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002

H15. 6.9 東京地裁

業務妨害禁止等請求事件・損害賠償等請求事件・地位確認請求事件

平成15年6月9日判決言渡
平成11年(ワ)第27019号 業務妨害禁止等請求事件(以下「甲事件」という。)
平成12年(ワ)第3182号 損害賠償等請求事件(以下「乙事件」という。)
平成12年(ワ)第6092号 地位確認請求事件(以下「丙事件」という。)

判   決

当事者の表示省略

主   文

1 甲事件について
(1) 被告A及び被告Bは、別紙物件目録(1)の4記載の土地に自ら立ち入り、又は第三者をして立ち入らせてはならない。ただし、人数3名以内、時間5分以内で、平穏な態様での要請文書の提出行為はこの限りではない。
(2) 被告A及び被告Bは、別紙禁止行為一覧表記載1及び2の行為を自らなし、又は第三者をしてなさしめてはならない。
(3) 被告A及び被告Bは、原告有限会社Cに対し、各自金20万円及びこれに対する平成11年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 原告有限会社Cのその余の請求をいずれも棄却する。

2  乙事件について
(1) 被告A及び被告Bは、別紙禁止行為一覧表記載3及び4の行為を自らなし、又は第三者をしてなさしめてはならない。
(2) 被告A及び被告Bは、原告Dに対し、各自金20万円及びこれに対する平成12年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 原告Dのその余の請求をいずれも棄却する。

3 丙事件について
原告Aの請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、これを15分し、その8を甲・乙事件被告兼丙事件原告Aの、その4を甲・乙事件被告Bの、その余を甲事件原告兼丙事件被告有限会社C及び乙事件原告Dの負担とする。

5 この判決は第1項(3)及び第2項(2)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨 省略

第2 事案の概要 省略

第3 当裁判所の判断
 検討の便宜上、まず丙事件について判断し、その後に甲・乙事件について判断を加える。
(丙事件について)
1 被告Aと被告Eとの間の契約関係の存否
 両者の間に何らかの契約関係が存在すると認めるに足りる証拠はない。したがって、被告Aの被告Eに対する請求はその余の点を判断するまでもなく、主位的、予備的とも理由がない。

2 本件契約は労働契約か。
(1) 前提事実
 争いのない事実等に、甲8、21、22、31、丙1、2、乙1(一部)、74(一部)、88ないし90(一部)、92ないし96、証人F、原告C代表者兼原告D本人(以下「原告D本人」という。)、被告A本人(一部)、及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨を併せると次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(ア) 被告Aは、平成2年ころからG株式会社の下請会社でダンプ持込者として合材の運搬業務を行っていたが、平成6年3月、同社から仕事の依頼が受けられなくなったため、南部分会のH書記長の紹介で原告Cの本件業務に従事することになった。その際、原告Cと被告Aとは、他のダンプ持込者と同様の条件で本件運送業務に従事することを当然の前提としており、契約書等で事前に明示的に契約の性質や条件を合意したことはなかった。 (乙1、甲19、22、原告D本人)

(イ) 本件業務の遂行及びそれに関する指示は以下のとおりである。被告Eは、顧客からの注文を受けて、当日の夕方、翌日の日中の分について、納入先の現場毎の運搬量と積込み開始時刻、出発時刻・納入時刻を指示して原告Cに本件業務を発注する。積込みは、本件工場で午前7時ころから始まる。原告Cは、所定の順番に従って、ダンプ持込者らに対し車の手配をする。この順番は、ダンプ持込者らが毎年年末に次年度の分を自主的に決定し、被告Eや原告Cは関与しない。そして、原告C全体の順番はダンプ持込者と原告C所有のダンプカーを運転する社員とが混在するように決められ、当日の最初の業務は前日の最後の業務を行った者の次の順番の者が行うことになる。

原告Cの被告Aらダンプ持込者に対する本件業務の遂行に関する指示も、上記被告Eからの発注内容に従い、運送物品、運送先(工事現場)及び出発時刻・納入時刻に限られ、運転経路、運転方法等には原則として及ばない。ただし、作業の安全確保のため、サンダルではなく靴を履いて運転することや、現場で外に出る場合はヘルメットをかぶることを求めていた。また、わずかではあるが現場への納入時間との関係で高速道路を使わざるを得ないことがあり、そのような場合は被告Eがその使用を指示しすることがあった。

また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった。ただし、現場で全部の合材を使用せずに余った場合には、当該現場に最後に行った車両がこれを工場に持ち帰ることになっていた。また、当初の予定以外の追加注文はありうるが、上記の順番に従ってダンプ持込者や社員に連絡することにより行われる。各ダンプ持込者らは連絡用に無線又は携帯電話を備えていたが、運送途中での変更指示は多くはなかった。

なお、上記のように、積込み開始時刻、出発時刻・納入時刻を指示し、積込み場所が本件工場であり、余った合材を工場に持ち帰ることとされるのは、根本的には、合材は時間の経過等により固まる性質があり、その都度工場で積込み、顧客が使用する時間に合わせて運搬する必要があるためであり、さらには、本件工場では合材の積込みが一度に一台しかできず、先を競って積込みをするなどの混乱を避け安全かつ合理的に行うためである。したがって、また、運送業務に対する指示内容としては社員とダンプ持込者とで変わりはなかった。(甲22の2項、乙96の15、18頁以下、丙1、2、被告A本人214項、証人F285項以下、原告D本人1、9、10頁)。

(ウ) 勤務については、上記のとおり仕事をするときは本件工場に寄る必要がある。しかし、始業時刻及び終業時刻は決められておらず、自分の順番の積込みに間に合うように工場に来ればよい。また、予め積込みの順番が決められているが、順番に従って機械的に仕事が割り当てられていき、その順番の者が来ていなければ次の順番の者が積込みをすることになる。途中で抜けてしまったり、急に休んだり、休みが多いと、他のダンプ持込者らに迷惑がかかったり、契約を打ち切られるのではないかとの心配はあるとしても、ダンプ持込者には仕事の諾否の自由があり、休んだからといって何らかの制裁があるわけではない。その意味では、積込み時間や順番が決められているとはいっても、各ダンプ持込者に対し個別の本件業務を指定したり、義務付けたりしているわけではない。また、ダンプ持込者にとって、本件工場が休みの時、原告Cの休日である日曜日は仕事がないが、これ以外に特に年休などがあるわけではないから、自己の判断で適宜休み、その分は収入がないことになる。 (甲22の2(1)、(2)、甲23、乙96の22頁16行目、23頁6行目、証人F27ないし50項・被告A本人116、118、217項)

また、予め決めた配車の順番の変更もダンプ持込者らが無線で連絡を取り合って調整することができ、これに被告Eらの配車係は何ら口出しせず、配車の順番が回ってきたときの催促なども仲間の運転手同士で行っていた。(乙16、乙18の1-9、1-11、3-10、11頁)

(エ) 原告Cにおいては、被告Aらのダンプ持込者に対して、原告Cから発注する仕事以外の業務を行ってはならないとの兼業禁止をしていたことはなく、現に他社の仕事をする者もいた。他方、ダンプ持込者についても、廃材等の運搬につき常用と称して運搬回数ではなく時間単位で代金を決めて運搬業務を行うことがあったが、それは前もって依頼され、各ダンプ持込者の承諾を得て行っていた。(乙96の9頁以下、証人F80、174ないし176項、被告A本人221項)

(オ) ダンプ持込者への報酬は、例えば被告Aは月2ないし3回「A建材」名義で原告C宛てに、行先と回数を明示して金額を算出し5パーセントの消費税を加算した請求書を提出し、これに基づいて月末締め翌々月5日払いで支払われた。この際、原告Cは所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はしていない。ダンプ持込者の報酬の計算方法は、基本的にトラックの積載可能量と運送距離によって定められた金額に基づきそれを積算した出来高で支払われていたが、夜勤、早出、休日の運送の場合に定額の手当、予定された仕事が当日になって中止になった場合の空振り手当なども支払われた。支払額はおおよそ月額60ないし100万円である。他方、原告Cの社員については、4トン車の運転手の場合に対しては基本給月額25万円に夜間手当などが出され、大型トラックの運転手に対しては月額27万円を最低保障として歩合給で支給される仕組みである。手当については、社員とダンプ持込者とで区別はない。(甲22の2項、証人F18、19、51ないし79、134ないし145項、被告A本人149項)

ダンプ持込者への報酬額の改定は、原告Cとダンプ持込者らとの間で交渉し妥結することによって行っていたが、それは個別の交渉ではなく、一律の料金を適用する前提での集団交渉であった(原告D本人13ないし15頁)。

(カ) 購入代金自体が通常極めて高額のものであるダンプカーの購入代金、非常に多額に上るガソリン代、任意保険料、整備費用等の車両関連経費、その他の経費は、被告Aの負担である。他方、原告Cの社員の場合には、原告C所有のダンプカーを使用させ、ガソリン代等もすべて原告Cにおいて負担する。(甲22の2(4)、甲30、被告A本人141項、証人F20頁)

(キ) 被告Aは、平成2年から平成10年まで、運送業務による全ての所得を営業所得として申告し、その所得額は年度によって大きく変動している。例えば平成10年度は収入1160万円余りに対し諸経費600万円余りを差し引いた約500万円を営業所得として申告している(甲28)。また、平成10年には自営業者に認められる小規模共済等掛金の控除を受けている(甲28、30、乙81、乙96の21頁下から3行目)。さらに、平成9年度の税務申告においては、車両関係費とダンプカーの減価償却費のほか、自営業でなければ発生し得ない接待交際費、地代家賃、水道光熱費、給料賃金、公租公課、貸倒金を経費として計上している(甲30)。

(ク) 被告Aと同じダンプ持込者であったJは、平成9年頃から、何度かにわたって、自分のダンプを他の者に運転させて仕事を行い、原告Cから支払われる報酬と自分が当該他の者に支払う報酬との差額を自分のものとしていたことがあり、そのことが原因で平成11年2月、被告AとJとの間でトラブルが発生したが、原告CはJの前記行為を禁止したことはない。すなわち、ダンプ持込者は、自らが引き受けた仕事を下請けに出すことも認められていた。(乙1、被告A本人4項)

(2) 判断
被告Aの主張に副うかのような事情として、積込み開始時刻、出発時刻・納入時刻が指示され、積込み場所が本件工場であり、余った合材を工場に持ち帰ることとされること、追加注文があり得るので連絡方法が必要であること、運送先が工事現場であるため、安全確保のためヘルメットの着用が求められること、運送業務の遂行自体について、社員運転手とダンプ持込者との間に区別はなかったこと、社員運転手にも歩合給部分があったことが存する。

しかし、他方、①本件業務に不可欠のダンプカーは通常極めて高額なものであり、経費も非常に多額に上るところ、被告Aは、このような重要な生産(運搬)手段を所有し、経費を負担し、事故の場合の損害賠償責任も負担することを前提として任意保険にも加入している。②被告Aに対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収等はされず、同被告は、同報酬を営業所得として確定申告している。③専属関係の有無については、原告C自体の仕事が少なければ収入が得られないという関係にあり、原告Cはダンプ持込者が他社の仕事をすることは禁じていないし、現にそのような例があった。④第三者による代行性の有無についても、原告Cはダンプ持込者が自らが引き受けた仕事を下請けに出すことも認めており、現にそのような例がある。⑤個別の仕事の指示に対し諾否の自由があるかについては、ある。⑥報酬が労働の代償たる性格をもつかについては、上記多額の経費に対応してその額が高額であること、トラックの積載量の大小が報酬に反映していること、また、時間よりも距離が基準となっていることからすると、労働の対価とはいいがたい。⑦勤務時間の拘束、勤務場所の指定は、原則としてない。⑧業務遂行過程での指揮命令の有無は、請負契約関係であっても業務の性質上必要な指示を受けそれに従う必要があるのであって、それがあること自体請負契約関係であることと特段矛盾するものではないところ、本件契約における上記の点は運送品が合材という時間が経過すると固まってしまう製品であるという特殊性や、工事現場での作業に使用するものであることによる面が大きく、これを超えていると見ることはできない。⑨運送業務遂行上の指揮命令につき、社員運転手とダンプ持込者との間に特段の区別はなかったことも、一緒に働く以上は両者を区別して就労させることは困難であり、また、これに関連して原告Cにとって社員運転手のほかタンプ持込者の存在が会社業務の遂行上不可欠ではあっても、上記のとおり専属性の不存在・代行性の存在とも相俟って被告Aの存在が不可欠というわけではない。社員運転手にも歩合給部分があったという事情もそれは社員の賃金体系の問題にすぎずそれ自体がダンプ持込者の労働者性を強めるものではない。ダンプ持込者の報酬基準が人によって個別に決められておらず、一律であったことも、作業効率や勤怠等の勤務態度を考慮しないという点で労働契約と結び付かない面もあり、ダンプ持込者の労働者性を強めるものではない。 以上要するに、被告Aは原告Cに対し、その一方的な発注に応じて労務を提供する義務を負うわけではないし、原告Cは被告Aに対し、一般的な指揮命令権を有するわけではない。その報酬も労務提供の対価であるとは言い切れない。むしろ、被告Aは、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していると見るのが相当である。よって、被告Aは、原告Cらの一般的な指揮命令に服して労務を提供するものとはいえず、本件契約は民法上の雇用契約や労基法上の労働契約ではない。

(3) 以上によると、丙事件の原告Cに対する主位的請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

3 本件解除の効力
(1) 権利濫用の成否(解除の理由の存否等)
(ア) 本件契約の性質について
前記2のとおり本件契約は雇用契約ではなく、運送請負契約であると解されるが、その具体的内容、特に契約期間ないしその拘束性につき、具体的な運送依頼によって日々契約が成立しているにすぎないのか、それとも何らかの継続的な契約関係であるのか、継続的なものであるとして、特段の事由が発生しない限り継続すべきものなのか、将来に向けて解約することは原則として自由であるのかについては、前記のとおり契約書面はもちろん、明確な合意もないことから、間接事実により当事者の合理的意思を推認するほかない状況である。

そこで検討するに、まず、本件契約における運送業務は、平成6年以降継続的に繰り返されてきており、また、被告Aは事実上原告Cとの取引に専念しこれを生計手段としてきたこと(乙74)、原告Cも当然このことを承知し、であるからこそ被告Aに対し書面で契約解除を通知したと解されることから、両当事者とも、本件契約が当分の間継続するであろうと信頼していたであろうと推測され、何らかの継続的な契約関係であることが窺える。 しかしながら、前記2のとおり、本件契約は一定量の運送を請け負わせるという契約内容ではなく、被告Eからの受注高によって原告Cの仕事自体が増減し、これによって被告Aに対する発注高も左右されるものであって、そのようなことから専属契約ともされていない。被告Aの設備投資は多額だが、原告Cとの契約前に既にダンプカーを所有していたもので、本件契約のため特別に多額の投資をしたというものではない。又、被告Aとしてもより有利な条件の注文者が現れれば契約関係を解消して直ちに他社と契約可能であるし、また、原告Cからの解約も、予告なく突然されればそのことによる一時的な損害はあり得ても、いずれは他社と契約可能であることは同様であろう。原告Cとしても、自己の事業展開の上で、被告Aとの契約が不要ないし不適切となれば、基本的に契約関係を解消できるとしなければ、経済活動の自由に対する過度の拘束となる。このように両者の関係は基本的には対等な取引関係であり、両当事者のいずれからでも将来に向けての契約関係の解消はあり得る。このような点に鑑みると、本件契約は、相手方にとって特に不利な時期を避け、あるいは適切な予告期間を設けることにより相手方の損害を回避すべく配慮をしなければならず、それを怠ればそのことによって相手方に発生した損害を賠償すべき場合があることは格別、将来にわたって自由に解約できるのが原則であり(甲8)、例外として何らの理由なく又は不当な意図に基づいて行われたような場合に、権利の濫用として無効になるにすぎないと解する。

そこでこれらの点について以下検討する。

(イ) 解除の理由の存否について
(a) 被告Aが本件業務に従事する経緯
証拠(甲19、22、乙12の2-10、11丁、原告D本人)によれば次の事実が認められる。 被告Aは、平成6年3月、G株式会社の下請会社でダンプ持込者として合材の運搬業務に従事していた際、運搬先の現場で得意先の従業員の指示に従わず、同人に対し暴行を加えるという事件を起こしたにもかかわらず、そのことにつき何ら反省の態度を示さず、その後も同人と口論をし、また、下請会社の取締役から業務中の乗用車との接触事故の状況を聴取された際も「ガードマンが出ろと言ったから出た。事故には気がつかなかった。」などと述べ、具体的な状況の説明をしないことから、口論となった。このようなことから、被告Aは同社から仕事の依頼がなくなり、H書記長の紹介で原告Cの本件業務に従事することになった。その際、原告Dは被告Aが仕事の依頼を受けられなくなった理由が暴力をふるったためであると聞いたため、被告Aに、もし暴力をふるったら仕事を回せなくなる旨注意した。

以上の事実が認められる。

これに対し、被告Aは、暴力行為の存在やそれが原因で仕事の依頼が受けられなくなったことを否定した上で、したがって、原告Dから上記のような注意を受けたこともないと述べる(乙9の1-1、2丁、乙75)。しかし、暴力行為の存在やそれが原因で仕事の依頼が受けられなくなったことは容易に認定でき、そのことからすると原告Dが被告Aと契約を締結する際に上記のような注意をすることが当然であり、これに沿う原告Dの供述は信用でき、これを否定する被告Aの供述は信用できない。

(b) 以前から被告Aの業務遂行態度が不良であったこと
証拠(証人F、原告D本人、甲8、22、乙12、乙75)によれば次の事実が認められる。被告Aは、同じく原告Cでダンプ持込者として本件業務に従事しているKに対し、営業無線でする同人の話がうるさいとして、襟首をつかんで怒鳴りつけるということが何度もあった。また、社長である原告Dや取締役であるFに対し、おたく、お前、てめえと呼ぶなどぞんざいで乱暴な応対をしていた。

平成11年1月ないし2月、被告Eの顧客であるLの現場で、同社の現場監督に対し、はがした舗装(ガラ)の積載方法について直接要求して同人と口論になり、その後、同人が原告Cに対し、被告Aを出入り禁止にするよう要求するということがあった。 同年1月ないし2月、被告Aは、被告EのM工場長に対し、原告C、支部、被告Eの3者で協定書を作成するように要求し、これに応じない同人に対し、来客の面前でしつこく食い下がり、又口論をするなどした。

さらに、被告Eから被告Aのような運転手を使っていれば仕事がなくなる旨忠告され、原告Dが被告Aに注意したが、話を聞こうともしない態度であった。このようなことから、原告Dは被告Aに仕事を回すのをやめるべきではないかと考え、紹介者のH書記長に相談したところ、同人は同被告に注意するからしばらく待ってくれということであったので、様子を見ることにした。

以上の事実が認められる。

(c) Jに対する暴力事件
証拠(原告D本人、甲3、8、22、6、10、12、75、82)によれば次の事実が認められる。 合材運搬の仕事は夏場が少なく社員及びダンプ持込者にも十分仕事が回らないのに対し、10月ころから年度末の3月にかけては忙しく、原告Cとしてはこの間はよそから応援の代車を頼んで臨時に仕事をしてもらう必要があった。そして、Jは、原告Cの依頼により代車を集めることに協力していた。E支部も台数をできるだけ少なくするよう要求していたが、代車を入れること自体は容認していた。しかし、被告Aは、同人に対し、代車を呼ぶと仕事が減る、また、Jが代車の運転手から若干の手数料を取っていたことにつき、ピンハネだと非難し、やめるよう要求し、同人の手や袖を引張って外に連れ出し怒鳴りつけるということが何回もあった。

被告Aは、平成11年2月23日午前3時ころ、合材を積み込むため、工場の駐車場で順番待ちをしていたJに対し、「何をやってんだよ、そんな6台もダンプ入れて。みんな迷惑してんだから、お前こんな会社やめちまえ。」などと言い、口論となった。その後、その場を離れた被告AをJが追いかけ言い返したところ、さらに口論となり、被告Aは、Jの胸ぐらを左手で掴んで、右平手で同人の左頬を力を入れて続けて2回殴打する暴行を加えた。同人がやったなと叫ぶと、同被告は「こんなのやったうちはいんねえや。後からもっとやってやるよ。」と言った。Jは痛みが続くため、当日医師の診察を受け、下顎部挫傷で約10日間の加療を要する見込みであるとの診断書を取得した。ただし、症状としては、同部に軽度の叩打痛を認めるというもので、消炎鎮痛剤を1週間分処方し、次回通院の指示はなかった。

その後、Jは恐怖心から仕事に出なくなった。また、同人は、翌日ないし翌々日、被告Aと話し合う機会があったが、同被告は同人に謝ることはなく、同人は立腹した。また、社内でのもめ事であることから原告Dに相談し、診断書を見せた。そして、同人は原告Dの了解を得て同月27日警察に被害届を出した。

以上の事実が認められる。

これに対し、被告Aは、口論後、Jを殴打したのではなく、同人に対し「そんなくだらないことを言うんじゃない。もっとしっかりしろ。」というようなことで、ちょっと頬を右手指で2回ぽんぽんと触った、するとJが大声で暴力だと騒ぎ出した旨述べる(乙1、10、75)。しかし、同供述は上記経過に照らし不自然なものであり、信用性が低いのに対し、上記認定に沿うJの供述(乙6)は自然で合理的なものであり、しかも、目撃者N、同Oの供述も概ねこれを裏付ける内容である(乙7、19)から信用性が高い。従って、上記認定に沿うJらの供述は信用でき、これを否定する被告Aの供述は信用できない。

(d) 上記(a)ないし(c)の事実によると、原告Cとしては、会社業務に関連する被告Aの粗暴な言動によって、業務に支障を生じかねない状況が再々起こっていたところ、同被告が原告Cの業務上必要な応援代車の手配にJが協力したことを理由として業務中Jに対し暴行を加え、同人が診断書を取得して警察に被害申告する事態となったのであるから、同被告の入社経緯に照らしても、契約関係を維持しがたい状況に至ったということができ、本件契約を解約すべき相当な理由があるといえる。

(ウ) 不当な意図について
被告A本人、原告D本人乙53ないし59、75、100によると、原告Dは、E支部を労働組合ではなくダンプ持込者の団体と認識していたところ、被告AがE支部の支部長になってからは、ことさら原告Cに敵対的な立場を取り、また団交であると強調して、無用の軋礫を起こすようになった、被告Aがいなくなってからは円満な関係になったと認識していること、平成10年9月ころから11年1月ころにかけて、被告Eが原告Cに5項目の手当につき運搬代金の引き下げを申し入れ、これに伴い原告Cがダンプ持込者らに同様の申し入れをしたが、被告Aらはこれに応じず被告Eに直接交渉を申し入れ、その結果、一定期間に限って引き下げることになったこと、そして、被告Aらが夜間手当1000円を600円に引き下げるにつき差額の400円を原告Cが負担するよう求めたのに対し、原告Dはこれを断ったこと、前記のとおり、被告AがMに協定書の作成を求めたが、Mがこれに応じなかったこと、2月に入って、E支部から被告Eに対し、ガラ運搬につき、運賃が安い、積込みが乱暴、過積載があるとして団交を要求したことが認められる。また、前記の解約理由自体、被告Aが業務に関連する事柄を動機として同僚に暴行を加えたり、威迫したりしたことや、取引先と直接交渉して口論をして原告Cにクレームがあったというもので、被告Aのいう組合活動に関連するといえなくはない。

しかし、賃下げ問題については、本件解除以前に事実上妥結しており、これを有利に解決するためということは考えられないし、ガラ運搬については、交渉を申し入れられたことよりも、得意先の従業員と口論をしたことが動機と見られる。また、上記暴行などは、仮に組合活動として行ったとしても違法であり、これを理由として解除することが不当な意図目的であるということはできない。なお、確かに、原告Cは、Jに対する暴行を傷害事件と認識して本件解除をなしたものであり、検察庁はこれを暴行事件としてしか立件しなかったが、それは確実な医学的な裏付けが得られなかったことによるものと解され、前記のとおりの診断書が作成されている以上、このことから事件自体がねつ造であるということにはならず、また不当な意図を裏付けるものともいえない。そして、原告Cが被告Aが支部長となる以前から反組合的な言動を取ってきたとは窺えないこと、被告Aの言動は上記のとおり組合活動等に関連して違法な行為を行うなど問題があったこと、被告Aの主張の最大の根拠は本件解除の理由が不当であることにあるところ、上記解除理由が被告Aが本件業務に従事する経緯等に照らして十分なものであることを考慮すると、原告Cが組合弾圧その他不当な意図目的で本件解除をなしたと認めるには足りない。

(エ) 被告Aの主張について
(a) 他の事例との均衡について
被告A本人、原告D本人、乙75によると、原告Cの運転手のPが被告Eの社員を殴ったことがあったが、その場で、原告DがPを厳しく叱責したところ、被害者から自分が悪いから許してやってくれと取りなされ、Pも謝罪したということがあり、Pはそのまま原告Cで勤務を継続していること、その他、飲酒の上喧嘩をして警察沙汰になった例があったことが認められるが、その経緯は不明である。

ところで、酒の上でのいさかいであれば、私生活上の行為であり、また通例被害者にも多少の落ち度があるから、それだけを理由に直ちに継続的契約関係を解約することは社会通念上許容できない場合があろう。しかし、本件解除は、被告Aが、自己の価値観に基づいてJの原告Cでの業務内容が不適切であると判断してやめさせようとし、これに従わないJに暴行を加えたというもので、直接業務に関し企業運営に支障を生じさせる行為である。また、Jの行為がE支部の方針に反するものであったとしても、それは暴行を加える理由にはならず、被害者に落ち度があるとはいえない。被告Aが本件業務に従事する経緯やそれまでもしばしば同種の動機でトラブルを起こしていたことや、被告Aが反省の態度を示さず、Jが立腹したこと等からして、他の事例と均衡を失するとは認められない。

(b) 手続について
被告Aに対する事情聴取をしないからといって、本件解除が権利濫用となるものではない。

(オ) その他、被告Aらの主張は採用できず、本件解除が権利濫用として無効と判断することはできない。

(2) 不当労働行為性について
(ア) 不利益取扱いについて
被告Aらは、E支部が労働組合であり、被告Aも労組法上の労働者に該当し、本件解除が不当労働行為に該当するとも主張する。しかし、前記認定事実のとおり、被告Aは一方的に労務提供義務を負担し、その労務提供につき指揮命令を受けるとも、その報酬が労務提供自体の対価であるとも認めがたく、同被告が労組法の適用を受けるべき労働者であると解することはできない。したがって、仮にE支部は労働組合であったとしても、労働者であると解することはできない被告Aに対する不利益取扱いは不当労働行為を構成しない。また、仮に同法の適用があるとしても、前記(1)(ウ)のとおりであるから、本件解除は正当な組合活動を理由とするものではなく、不当労働行為意思の存在も認めがたい。

(イ) 支配介入について
前記(1)(ウ)によると、Jと被告Aの組合員同士の口論を口実に、被告Aの契約を解除することによりJに荷担して労働組合の運営に介入したとは認めがたい。

(ウ) したがって、被告Aのこの点の主張は採用しない。

(3) したがって、丙事件の原告Cに対する予備的請求も理由がない。

4 結論
以上によれば、被告Aの丙事件請求は全て理由がない。

(甲・乙事件について)
1 前提事実
争いのない事実等及び前記認定事実に、甲8、21、31、乙89、90、証人F、原告D本人、被告A本人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨を併せると、次の事実が認められる。

(1) 前記争いのない事実等(4)、(7)の街宣活動、ビラ配布、要請行動(これらをまとめて以下「街宣活動等」という。)を行った者は、「C・Aさんの解雇撤回闘争を共に闘う会」又は「Aさんの解雇撤回闘争を共に闘う会」と名乗り、被告Aの解雇撤回・現職復帰の実現を唯一の目的とし、そのため原告C、被告Eに対する抗議行動、申し入れなど現場闘争を軸に闘う、労働委員会闘争などあらゆる権利を行使して闘うなどとするが、これに対し、E支部及び上部団体の支援はなく、その組織実体は判然としない(甲5の1、乙1、12、46、90)。

(2) 原告Cは被告Eとの間で、本件業務に関する継続的な運送請負契約を締結しており、その内容として、別紙物件目録(1)記載の土地及び建物を自己の業務のため利用すること、特に、別紙図面(1)の「主」の建物の?の部分を配車指示の事務所として、③の建物を運転手の詰所として使用する権限を所有者である被告Eから付与されている(甲11の1、2、4、7、甲12、31)。

また、本件業務を行うダンプカーは別紙図面(1)の?の出入口から出入りし(道路向かい側正面に駐車場がある。)、斜線部分を作業用地およびダンプカーの通路として使用し、運転手は「主」の建物内の事務所の?窓口で運送先の指示を受け、伝票の遣り取りをし、③の詰所で休憩をする。したがって、上記斜線部分や前面道路から本工場への出入口付近で仕事をしない人がたむろしたり騒いだりすることは、業務の妨害であるとともに、危険な行為である(甲9)。(なお、仮処分決定が被告Aらに行動の禁止をした範囲は、これとは異なり上記斜線部分等を含んでいないが、他方、甲20の1、乙68、甲31によると、同禁止範囲には、原告C及びその運転手がそもそも使用しない部分が含まれており、しかも、債権者である原告Cが同禁止範囲の土地を表記した別紙物件目録を添付した上、同土地等を使用して業務を行っているとして仮処分命令の申立てを行い、同仮処分決定がその別紙物件目録をそのまま使用していることからすると、同仮処分決定は原告Cが業務上使用している土地の範囲を誤認して発令されたものと認められる。)

(3) 原告Cは、本店を原告Dの自宅においているが、同所に社員が勤務しているわけではなく、会社業務としては、取締役で原告Cの経理事務を担当するFが伝票の整理など同事務処理を行うことがあるだけである。原告Cの業務の中心は本件工場で、そこには、原告Dの長男で取締役のQ(本件解除当時は監査役。甲1)が常時勤務している。原告Dは、週に1回程度本件工場へ行き、その他の日は朝から営業に出ている。ただし、本店の玄関には原告Cの看板が掲示され、また、原告C所有の乗用車等の使用の本拠とされている(乙41ないし45)。

(4) 平成11年3月7日、E支部は原告Cに対し、本件解除の撤回と団体交渉の開催を要求する文書を交付した。しかし、その後間もなく、同支部は、被告Aが謝罪をした上で契約の継続を要請するという方針を決め、被告Aは謝罪を拒否した結果、支部としては本件解除の問題について特段の行動をしない状況となった(乙1、12、甲17の1、2)。

(5) 被告Aらは、同年9月6日、「C・Aさんの解雇撤回闘争を共に闘う会」代表「B」、「A」名義で、「原告C代表取締役」宛ての被告Aに対する解雇の撤回と現職復帰、一切の不利益の回復、同月20日から26日までの間の団体交渉の開催を要求し、回答期限を同月16日とする要求書をファックス送信し(甲5の1)、電話で、原告Dに対し10人ほどで団体交渉をしたいと申し入れ、原告Dは3人までなら良いと答えたが、被告Aらは納得しなかった。

(6) 被告Aらは、同月12日ころ、原告Cが暴力行為をでっち上げて被告Aを解雇したとの中見出しを付けるなどしたビラ(甲5の3)をR市に隣接するS市の市民会館付近で配布したり、同月18日午前8時ころ、10人ほどで本件工場の付近に現れ、原告Cの社員、ダンプ持込者、被告Eの社員、応援代車の運転手、合材を買いに来た客らに対しビラを配布したうえ1時間ほどハンドスピーカーを使用して「不当解雇を撤回しろ。」などと街宣活動等を行った。この際、被告EはR警察署に出動を要請した (甲5の6)。同年10月16日午前7時ころ、14人で本件工場の付近に現れ、ビラを配布したうえ1時間ほどハンドスピーカーを使用して街宣活動等を行った。また、被告E宛ての抗議並びに要求書と原告C代表取締役宛ての抗議並びに要求書(甲5の5、6)をそれぞれ送付した。11月20日午前7時ころからも20人ほどで同様の街宣活動等を行った。被告Aらは、これら街宣活動等の際、工場の敷地内に立ち入って宣伝活動を行ったことがある(被告A本人151項)。この間、被告Aらは要求書を手交しようとするが、原告C側は要求書を受け取らなかった。

(7) 被告Aらは、平成11年9月初旬、4人ほどで本店を訪れ、Fに要望書を渡そうとしたがFは受け取りを拒否した。平成12年1月の際は、2メートル近い旗を持って朝8時ころに来て、まず原告Dへの面会を求めたがFが不在であると伝えると、30分位、地域住民に向けて争いのない事実等(4)の街宣活動等を行った(甲15の1、甲16、21、被告A169ないし172項)。同年2月ころにも、被告Aらは、R駅前で、「争議潰し攻撃(仮処分、刑事弾圧)粉砕!」などの大見出しで、「解雇理由は誰の目にも明らかなでっち上げ!」などとするビラを配布した。平成12年1月29日付けビラ(甲16)、13年8月6日付けビラ(甲26)、9月22日付けビラ(甲24)には抗議先として本店の所在地・電話番号・ファックス番号が記載されている。本店所在地周辺は多数の人々が居住する普通の住宅街である。Fは、近所の人から、街宣活動等に関し直接非難されたことはないが、ビラを渡されたり、近所の人が被告Aらに対し「朝からうるさいな。」と怒鳴ったという話を聞かされたりし、また、取引銀行の担当者からビラを渡されたこともあった(証人F16、33、34頁)。

(8) 平成11年9月以降の街宣活動等の頻度は概ね月に1回であり、被告Eの本社へは仮処分命令が発令された後3回、概ね2、3か月に1度の頻度、仮処分命令が発令された後本件工場付近での街宣活動は禁止されていない部分で行い、要請文を交付するときだけ敷地内に入った。

2 差止め請求について
(1) 立入禁止(甲事件の請求の趣旨(1))について
原告Cは、その事業の主体として、他人に業務を妨害されることなく事業を営む権利、すなわち営業権を有しているところ、同原告は所有者被告Eから、業務遂行上別紙物件目録(1)の土地建物の利用や使用を認められ、これを使用して業務を行っている。これに対し、被告Aらは何ら同土地に立ち入る権限を有していないし、原告C及び所有者被告E(甲12)は被告Aらの立ち入りを拒否する意思が明確である。このような場合、原告Cは、業務遂行の支障となる恐れがある限り、営業権に基づき、被告Aらに対し立入禁止を求めることができる。ただし、所有者の被告Eとは異なり、業務の妨害となる恐れのない態様での立ち入りまで差し止める権利を有するものではない。

そこで検討するに、別紙物件目録(1)の4の土地内に立ち入ることは基本的に業務遂行の支障となる恐れがあるからこの限度では理由がある。ただし、主文1(1)のとおり、人数3名以内、時間5分以内で、平穏な態様での要請文書の提出行為については、特段業務の支障となる恐れがあるとは認められないから、このような行為までの差し止めは認められない。また、事前差し止めを認めるには、当該違法行為が反復継続される蓋然性が必要であるところ、被告Aらが、同目録別紙図面「主」の建物及び③の建物に許可なく立ち入ったことを認めるに足りる証拠はないから、これに対する立入禁止を求める請求も理由がない。その余の部分は業務遂行の支障となる恐れがあると認めるに足りる証拠がなく、理由がない。

(2) 業務等の妨害禁止(甲事件の請求の趣旨(2)、乙事件の請求の趣旨(1))について
(ア) 街宣活動等の名誉毀損の成否
被告Aらの街宣活動等の宣伝内容の要点は、原告Cと被告Aとの法律関係が労働契約であることを前提として、原告Cないし原告Dが被告Aの組合活動を弾圧する目的で被告AのJに対する暴行・傷害事件をでっち上げて被告Aを不当解雇したことである(争いのない事実等、被告A本人25頁)。このような、同原告らが自己の利益のため他人を罪に陥れるという甚だ悪質・違法な行為を行ったとする内容の具体的事実の摘示は・同原告らに対する社会的な評価を大幅に低下させるものである。そして、前記認定のとおり上記宣伝内容は真実とは認められないものであり、また、暴行・傷害事件がでっち上げではないことは、被告A自身が体験しており、それが真実であると信じたとは認められず、被告Bの関係でもそう信じたことに相当の理由があるとはいえない。したがって、この点において被告Aらの街宣活動等は名誉毀損の不法行為を構成する違法な行為である。

なお、暴行・傷害事件がでっち上げであるとする点につき、被告Aらは、当初暴行事実自体を否定する趣旨であったが、その後、同原告らが出血を伴う傷害事件であったと触れ回ったとして、傷害の発生の点にポイントを置くようになっているが、前記のとおり暴行自体は存在し、かつ前記のとおりの診断書が作成されている以上、暴行・傷害事件自体がねつ造であるとは到底いえず、事件がでっち上げであるとする趣旨の宣伝はやはり違法である。

(イ) 差止めの可否について
(a) まず、ビラの配布差止めについて判断する。
上記のような内容の文書を不特定多数の者に配布することは、その手段方法という面から見ても、広い範囲に流布され信用名誉を毀損する程度が特に大きく、本店所在地兼住所地のある市町村といった相当広い範囲での差止めの必要がある。したがって、原告らのこの点の請求は理由がある。

(b) 次に、甲事件の原告Cの街宣活動差止めについて判断する。 これについては、宣伝内容による信用毀損という面のほかに、騒音を出したり、通路前面道路に多人数で滞留するなど実力による直接の業務妨害という面がある。

前者についてみると、上記のような表現内容を社員のほか取引先なども出入りする出入口に接した部分で大声を上げ、ハンドスピーカーを使用したりして宣伝活動を行うことはやはり原告Cの信用を毀損する程度が大きく、差止めの必要がある。

後者についてみると、ダンプカーの出入口に面する部分で、多人数の者が、業務中に長時間にわたり滞留して街宣活動をする行為は直接業務の支障となる恐れがあり、原告Cの営業活動を侵害する違法な行為であり、原告Cは被告Aらに対しこのような行為の差止めを求めることができる。

被告Aらは、出入口付近では街宣活動を行っていないと主張するが、甲8、31は、その付近で街宣活動が行われたという趣旨であるところ、工場の敷地内に立ち入って宣伝活動を行ったこともあること、上記の点を否定する客観的な証拠もないことから採用できない。 よって、いずれの点から見ても同請求は理由がある。

(c) 次に、乙事件の原告Dの街宣活動差止めについて判断する。
この点では、街宣活動の態様において、比較的少人数、短時間であるとしても、原告DやFの私生活の平穏や住宅地という地域性から大きな制約を受けるというべきであり、請求の趣旨記載の範囲での街宣活動を禁止する必要がある。

被告A及び同Bは、本店が原告Cの本社であり、原告Dがよそでは見つけられないから必要性があると主張するが、前記認定1 (3)のとおりの状況であり、本店が本社機能を有するとはいえず、結局、代表者個人宅への街宣活動と異ならないから、同主張は採用しない。

(3) 原告Cの面会等強要禁止(甲事件請求の趣旨(3))について 被告Aらのこのような行為により、原告Cに業務上の支障が生じたと認めるに足りる証拠はない。

よって、この点に関する原告Cの請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(4) 被告A及び同Bの主張について

被告A及び同Bは、その行動が正当な団結権の行使であり違法ではないと主張する。しかし、前記のとおり被告Aはそもそも労働組合法上の労働者ではなく、また、憲法28条の勤労者は労組法上の労働者と同意義であると解されるから、これにも該当しない。また闘う会も解雇撤回闘争を目的とする一時的な団体であって労働組合ではないし、憲法28条の保護を受けうる団体であると認めるに足りる証拠はない。したがって、本件の街宣活動等は上記保護を受けるものではない。また、仮に被告Aらが同保護を受けるとしても、労働組合活動ないし団体行動も、その目的だけでなく、その手段・態様においても社会的に相当と認められてはじめて正当なものとしてこれら保護の対象となるのであって、これを欠く組合活動等は正当なものではなくこれら保護の対象外として違法の評価を免れないところ、上記行為は社会的に相当と認められる範囲を逸脱していると解すべきことから、同被告らの行為は正当な組合活動等ではなくこれら保護の対象外として違法の評価を免れない。被告A及び同Bは、原告Dが交渉に応じないなどの不誠実な対応をすると主張するが、原告Dは、当初の段階で、3名に人数を限定すれば交渉に応じる旨申し入れており、被告Aらはそれを拒否して、上記のとおり違法なビラまきや街宣活動を開始してしまったという経過であるから、原告Dの対応が不誠実であるとはいいがたく、むしろ被告A及び同Bの側の責任が重い。

したがって、いずれにしても同被告らのこの点の主張は採用できない。

3 慰謝料請求(甲事件請求の趣旨(4)、乙事件請求の趣旨(2))について 争いのない事実等(4)、(7)の街宣活動等は、前記1の経過を考慮すると2(2)と同様に原告C及び原告Dに対する名誉毀損、原告Cの営業権の侵害、原告Dの人格権の侵害の不法行為を構成すると認められるところ、その経緯、行為態様、その他本件に現れた一切の事情を考慮して、慰謝料額は各原告に対し各20万円が相当である。

4 結論 以上のとおりであるから、甲・乙事件請求は、主文第1項(1)ないし(3)、第2項(1)、(2)の限度で理由があり、その余は理由がない。

東京地方裁判所民事第11部
(裁判官・多見谷寿郎)