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001

H15.5.14 長野地裁

株券引渡請求事件

平成15年5月14日判決言渡
平成13年(ワ)第191号 株券引渡請求事件

判    決

原告 X1
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 松坂祐輔
被告 Y1
同代表者代表取締役兼
被告 Y2
被告ら訴訟代理人弁護士 I

主    文

1 被告らは、X1に対し、別紙目録一記載の株券を引き渡せ。
上記引渡の執行が不能のときは、被告らは各自、同原告に対し、金1599万3000円を支払え。
2 被告らは、X2に対し、別紙目録二記載の株券を引き渡せ。
上記引渡の執行が不能のときは、被告らは各自、同原告に対し、金166万5000円を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
主文と同旨

第2 事案の概要
本件は、別紙目録一(1)及び(2)記載の株券(以下、それぞれ「本件一(1)の株券」、「本件一(2)の株券」といい、両者を一括して「本件一の株券」という。)を盗取されたX1並びに同目録二記載の株券(以下「本件二の株券」といい、本件一の株券と一括して「本件各株券」という。)を盗取されたX2が、本件各株券を占有する被告らに対し、本件各株券の所有権に基づき、各原告の所有に係る株券の引渡を求めるとともに、その引渡の執行が不能のときは、引渡を受けるべき株券に係る株式の価額に相当する損害賠償を求めた事案である。

1  前提となる事実(証拠等により認定した事実については、末尾の括弧内に当該証拠等を摘示した。)
(1)  X1は本件一の株券を、X2は本件二の株券をそれぞれ所有し、原告らは本件各株券をX1社屋内の金庫に保管していた。(甲3、28、40ないし42、弁論の全趣旨)

(2)  平成11年9月18日午後9時20分頃から翌19日午前8時30分頃までの間に、X1の前記社屋内金庫から、本件各株券を含む株券その他の有価証券、現金、商品券等が窃取され、同月19日、X1が長野県長野中央警察署に被害届を提出した。(甲3、28、弁論の全趣旨)

(3)  原告らは、平成11年10月5日頃及び同月7日頃、本件一(1)の株券につき長野簡易裁判所に対し、本件一(2)及び本件二の株券につき松本簡易裁判所に対し、それぞれ公示催告の申し立てをしたが、Aが、平成12年2月9日頃、上記各裁判所に対し、本件各株券をB及びCから譲渡を受けて現に所持している旨を記載した権利届出書を、本件各株券を添付して提出し、権利の届出をした。(甲40ないし42、弁論の全趣旨)

(4)  被告らは、本件各株券を占有している。(当事者間に争いがない。)

(5)  本件一(1)の株券に係る甲の株式の平成15年3月31日の終値は一株398円であり、本件一(2)及び二の株券に係る乙の株式の同日の終値は一株333円である。(当事者間に争いがない。)

2  争点
被告らによる本件各株券の善意取得の成否(被告らの故意、重過失の有無)

第3 争点に対する判断
1  本件各株券を取得した経緯等についての被告らの主張は、Dは、平成11年9月19日頃、Eから本件各株券購入の依頼を受け、知り合いのY1代表者Y2に相談し、Y2から、翌20日に購入代金1億円を用意する旨の回答を得たので、Eに取引に応じる旨連絡した上、同月20日午後1時頃、大阪市内の南海サウスタワーホテル6階ロビーにある喫茶フロアーにおいて、本件各株券の取引を行った、その際、D、Eの他、Y1従業員F、B代表取締役G等が取引に立ち会い、Dの要望により、Eから有価証券売渡書(乙1)が交付された、他方、Y1は、本件各株券の購入代金9500万円をDに融資し、その譲渡担保として本件各株券を取得し、現在までその占有を継続しているなどというものであり、ほぼこの主張に沿ったY2の供述やD作成名義の陳述書(乙3)がある。

2  しかしながら、Y2の供述は全体に明確を欠き、本件各株券等の取得を巡るDと被告らの関係や、被告らのDに対する融資金9500万円の調達等についても、曖昧で納得しにくい部分が多い(例えば、同供述によると、被告らは、Dが本件各株券とともに、これと同時に盗取されたX1が所有する8万株余りの丙株券を、直近の取引日における終値の85パーセントに相当する金額で購入するに当たり、その購入代金として1億円近くを融資し、担保として本件各株券等を取得したもので、Dが誰からいくらで購入するかなどについては、被告らが買い主ではないので関心がなかったなどとする一方、購入した本件株券等を売却し、購入代金ないし融資額との差額を被告らが利益として取得し、そのうちの30ないし40パーセントをDに戻すこととして、本件各株券等の取得後直ぐに、その売却をDに指示したなどとしており、むしろ被告らが実質的な買主であったとも考えられ、本件各株券等の取得を巡るDと被告らの関係ははっきりしない。又、Dに対する融資金の調達についても、被告らは、当時、手元に1億5、6千万円の現金を持ち、6000万円相当の定期預金を有していたところ、手持ちの現金6000万円と他から4000万円を借りて融資金を用意したとするが、何故そのような方法をとったのかの説明は判りにくいものである上、4000万円の貸主が誰かも明らかにしないなど、曖昧な供述になっている。)。

更に、前記陳述書(乙3)やY2の供述によると、Dは、本件各株券等の取引に際し、BがAに甲株券8万株、乙株券1万株、丙株券8万2000株を売り渡す旨の記載があるB及びA作成名義の平成11年9月20日付有価証券売渡書(乙1)や、株券の売買代金として9500万円を受領した旨の記載があるB作成名義の同日付領収証(乙2)を受け取ったとされ、これらの書面にはBの代表取締役としてGが表示されているけれども、同会社の登記簿によると、その当時の代表取締役はHであって、Gは取締役その他の役員としても記載されておらず(甲18)、これらの書面の作成の真実性には疑いがあるといわざるを得ない(なお、上記有価証券売渡書には売主Bの記名押印に並んで、Cの署名押印があるが、Cは、警察官に対し、同署名押印が自分に無断でされたものであると述べている(甲33)。)。又、本件各株券等の取引に関与したとされる、E、Gらの素性等や、Bの活動状況等を明らかにする資料は見当たらず、Y2の供述や前記陳述書(乙3)の内容を裏付ける的確な証拠もない。

それだけでなく、Dは、X1等が、DやA等を被告として、本件各株券と同時に盗取された前記丙株券の引渡を求めた別件の訴訟事件(当庁平成11年(ワ)第331号、なお、平成14年9月25日の口頭弁論期日において本件訴訟と弁論の併合がされた。)において、当初、平成11年9月19日Cから頼まれて、株券を時価の8割で購入することになり、翌20日、南海サウスタワーホテル6階喫茶室で、F、C、Gと会って、CとBから上記株券等を9500万円で購入したが、その際、Gが所持していた株券をCから手渡され、引き換えに売買代金をGに渡したなどという具体的な事実を主張していたが、その後、株券購入の話はEが持ち込んだとか、取引の際、Gとは顔を合わせておらず、売買代金はEに渡したなどと主張を変更し、変更後の主張にほぼ沿った前記陳述書(乙3)が提出された。ところが、更にその後、同陳述書はY2と被告ら代理人が作成したもので、自分は署名も押印もしておらず、南海サウスタワーホテル6階で取引をしたり、当日同所に行った事実はなく、Eとも全く面識がないし、本件各株券等は始めからY2が所持していたもので、同被告の指示で本件各株券等を売却するため、証券会社に持ち込んだなどと記載されたD作成名義の平成14年12月13日付証言書(甲43)や、Y2から9500万円を借用した事実はないなどと記載されたD作成名義の同日付証言書(甲44)が提出されるに至り、Dの主張や同人作成名義の前記陳述書、証言書等は、作成の真実性や信用性等に問題があって、直ちには採用できない状況である。

3  以上を要するに、前記1に記載した被告ら主張の本件各株券の取得原因となる取引行為の存在は認められず、他にそのような取引行為の存在を窺わせる証拠もない。これに加え、被告らが本件各株券等を取得したのが平成11年9月20日頃であることは被告らの自認するところであって、本件各株券等の盗難との時間的近接性をも考慮すると、被告らは取引行為に基づき本件各株券等を取得したのではない疑いが強いというべきである。このように株券取得の原因である取引行為の存在が認められない場合には、善意取得の規定の適用がないと解すべきであるが、仮にそうでないとしても、上記のような状況に照らせば、被告らが正常な取引によって本件各株券等を取得したものとは認めがたく、被告らは、本件各株券を取得するに当たり、無権利者からの譲受であることについて、悪意又は重過失があったと推認するのが相当である。

そうすると、被告らは本件各株券を善意取得することができず、原告らは依然として本件各株券を所有し、被告らに対しその引渡を求めることができる。又、それとともに、原告らは、本件各株券の引渡の執行が不能の場合に備え、引渡に代わる損害賠償として、口頭弁論終結当時の本件各株券に係る株式の価額を請求できると解されるところ、本件訴訟の口頭弁論終結日の前日である平成15年3月31日の本件各株券に係る株式の終値が、甲株式(本件一(1)の株券に係るもの)につき1株398円、乙株式(本件一(2)及び二の株券に係るもの)につき1株333円であることは争いがないから、これを、口頭弁論終結当時の本件各株券に係る株式の価額とするのが相当である。そして、これに基づき、原告らがそれぞれ引渡を受けるべき株券に係る株式の価額の合計を算定すると、X1につき1599万3000円、X2につき166万5000円となるから、原告らはそれぞれ被告らに対し、上記金額の限度で株券の引渡に代わる損害賠償を請求できる。なお、被告らの損害賠償支払義務は、被告らが不可分的に負う本来の株券引渡義務に代わるものであるから、この支払義務も被告らが不可分的に負うと解するのが相当である。

よって、原告らの請求はいずれも理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

長野地方裁判所民事部
(裁判官・荒井九州雄)