒体又は情報が入力された送信装置(すなわち,法2条2号にいう「特定電気通信設備」)を用いる「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)が,情報の「送信」を行う場合であるとの考えも成り立ちうる。すなわち,法2条4号の規定ぶりからすると,法が規制対象として想定していたのは,ウェッブサーバ(インターネット上で情報を公開できるソフトがインストールされたコンピュータ。以下同じ)による情報の送信の事例における電気通信であって,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」は,主体的に関与又は一定の管理権限を有していることが前提となるとみる余地がある。

しかし,他方で,次のとおり指摘できる。すなわち,

(ア)法3条に関しては,送信防止措置を取り得るか否かの関係で,当該プロバイダが不特定の者に対する情報の送信において主体的に関与し又は一定の管理権限を有することを前提にしていると考えられる。しかし,法4条は,発信者情報の開示に関する規定であり,送信防止措置とは関連がない。したがって,法4条の解釈においては,「特定電気通信」につき,当該プロバイダが不特定の者に対する情報の送信において主体的に関与し又は一定の管理権限を有することが前提であるといえない。

(イ)法4条1項,2条各号のうち,前記(ア)の送信防止措置との関連以外に,プロバイダが不特定の者に対する情報の送信において主体的に関与し又は一定の管理権限を有することが前提となっていると解すべき文言はない。

(ウ)法に関する総務省令においては,開示を求め得る発信者情報として,①氏名又は名称(1号),②住所(2号),③電子メールアドレス(3号),④IPアドレス(4号),⑤④のIPアドレスに係るタイムスタンプ(5号。IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻をいう。)が規定されている。このうち,③から⑤までは,侵害者の追跡作業を行うための手掛りに過ぎず,それら自体からは侵害者を特定できない。上記総務省令が③から⑤までを開示対象となる発信者情報として具体的に定めていることからすると,情報の送信において主体的に関与し又は一定の管理権限を有していない接続プロバイダを法4条に定める開示関係役務提供者からあえて除外したとは考えられない。

(エ)法4条1項は,被害者が発信者情報開示請求権を行使しうる場合を「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」であって,かつ,「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」に限ると定めている。そうすると,この限りで,通信の秘密や通信者のプライバシーの保護等の要請には応えていると考えられ,それ以上に解釈によって発信者情報開示講求権を行使する範囲を制限する必要はない。

さらに,実質的観点からみても,法に基づく発信者情報開示制度は,匿名性の高いインターネット上の情報発信において名誉毀損等が発生した場合に,当該情報発信に関与した者に対し,その発信者に関する情報を開示させることで,被害者が加害者の身元を特定し,法的救済を求める道を確保するために制定されたものであるから(甲4,乙3),発信者情報を保有する可能性が最も高い接続プロバイダを法4条1項にいう「開示関係役務提供者」の主体から外すと,法の前記趣旨の実効性が損なわれる。そうすると,法が規制対象として想定していたのはウェッブサーバによる情報の送信の事例による電気通信に限ると解し,発信者情報の開示主体は,情報の送信を主体的に関与し又は一定の管理権限を有する者であると限定的に解することは相当でない。

したがって,送信側プロバイダは,本件ファイル送信において主体的に関与したり一定の管理権限を有したりしていないけれども,本件ファイル送信は法2条1号にいう「特定電気通信」に該当し,送信側プロバイダが法4条1項にいう「開示関係役務提供者」として発信者情報開示主体となると解すべきである。

エ なお,被告は,法2条1号にいう「特定電気通信」は,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」が情報の送信を行う場合に限られ,送信側プロバイダの情報の送信はこれに該当しないと主張するので,以下検討する。

この点に関しては,次のとおり指摘することができる。

(ア)法2条4号は,「発信者」と定めており,その通常の用法からすると,法2条1号にいう「特定電気通信」の始点である「発信者」に関する定義を定めたものと解される。他方で,法2条各号において,「特定電気通信」の始点は,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に限ると解すべき文言はない。

(イ)前記ウで説示したとおり,法が想定した規制対象につき,ウェッブサーバによる情報の送信の事例における電気通信に限ると解する理由はない。

(ウ)法は,一定範囲の情報につき,プロバイダの責任を過重するのではなく,制限した上で,これによって権利を侵害された者の救済のため発信者の特定に関する情報の開示請求権を認めている。また,法2条1号は,「不特定の者によって受信される電気通信」という定め方ではなく,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」という定め方をしていることや「通信」という用語の一般的意味は,情報を発信しようとした発信者から,これを最終的に受け取った受信者までの情報の流れ全体を意味していることからすると,「不特定」か否かの判断は,これを送信するため当該情報の最初の記録又は入力をした発信者を基準として判断すべきである。

(エ)前記ア及びイで説示した本件ファイル送信の仕組みからすると,本件ファイル送信は,発信から受信までの一連の流れを全体として捉えて,送信側ユーザーがWinMXプログラムの共有フォルダにファイルを置いた時点で,送信側ユーザーから不特定の受信側ユーザーに対し,情報が送信されることになると解される。

(オ)被告の主張を前提にすると,次のとおり,不都合な点も生じる。

a 法2条3号は,「特定電気通信役務提供者」を「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう」と定義して,「特定電気通信設備」を用いて他人の通信を「媒介」することを行為の典型例としている。しかし,「特定電気通信役務提供者」を,「特定電気通信」の始点として解すると,前記典型例である「他人の通信の媒介」というのは,「他人」と「他人」との間の通信を媒介することは論理的にあり得なくなる。

b 被告は,ウェッブサーバによる情報の送信の事例を念頭に,ウェッブサーバの記録媒体への情報の記録とウェッブサーバを運営する者(特定電気通信役務提供者)から不特定多数への情報送信とその特質上,別個の通信であることから,発信者から特定電気通信役務提供者までの通信,特定電気通信役務提供者から受信者までの通信というように,分断して理解することを前提としている。しかし,本件ファイル送信は,順次「(a)送信側ユーザーがWinMXプログラム共有フォルダに不特定の第三者からの送信要求に応じて送信できるように当該情報の電子ファイルを置く,(b)受信側ユーザーの検索及び送信要求,(c)送信側プロバイダを電子ファイルに含まれた情報が経由,(d)インターネットを当該情報が経由,(e)受信側プロバイダが当該情報を受信,(f)受信側ユーザーが当該情報を受信。」との一連の過程で構成されており,前記(a)から(c)までの情報の送信と,同(c)から(d)までの情報の送信とは,差異は認められず,本件ファイル送信の事例においてと,あえて分断しなければならない理由は見出し難い。

以上のとおりであって,法2条1号にいう「特定電気通信」の始点は,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に限るとする被告の主張は採用できない。

3 争点(1)イ(送信側プロバイダの通信装置は,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当するか)について。

(1)法2条2号は,「特定電気通信設備」について,「特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)」と定めている。

(2)本件ファイル送信は,前記2で説示したとおり,法2条1号にいう「特定電気通信」に該当する。したがって,送信側ユーザーが「特定電気通信」を行う際に用いられる電気的設備である送信側プロバイダの通信装置は,法2条2号にいう「特定電気通信設備」に該当する。また,送信側プロバイダは,自己の保有・管理する通信装置を用いて,本件電子ファイルの送信という特定電気通信の用に供しており,送信側プロバイダの通信装置は,法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)」に該当する。

(3)これに対し,被告は,送信側プロバイダが「特定電気通信役務提供者」に該当するとしても,送信側プロバイダが,不特定の者に送信されることを前提とした記録媒体を持つ設備又は送信設備などの「特定電気通信設備」を用いて,不特定多数者に対し,情報の送信を行っている場合に初めて,送信側プロバイダの通信装置が法4条1項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」に該当すると主張する。

しかしながら,次のとおり指摘できる。

ア 電気通信事業法2条2号は,「電気通信設備」について,「電気通信を行うための機械,器具,線路その他の電気的設備」と定義している。

イ 法2条2号,同4条1項のいずれにも「特定電気通信設備」は,特に「記録媒体」を持つ設備又は「送信設備」を持つ電気設備であると定める文言はない。

ウ 法2条2号以外に「特定電気通信設備」の性質等を定める条項はない。

エ 実質的にみても,送信側プロバイダの有するルータは,一つのネットワークから送信されてきたデータをメモリ上に読み込んで,そのデータの宛先を判断し,適切な経路を判定し,そこにそのデータを送信するなどしており(甲8),第三者に対する情報の送信に重要な機能を果たしているから,ルータそのものを法2条2号にいう「特定電気通信設備」

であると認められる。

以上からすると,「特定電気通信設備」の解釈については,被告の主張する不特定の者に送信されることを前提とした記録媒体を持つ設備又は送信設備であると解することはできない。

また,確かに,法4条1項にある「特定電気通信役務提供者」には,「当該特定電気通信の用に供される」とのこれを限定するような文言が付されているが,この趣旨は,単にその前にある「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は」を受けているにすぎないとも考えられ,法4条1項において「当該特定電気通信の用に供される」との文言が付されていることから,被告の主張するような不特定者に送信されることを前提とした記録媒体を持つ設備又は送信設備を用いて,不特定多数者に対し,情報の送信を行っている場合に限定されるとまではいえないというべきである。

以上から,被告の主張は採用できない。

4 前記1から3までにおいて検討したところによれば,送信側プロバイダは法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。

5 争点(2)(本件電子ファイルが流通したといえるか)について

前記第2の1前提となる事実,証拠(甲1,甲10,甲11)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

(1)平成14年5月,コミー株式会社のウェッブサーバから本件個人情報を含む個人情報ファイルが漏洩する事故が発生した。コミー株式会社は,株式会社セキュアシンク(以下「セキュアシンク」という。)に対し,前記事故の原因究明と被害状況の調査を依頼した。

(2)セキュアシンクは,平成14年11月30日以降,WinMXプログラムのインストールされたコンピュータにおいて,「tbc」という検索条件(キーワード)を使用して検索し,別紙2の公開状況一覧表の記載のとおり,本件電子ファイルと同じ名称の電子ファイルの公開状況を確認した。公開状況一覧表のIPアドレスは,いずれも被告が所有するアドレスであった。

(3)公開された電子ファイルの概要は,次のアからウまでのとおりであった。

ア ファイル名称
 (TBC)TBC流出顧客情報完全版(www_tbc_co_jp+cgi).zip
イ ファイルサイズ
 6,888,415バイト
ウ ハッシュ値(電子ファイルや文字列等の電子データを,一定の計算式《ハッシュ関数》により演算し,特定の長さ《数文字から数 十文字程度》の文字列の変換した値を指す。データベースの検索方法の一つとして開発されたものであるが,電子データの一部でも変更されていると,異なるハッシュ値を示すことから,電子ファイルの特定に役立つ)

〈値省略〉

(4)送信側ユーザーは,同時に一人あるいは数人に電子ファイルを送信することができるに過ぎないので,受信側ユーザーからの送信要求が多数の場合,待機状態となる。セキュアシンクは,前記(2)の調査においては,送信要求を繰り返したが,常に数十人から百数十人が送信要求を行っており,待機状態となっていたため,本件電子ファイルの受信を受けることはできなかった。セキュアシンクは,WinMXプログラムにより,同様の方法で本件電子ファイルを入手した第三者から本件電子ファイルを入手し,本件電子ファイルに本件個人情報が含まれていることを確認した。

前記認定した事実によれば,次の事実を認めることができる。

ア IPアドレス,ユーザー名,公開されたファイルの名称,ハッシュ値から総合的に判断すると,公開状況一覧表記載の本件電子ファイルを公開している者は,同一人であり,ユーザー856である。

イ 公開されたファイルの名称,ハッシュ値から総合的に判断すると,公開されたファイルはすべて同一であり,公開された電子ファイルは,本件個人情報を含む本件電子ファイルである。

ウ 本件電子ファイルは,長期間にわたり,ユーザー856の使用するコンピュータのWinMXプログラムの共有フォルダに置かれ,その間,不特定多数の者からの送信要求により,送信された。

これらの事実からすると,セキュアシンクは,本件電子ファイルの送信を受けることはできなかったものの,本件電子ファイルは,不特定多数の者に送信されており,本件個人情報が流通した事実を認めることができる。

7 原告らの本件発信者情報の開示請求について,原告らの権利が侵害されたこと(法4条1項1号),本件発信者情報が原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときにあたること(法4条1項2号)については,弁論の全趣旨により,これを認めることはできる。

なお,被告は,法4条2項に基づいて,ユーザー856に対し,本件発信者情報の開示について意見を聴取することはしていないが,このことは,本件訴訟提起によって発信者情報の開示を求められているにもかかわらず被告が法4条1項に基づく請求にあたらないと判断して法の定める義務を履践していないことを意味するに過ぎず,原告らの本訴各請求の妨げとはならない。

8 まとめ

以上によれば,原告らの請求は理由があるから,いずれもこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

別紙
1情報目録〈省略〉
2公開状況一覧表〈省略〉