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保険関連事件

005

H15.7.17 横浜地裁

損害賠償請求事件

平成15年7月17日判決言渡
平成12年(ワ)第3496号 損害賠償請求事件

判   決

原告 A1訴訟承継人A3
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔, 同 大下信
被告 B1
被告 B2
同代表者代表取締役 B1
被告 C
被告 D

主   文

1 被告らは,原告に対し,連帯して4000万円及びこれに対する平成6年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
主文と同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,保険会社である原告が,被告らが原告(ただし,後記のように合併による訴訟の承継があった。)から保険金を詐取することを企てて共謀の上,真実はイタリー製高級絵柄タイル(価額3847万円)及びフランス製ステンドグラス(価額7880万円)が倉庫に存在しなかったにもかかわらず,原告に対し上記商品が火災により焼失した旨の虚偽の損害申告をし,原告に上記商品が火災により焼失したと誤信させて保険金を支払わせ,もって原告から同保険金をだまし取ったと主張して,詐欺の共同不法行為に基づき被告らに対し損害賠償(支払済み保険金額に係る損害金の内金4000万円とこれに対する民法所定の遅延損害金)を請求したところ,被告らが原告の主張事実を全面的に争った事案である。

2 争いのない事実(後掲証拠により明らかな事実を含む。)
(1) 当事者
ア 本件訴訟の被承継人であるA1は,損害保険業等を営む会社であったが,平成**年**月**日に原告(ただし,同日に「A2」が「A3」に商号変更した会社)に合併されて,現在の原告になり,A1に係る法律関係はすべて包括的に原告に承継された。そして,原告も損害保険業等を営む会社である(したがって,後記の各火災に関係する保険会社はすべて上記合併前の「A1」であるが,煩瑣を避けるため単に「原告」と表示する。)。

イ B3(昭和47年12月23日設立,平成7年7月21日「B4」に商号変更。)は,室内装飾品等の製造・販売業等を営む会社であったが,平成8年4月1日に横浜地方裁判所において破産宣告を受けた。

ウ 被告B1はB3を設立し,昭和47年12月23日から平成2年3月10日まで及び平成4年11月20日から平成5年8月22日まで,B3の代表取締役を務めた(乙4の13頁,丙7)。

エ 被告B2(昭和49年4月18日設立。商号は,昭和56年4月25日まで「B5」,その後平成2年10月21日まで「B6」。以下被告B1と被告B2とを併せて「被告B1ら」という。)は,不動産業,損害保険代理業及び家具インテリアの売買・輸出入業等を営む会社であり,被告B1が昭和56年4月から代表取締役を務め,一部の株式を保有している(乙4の14・19頁)。

被告B2は,後記平成5年10月8日の火災当時B3の株主であり,原告の保険代理店としてB3と原告との間の保険契約を取り扱っていた。

オ 被告Cは,平成5年8月22日から平成8年4月1日までB3の代表取締役を務めた。したがって,後記の平成5年10月8日の火災のころは,同被告がB3の代表取締役を務めていた。

カ 被告Dは,平成2年3月10日から平成4年11月20日まで,B3の代表取締役を務め,その後B3の取締役として経理を担当していた(以下被告Cと被告Dとを併せて「被告Cら」という。)。したがって,後記の平成5年10月8日の火災のころは,被告DはB3の取締役として経理を担当していた。

(2) 保険契約(以下の各保険契約を総称して「本件保険契約」という。)
ア B3は,平成4年12月3日に原告との間で前年度の契約を更新して以下の内容の保険契約を締結した(乙5,10)。

被保険者 B3
保険の種類 動産総合保険
保険期間 平成4年12月6日午後4時から平成5年12月6日午後4時まで
保険金額 8000万円
保険の目的 鉄骨ストレート葺2階建倉庫(以下「本件倉庫」という。)内に存する家具製品,半製品,仕掛品,原材料

イ B3は,平成5年9月13日に原告との間で,新規に次の内容の保険契約を締結した(乙6,10)。

被保険者 B3
保険の種類 動産総合保険
保険期間 平成5年8月24日午後4時から平成5年11月24日午後4時まで
保険金額 1億円
保険の目的 本件倉庫内に存する展示品一式(家具商品,半製品,原材料)

ウ B3は,平成5年9月13日に原告との間で,新規に以下の内容の保険契約を締結した(乙7,10)。

被保険者 B3
保険の種類 動産総合保険
保険期間 平成5年8月7日午後4時から平成5年11月7日午後4時まで
保険金額 4000万円v
保険の目的 本件倉庫内に存する展示品一式(家具商品,半製品,原材料)

エ B3は,平成5年4月27日に原告との間で,前年度の契約を更新して以下の内容の保険契約を締結した(乙8の1・2,11)。

被保険者 B3
保険の種類 店舗総合保険
保険期間 平成5年4月28日午後4時から平成6年4月28日午後4時まで
保険金額 2000万円
保険の目的 本件倉庫内(平成5年9月4日に大阪市所在の倉庫から変更)に存する商品,製品,半製品,仕掛品,原材料

オ B3は,平成5年9月14日に原告との間で,前年度の契約を更新して以下の内容の保険契約を締結した(乙9,11)。

被保険者 B3
保険の種類 店舗総合保険
保険期間 平成5年9月14日午後4時から平成6年9月14日午後4時まで
保険金額 1000万円
保険の目的 本件倉庫内に存する機械,設備,什器,備品

カ 上記ア,イ及びウの動産総合保険契約は以下の内容を含む。
(ア) 保険金を支払う場合
動産総合保険普通保険約款(乙10)に従い,偶然の事故によって保険の目的物が滅失・毀損した場合には,原告はB3に対し,上記滅失・毀損によって実際に発生した損害に対し損害保険金を支払う(同約款1条1項)。

(イ) 損害発生の場合の手続
B3は,保険の目的について損害が生じたことを知ったときは,原告に対し遅滞なく書面をもってこれを通知し,かつ,自己の費用をもって,損害状況調書及び損害見積書を作成し,これに原告の要求する証拠書類,帳簿その他の書類を添えて,損害発生を通知した日から30日以内又は原告が書面をもって承認した猶予期間内に原告に提出しなければならない(同約款15条1項)。

(ウ) 免責条項
B3が前項の書類中に故意に不実の記載をし又は事実を隠蔽したとき(代理人又は第三者をしてなさしめたときも同様とする。)は,原告は保険金を支払わない(同約款15条2項)。

キ 上記エ及びオの店舗総合保険契約は以下の内容を含む。
(ア) 保険金を支払う場合
店舗総合保険普通保険約款(乙11)に従い,火災,落雷等の事故によって保険の目的物が滅失・毀損した場合には,原告はB3に対し,上記滅失・毀損によって実際に発生した損害に対し損害保険金を支払う(同約款1条1項)。

(イ) 損害発生の場合の手続
B3は,保険の目的について損害が生じたことを知ったときは,原告に対しこれを遅滞なく通知し,かつ,損害見積書に原告の要求するその他の書類を添えて,損害の発生を通知した日から30日以内に原告に提出しなければならない(同約款26条1項)。

(ウ) 免責条項
B3が正当な理由がないのに上記(イ)の規定に違反したとき又は提出書類につき知っている事実を表示せず若しくは不実の表示をしたときは,原告は保険金を支払わない(同約款26条4項)。

(3) 火災の発生(乙12,13,弁論の全趣旨)
本件倉庫において,以下の火災が発生した(以下この火災を「平成5年火災」という。)。

発生日 平成5年10月8日午後9時53分ころ
発生場所 本件倉庫
焼失物 商品,製品,原材料,什器,備品,機械(全損)
出火原因 不明

(4) 保険金の請求
ア B3は,平成5年12月16日及び平成6年1月19日に,本件保険契約に基づき,平成5年火災に関し原告に対し以下の内容の損害明細書を提出して保険金を請求した(乙14の1から4。以下この保険金請求を「本件保険金請求」という。)。

(商品類)
自社製品 1027万4040円
輸入金物 2086万7600円
輸入家具 2201万2420円
輸入小物 4897万1553円
原材料 1億7282万7764円
小計 2億7495万3377円

(備品類)
什器,備品,機械 1843万5856円
以上合計 2億9338万9233円

イ B3は,上記損害を認定するための資料として商品,原材料等の仕入伝票等を提出したが,棚卸表(棚卸資産表)は提出しなかった。

ウ 上記損害品中には次の品目が記載され,同品が平成5年火災により焼失したと報告されている。

イタリー製高級絵柄タイル 小計3847万円
(以下「本件タイル」という。)

フランス製ステンドグラス 小計7880万円
(以下「本件ステンドグラス」という。)

合計 1億1727万円

エ B3は,本件タイル及び本件ステンドグラス(以下両者を併せて「本件商品」ということがある。)の資料として,架空の取引であるB3とEとの間の本件商品の売買に係る契約書(平成2年4月7日付け。以下「本件売買契約書」という。),その売買代金請求書,領収書及びオーダーシート(納品書)を提出した(乙24の1から4。以下これらをまとめて「本件売買契約書等」という。)。

本件商品は,平成5年3月期(22期)及び平成6年3月期(23期)の各棚卸表(乙22,23),B3が本件保険金請求時に原告に対し提出した商品,原材料等の仕入伝票等にも記載がない。

(5) 保険金の支払
原告は,本件保険金請求の提出書類中にB3が損害品と申告したおおよその商品・原材料等が記載されていることを確認し,特に本件商品には本件売買契約書(乙24の1)も存在することから,B3の申告が真正なものであると判断し,B3に対し,平成5年12月28日に備品類の損害に対応して1000万円,平成6年2月8日に商品類の損害に対応して2億3800万8057円の各保険金(合計2億4800万8057円)をB3名義の預金口座に振り込む方法で支払った(乙17資料4)。

上記各保険金額は,FのGが作成した鑑定書(乙18)に基づき算定されたものであるが,同鑑定書は,本件商品の損害額については,仕入額をB3の請求のとおり,本件タイルについて合計3847万円,本件ステンドグラスについて合計7880万円とし(両者合計1億1727万円),これら商品の輸入時期(平成2年)との関係で為替差益を考慮して25%の減額をし,損害額を8795万2500円(1億1727万円×0.75)とするものである(乙18)。

その結果,同鑑定書では,製品・半製品・原材料の損害価額は,合計で2億3097万8957円とされている(乙18)。

(6) B3の火災歴
B3に関しては,平成5年火災のほかに次のような火災が発生している。

ア 平成元年火災

発生日 平成元年7月4日
焼失物 B3の工場
出火原因 火元はB3の工場に隣接した工場であった。
支払保険金 約1億9000万円

イ 平成8年火災(乙1,2の1から5)

発生日 平成8年2月13日午前12時49分ころ
発生場所 鉄骨耐火被覆ACL板張金属板葺4階建て事務所兼作業場兼工場1棟(以下「本社建物」という。)の4階作業場
焼失物 絵画,その他の商品,金型
出火原因 不明
支払保険金 なし

(7) 平成8年火災後,B3は,平成8年2月29日に横浜地方裁判所に対し破産の申立てをし,同年4月1日に同裁判所において破産法126条1項の支払不能を原因とする破産宣告を受けた(甲3)。

(8) B3の破産管財人Hは,平成8年火災による絵画等の焼失により862万7238円の損害が生じたとして,平成7年12月6日に締結した以下の保険契約(甲1)に基づき,平成10年8月4日に原告に対し保険金862万7238円の支払を求める訴えを当庁に提起した(当庁平成10年(ワ)第2728号事件。以下「平成8年火災保険金請求事件」という。)。

被保険者 B3
保険の種類 店舗総合保険
保険期間 平成7年12月6日から平成8年12月6日午後4時まで
保険金額 8000万円
保険の目的 本社建物内に存する商品,製品,半製品,仕掛品,原材料

(9) 平成13年1月17日に本訴事件(平成12年9月18日に提訴された平成12年(ワ)第3496号事件。当初はHも被告とされていた。)は平成8年火災保険金請求事件に併合され,平成14年1月9日に,原告とHとの間で大要次の内容の訴訟上の和解が成立した。

ア (平成8年火災保険金請求事件について)
Hは,原告に対し,原告のHに対する平成8年火災を保険事故とする平成7年12月6日契約の店舗総合保険契約に基づく862万7238円の保険金支払債務が存在しないことを認める。

イ (本訴事件について)
(ア) Hは,原告に対し,B3が平成5年火災を保険事故とする本件保険契約に基づく保険金請求について1億1727万円相当の被害額の過大申告を行い,原告から同金額を詐取したことによる1億1727万円の内金4000万円の損害賠償債務が存在することを認める。

(イ) Hは,原告に対し,上記(ア)の損害賠償債務のうち10万円を平成14年1月31日限り支払う。

(ウ) Hが上記(イ)の金員を支払ったときは,原告は上記(ア)のその余の損害賠償債務を免除する。

2 本件訴訟の争点
本件訴訟における争点は次のとおりである。
(1) 本件商品(本件タイル及び本件ステンドグラス)が平成5年火災当時本件倉庫に実在していたか。

(2) 本件商品が実在していなかった場合に,被告C及び被告Dがそのことを認識しつつ共謀の上虚偽の損害申告をして原告から保険金を詐取したと認められるか。

(3) 上記(2)が肯定される場合に,その保険金詐取について被告B1と被告C及び被告Dとの間に共謀があったと認められるか。被告B2に責任があると認められるか。

3 原告の主張
(1) 詐欺の事実(請求原因)
ア B3の代表取締役であった被告C,取締役であった被告D及び同社の事実上のオーナーであった被告B1は,原告から保険金を詐取することを企て,共謀の上,真実は平成5年火災当時本件タイル(3847万円相当)及び本件ステンドグラス(7880万円相当)が本件倉庫に存在していなかったにもかかわらず,本件保険金請求に際し,原告に対し,本件商品が本件倉庫において焼失したと虚偽申告し,その存在及び価額の証拠として架空の書類である本件売買契約書等(乙24の1から4)を提出して原告を欺き,原告に本件商品が平成5年火災により焼失したと誤信させ,B3に対し本件商品の損害に係る保険金として上記同額を支払わせ,もって原告から上記同額をだまし取り原告に同額の損害を与えた。

イ また,本件商品に係る申告が虚偽であれば,原告は約款により当該虚偽部分のみならず保険金額全額を支払わなかったから,支払保険金額全額について詐欺が成立する。

ウ よって,原告は被告らに対し,共同不法行為に基づき(被告B1が代表取締役を務める被告B2については,商法261条,78条2項,民法44条1項に基づき),損害金2億4800万8057円(支払済み保険金)の内金4000万円とこれに対する保険金の最終支払日の翌日である平成6年2月9日以降支払済みまでの民法所定年5分の遅延損害金の連帯支払を求める。

(2) 本件商品が本件倉庫に実在していなかったことについて
ア 本件商品は,B3の棚卸表(乙22,23),貸借対照表等の正規の帳簿にも,B3が本件保険金請求時に提出した商品,原材料等の仕入伝票等の書類にも記載がない(乙15から17)。

イ 本件商品は,合計1億を超す高額商品であるのに,売買・預託等の契約書,請求書,領収書,発注書,納品書や伝票等の外部の第三者が作成に関わる文書が存在しない。

ウ 丙5の「仕入商品及び部品管理表」(以下「本件管理表」という。)は,次のとおり信用性がない。

(ア) 本件管理表は,手書きの文書で,外部資料による裏付けもなく,いつ誰によって作成されたか明らかではない。

(イ) 被告B1らは,本件管理表記載の商品等はWから仕入れ、昭和51年11月20日から昭和55年2月20日までの間にWに納品した他の商品の代金と相殺勘定(B3のWに対する売上高の5%から8%)で代金を支払ったと主張している。

本件管理表記載の商品(代金合計1億5234万円)すべてを5%の割合で代金相殺するには,Wに対する売上額が昭和51年5月から昭和54年3月までの期間に30億4680万円必要であり,すべてを8%の割合で代金相殺するには同売上額が19億0425万円必要である。しかし,帝国データバンク(帝國興信所)の資料(乙26から30)によると,B3の売上高は,昭和51年度(昭和51年に期末が到来する事業年度。以下同じ。)が約1億1000万円,昭和52年度が約1億6000万円,昭和53年度が約2億5000万円,昭和54年度が約4億1400万円であるから,被告B1らが主張する相殺勘定が可能であったとは考えられない。

(ウ) 被告らは,本件管理表の原本は被告B1から被告Dが引継ぎを受けて本件倉庫に保管していたところ,平成5年火災で焼失してしまったが,被告B1がそのコピーを所持していたことから,これを証拠提出したと主張している。

本件管理表が簿外の商品管理表であるならば,会計部門か担当役員が本社で保管すべきものである。この点に照らすと,被告らの上記主張は不合理で,本件管理表の原本が平成5年火災当時に存在していたことは極めて疑わしい。

(エ) 昭和51年当時のB3は年商約1億円の会社であって,取引開始直後にWが1億円以上の商品を押し付け販売したとは考えにくい。

(オ) 平成5年火災当時B3の資金繰りは逼迫していた(乙15)。それにもかかわらず,高額商品である本件商品を商品化・転売することなく18年以上も死蔵していたというのは余りに不自然である。

(3) 被告B1と被告C及び被告Dとの間の共謀の存在
ア 原告からB3に対し保険金約2億4800万円が振り込まれた直後,被告B1は平成6年2月14日及び21日に合計5800万円を,被告B2は同月8日に3500万円を,それぞれB3から受領している。

また,被告B1は,被告B2の代表取締役として原告から保険金3800万円の支払を受けている。

イ 次にみるとおり,被告B1は,B3の事実上のオーナーとして実権を握り,被告C及び被告Dらを使ってB3を経営していた。

(ア) 被告B1は,昭和47年12月にB3を設立し代表取締役として同社を経営してきたが,平成2年3月に取締役でもなかった被告Dを大抜擢して代表取締役に就任させた。平成4年11月には,被告B1が自らリストラを行うため被告Dに替わって再びB3の代表取締役に就任した。

本件保険契約のうちの2件の契約は,被告B1が平成5年火災の2か月前に新規で保険期間3か月の約定で締結したものである(乙6,7)。

被告B1は,本件保険契約締結について,保険代理店である被告B2の代表取締役としても関与していた。

上記新規の保険契約締結直後の平成5年8月,被告Cが被告B1に替わってB3の代表取締役に就任した。その後被告B1がB3の自己破産を決定して被告Cに指示し(乙4),平成8年2月29日にB3は自己破産申立てを行った。

(イ) B3及び被告B2は,被告B1を中心とする典型的な同族会社であり,被告B1の支配が全面的に及んでいた。

ウ 被告B1は,保険代理店である被告B2を経営し,保険手続について知識を有している。平成元年の火災では,被告B1自身がB3の代表取締役として保険金請求を行い,実際に多額の保険金支払を受けた。

また,平成5年火災後には,被告B1が代表取締役を務める被告B2が原告の保険代理店として本件保険金請求手続をした。

エ まとめ
以上から,被告B1が,被告C(B3の代表取締役)及び被告D(同社の取締役)と共謀し,平成5年火災に関する詐欺を画策したことは明らかである。

(4) 平成5年火災と平成8年火災の類似性による共謀詐欺事実の裏付けv
ア B3は,両火災時において,資金繰りが逼迫した状況にあった(乙15,25)。

イ 被告B1らは,火災発生に近接した時期に突然多額の保険契約を締結している。

ウ 損害品とされた商品は,いずれの火災においても,輸入品で製造元を特定しにくく,かつ,高額で客観的な値段を算出しにくいものである。また,いずれも購入時期が昭和51年から昭和54年と相当古く,購入先はWであるが,Wから買った当時の伝票その他の外部資料がない。

エ 被告B1らは,いずれの火災においても,保険金請求に際し証拠をねつ造している(平成5年火災について乙24の1から4,平成8年火災について甲5,6,12,13,15の1・2,16の1・2)。

オ 以上から,被告B1は,B3の経営が苦しくなると,資金を得るために保険金詐欺を行うことを企て,実際には存在しない商品が焼失したと虚偽の損害申告を行い,保険金請求資料等をねつ造して保険金請求を繰り返していたことが分かる。

(5) 被告B2の関わりについて
B3及び被告B2は,上記のとおり被告B1をオーナーとする典型的な同族会社で被告B1の支配が全面的に及び,B3と被告B2の利得損失がそのまま被告B1の利得損失に直結することが明らかなところ,被告B1は,一面においてB3から被告B2に金銭を支払わせる目的で上記不法行為をなしたのであるから,被告B2の代表取締役として同社の業務に起因して不法行為を行ったものである。

4 被告B1及び被告B2(被告B1ら)の主張
(1) 原告主張の詐欺の共謀事実は否認する。
原告は,平成5年火災後,B3からの本件保険金請求の段階で,B3から提出された諸資料を十分に検討し,また,Gが現場及び書類の調査を行った上で,本件保険金請求に問題がないとして保険金を支払ったのであり,本件保険金請求に何ら詐欺の事実はない。

(2) 本件商品が本件倉庫に実在していたことについて
ア 本件商品のWからの購入
(ア) 本件商品(完成品ではなく部品である。)は,被告B1が代表取締役であった間にWから預かり品として預かっていたものを,その後Wからの押し付け販売により,B3のWに対する月額約5000万円の商品代金請求権の5%から8%の代金請求権との相殺処理によって購入したものである。この経緯は,丙5の本件管理表(昭和51年9月ころ作成)のとおりである。すなわち,本件商品を含む本件管理表記載の商品の販売は,昭和51年10月15日から昭和53年6月30日まで行われ,上記の相殺処理は,昭和51年11月20日から昭和55年2月20日まで行われた。その一部は商品化するなどしたが,大半が在庫として残っていたものである。

(イ) 相殺処理の内容
a WがB3に販売した商品代金(本件商品を含む。)とB3がWに販売した商品代金とを相殺するに当たっては,本件管理表の原本を元帳として,相殺すべきおおよその金額(Wに納品する商品代金の5%から8%)をあらかじめ設定し,相殺すべき金額をあらかじめWの担当者に連絡しておき,Wは,その金額をB3からの商品代金請求額から差し引いた金額をB3に送金し,B3は請求額と送金額との差額分をあたかもWからB3に商品が返品されたかのように見せかけるため,B3の経理課においてあらかじめ相殺金額に見合う分として抜粋していた伝票に合わせて「返品伝票」を作成し,帳簿上「返品」として記載していた。

なお,B3では,上記の返品処理された商品についてはプラスして生産をするものの,帳簿上はそのプラス生産分を計上しない方法で,帳簿上の在庫数と実際のそれとを調整していた。

b B3のWに対する売上額は,以下のとおりである(丙14の1から5)。

昭和50年5月から昭和51年4月 9810万円
昭和51年5月から昭和52年4月 1億4141万円
昭和52年4月から昭和53年3月 4億1489万円
昭和53年4月から昭和54年3月 5億3813万円
昭和54年4月から昭和55年3月 6億2500万円

合計 18億1700万円

c これに対して,上記期間にB3がWから購入した商品の代金分の相殺金額は1億7649万5000円であって,B3の売上げの金額の約9.7%であった(丙27の別表1)。

イ 本件商品を簿外資産とした経緯等
(ア) 本件商品代金の相殺処理は昭和55年2月に完了したが,その後B3がオリジナル商品の生産販売等で多忙であったことから,本件商品は在庫品として保有されることとなった。被告B1は,当初は預かり品であった経緯を考慮し,さらに棚卸資産額が大幅に増大することを避けるため,本件商品を簿外資産としたのである。

(イ) 上記簿外資産については,平成2年3月10日に被告Dが代表取締役になった際,本件管理表の原本を含む引継書をもって被告B1から被告D及び被告Cに対し引継ぎがされた。

ウ 本件管理表作成の経緯
本件商品をWから買い取ることになった際に,B3の当時の経理担当部長J(故人)が「W推奨商品購入一覧表」を考案作成し,それを購入価格及び代金決済方法の協議に活用していた。その後担当部署が変わる際,上記の表は「仕入部品管理表」(本件管理表)と改められ,現物とともに後任者に引き継がれた。そして,同表は平成2年の代表者交替に伴って被告Dに引き継がれ,平成5年火災の際に本件倉庫内で焼失した。

エ 本件商品の確認行為
(ア) EのK社長は,本件倉庫の一角を間借りするに際し,倉庫内の商品等が紛失した場合等に備え,B3の社員立会の下に,各商品等の上にバインダーで止めた形で置かれていた本件管理表の原本と現場の商品等とを一点ずつ照合しながら確認し,本件タイルが段ボール箱に,本件ステンドグラスが木箱の中にそれぞれ保管されていたことを確認した。

(イ) 被告Dは,平成2年3月の被告B1からの引継ぎの際に本件倉庫に同行し,本件ステンドグラスが木箱に梱包され,本件タイルが段ボール箱に保管されている状況を目撃した。被告Cも平成5年に行われたバーゲンセールの商品展示の企画の際に本件商品を目撃した。B3のL社員も同様である(丙13)。

オ 本件売買契約書について
(ア) Kは,自社のL/C開設のために,B3の当時の代表者被告Dの協力を得て,本件商品の売掛金債権を有しているかのように仮装する本件売買契約書を作成したものである。もっとも,被告B1は,本件訴訟が提起されるまで,本件売買契約書の存在を知らなかった。

(イ) 被告D及び被告Cは,原告から資料の提出を求められた際,本件管理表の原本が焼失していたため,本件商品の明細の根拠資料として引継書の内容を転記した本件売買契約書(経理部の専用金庫に保管されていた。)を原告に提出したものである。保険金請求のためにわざわざ作成したものではない。

カ 帳簿に記載がないこと等について
(ア) 確かに本件商品は棚卸資産として帳簿に記載されていないが,中小,零細企業においては必ずしも帳簿が正確に作成されているとはいえず,数字が粉飾されることが少なくない。

(イ) 売買契約書,請求書,納品書等の外部資料は証拠として提出されていないが,Wと出入り業者との間の取引(特にWから業者に対する販売)は荷送り書で処理されていた(被告B1本人調書8頁)。ただし,B3の経理においては,上記荷送り書は,本件管理表の原本に転記された後他の伝票類とともにファイルされ,保存義務期間の5年を経過した時点で随時廃棄処分されている。

本件訴訟提起は,平成5年火災に係る保険金請求から7年,B3の破産から5年,さらに本件商品購入時から20年以上も経過した時点でされたものである(乙40も参照。)。したがって,本件商品に関する請求書,納品書等の外部資料が現存していなくても不自然ではない。

(ウ) なお、本件商品を製品化して売却した場合には,当該商品(部品)が簿外資産であったことから,それを「材料代」として計上することはできなかった。したがって,その場合には粗利益が増えることになったが,B3は仕方がないこととして経理処理していた。

キ Gは,タイル,ステンドグラスともにそれらしき物を現場で確認したと陳述しており,本件タイル及びステンドグラスの実在性は裏付けられている(乙19)。

(3) 共謀の不存在
被告B1は,本件保険金請求に何ら関与しておらず,被告C及び被告Dと保険金詐欺を共謀した事実はない。
ア B1コレクションについて
(ア) B3が平成6年2月に被告B1に支払った5800万円は,本件倉庫に保管されていた被告B1の自費購入に係る商品開発のサンプル等の工芸品(後記のB1コレクション)焼失に対する損害賠償金である。

(イ) 被告B1は,創業以来,国内外で数多くのサンプル品を商品開発用に自費で購入していた。そして,商品に①購入年月日,②商品代金,③生産国名,④メーカー名,⑤当面の使用目的を記載した荷札を取り付けて管理・保管していた。ところが,B3が独自に海外のメーカーから同じ商品を大量に購入するにつれ,被告B1所有のサンプル品と区別するため,後者は「B1コレクション」と呼ばれるようになった。

B1コレクションは,丙27(資料3),乙14の4(現在高及び損害明細書No.B-1),乙16(「B4事案,損害検討報告書」3頁の損害品名「輸入装飾金物」欄の商品4品のうちの3品)等によってその存在が裏付けられている(丙27)。同コレクションは商品数250点,購入金額約6000万円であった(丙15)。

平成5年火災で実際にB1コレクションが焼失した以上,B3が被告B1に損害を賠償したのは当然である。ただし,被告B1は,この賠償を受けた後,B3の経営危機を救うため,直ちにこれを同社の増資資金に充てたのである。

イ 被告B2のB3に対する貸付けについて
B3が平成6年2月に被告B2へ支払った3500万円は,被告B2がB3に対して平成4年3月4日から平成5年1月8日にかけて貸し付けた営業資金5000万円に対する弁済金である(丙2,4)。

(4) 被告B2の関わりについて
被告B2は,B3の業務遂行に何ら直接の関係がなく,B3の不法行為に関与できる可能性がない。B3から貸付金の返済を受けたことは何ら関係がない。

5 被告C及び被告D(被告Cら)の主張
(1) 被告C及び被告Dが被告B1と共謀して詐欺をしたとの事実はすべて否認する。

(2) 本件商品の存在について
ア 被告Cらの認識
(ア) 被告Cは,昭和52年4月にB3に入社し,同年9月ころに業務課に配属になった際,本件ステンドグラス等の高級輸入品の存在を知ったが,これが簿外資産であることは知らなかった。同被告は,昭和61年に取締役に任命された後,これらの商品が簿外資産であることを知った。

(イ) 被告Dは,昭和59年6月にB3に入社した。昭和60年5月ころ,被告Dは,上司であった故J専務から本件商品が簿外資産として存在することを知らされた。

イ 本件商品が簿外資産であることについて
(ア) 上記のように,本件商品は被告Dが平成2年に代表取締役に就任した時点でB3の資産中に存在しており,被告B1からの引継書にもその記載があった。しかし,平成2年の時点で本件商品は棚卸資産として計上されていなかったため(その理由は不明である。),被告Dとしてそれらを新たに資産計上するわけにはいかなかったのである。

平成5年8月に被告Cは被告B1から代表取締役を引き継いだが,本件商品はやはり長年簿外資産として取り扱われていたので,特に調査や是正をすることは考えなかった。

(イ) 経営者にとって,貸借対照表上の棚卸資産及び買掛金が激増することは嫌なものであり,その資産が長期間在庫化するとは思っていなかったため,安易に簿外資産としてしまったものと思われる。

ウ 本件売買契約書について
本件商品に係る平成2年4月7日付けの本件売買契約書(乙24の1)は,Eの依頼により,実態のない契約書を作成したものである(Eが架空の売上げを計上する理由は不明である。)。

本件売買契約書の本件商品の数量,単価及び購入代金額は,被告B1からの引継書の内容を転記したものであった。被告Cらは,原告から損害品の明細を明らかにするために納品書,請求書,領収書をセットで提出するよう求められた。しかし,被告B1からの引継書が焼失してしまっていたため,焼失した商品リストの代わりに引継書の内容を転記した本件売買契約書を原告に提出したものである。被告Cらには,本件売買契約書等を損害品の根拠として使用したという意識は全くなかった。

エ 本件管理表(丙5)について
(ア) 本件管理表は,本件倉庫に置いていたため焼失したが,本件売買契約書は,本社の経理部の金庫に保管していたため焼失を免れた。被告Cらは,経営から離れて久しい被告B1が本件管理表を保有していたとは思いもよらなかったため,これを原告に提出しなかった。

(イ) 本件管理表の記載はその内容が複雑で事後的に容易に作成できるようなものではない。

(ウ) 本件商品は,昭和61年11月末ころ,B3東京本社から本件倉庫に移送され,1階東側奥の商品棚に収納され,平成2年10月21日までB3の元従業員であったLが商品出納係として本件管理表に基づきチェックを繰り返していた(丙13)。

オ 火災後すぐであれば損害品の存在について証明できる証拠も提出できたのに,火災から7年も経過した後にその点を問題にされても,証拠が散逸してしまっているのである。そもそも原告は,B3が保険加入した時に,代理店であった被告B2を通じて現品確認を要請したのに,「見ても分からない」などという理由でこれを怠った。

(3) 被告B1に対する5800万円の支払について
被告B2に対する合計5800万円の支払は,本件倉庫に預託展示されていた被告B1個人のコレクションの火災焼失による損害賠償として行ったものである。

第4 当裁判所の判断
1 前記「争いのない事実」に証拠(甲1から31,乙1から43,丙1から丙11,14から29,丁1から3,証人K,証人M,被告B1本人〔兼被告B2代表者〕,被告C本人,被告D本人)と弁論の全趣旨を併せると,以下の事実を認めることができる。丙24から28,丁2,3の各記載及び証人K,被告B1本人,被告C本人,被告D本人尋問の結果中の上記認定に反する部分は,その他の前掲各証拠に照らしたやすく信用することができない。

(1) 被告B1は,昭和47年12月23日にB3を設立して代表取締役に就任し,終始同社を経営してきた。
被告Dは,平成2年3月10日に,被告B1の意向により約20人の上司を飛び越えて一従業員から被告B1に替わってB3の代表取締役に就任した(被告D本人)。

その後被告B1は,平成4年11月20日に,自らリストラを円滑に行うため被告Dに替わって再びB3の代表取締役に就任した(被告B1本人)。

被告Cは,平成5年8月22日に,被告B1に替わってB3の代表取締役に就任した。

(2) 平成5年火災の当時,B3と原告との間には前記「争いのない事実」のとおり5件の保険契約(本件保険契約)が締結されていたが,そのうちの前記「争いのない事実」(2)のイ,ウの新規保険契約を締結することを決定したのはいずれも被告B1であった(被告B1本人)。

(3) 本件保険金請求に当たっては,当時B3の代表取締役であった被告C及び経理を担当していた取締役の被告Dらが,協力して保険金請求書類を作成又は取りまとめて原告に提出した。

被告Cは,被告DからB3とEとの間の架空の本件売買契約書等(乙24の1から4)を受け取り,原告に提出した。当時,両被告とも,上記売買契約書等が実体のない架空のものであることを認識していたが,原告に対しそのことを説明しなかった(被告C本人,被告D本人)。

(4) Fの日本損害保険鑑定人協会所属の2級鑑定人であるGは,平成5年火災の現場である本件倉庫を調査した。B3の申告に係る本件タイル及び本件ステンドグラスの数量・価値・品質は判別不能な状態であったが,Gはそれらしき物を現場にて確認し,その後B3から本件タイル及びステンドグラスについての本件売買契約書等(乙24の1から4)が提出され,これら以外に資料がなかったため,同鑑定人はこれを信用し,本件タイル及びステンドグラスの数量・単価はこの売買契約書等を前提に認定し(乙19),本件タイル及び本件ステンドグラスの輸入時期を考慮して,その損害価額を原告の申告価額に75%を乗じた8795万2500円として,平成6年1月21日付けの鑑定書(乙18)を作成して原告に提出した。

(5) 原告は,B3に対し,平成5年12月28日に備品類の損害に対応して1000万円,平成6年2月8日に商品類の損害に対応して2億3800万8057円の各保険金(合計2億4800万8057円)を支払った。

(6) B3は,平成6年2月8日に被告B2に対し,短期借入金の返済として3500万円を支払った。

また,B3は,平成6年2月8日に,Nに対し短期借入金の返済として1億4000万円を支払った(乙17資料5)。

さらにB3は,被告B1に対し,平成6年2月14日に3000万円を,同月21日に2800万円を未払金の返済として支払った(乙17資料5)。

この5800万円については,B3の平成5年12月の総勘定元帳の未払金の頁において,勘定科目「商品仕入高」5631万0680円,勘定科目「仮払消費税」168万9320円(合計5800万円)と記載されている(乙17資料6)。

(7) 被告B2は,平成6年2月にB3に対し5000万円を出資し,B3の資本金は1億6000万円となった(乙17資料5,丙9の1から5,10)。

(8) 平成5年8月22日以降,被告CがB3の代表取締役を務めてきたが,その後被告B1がB3の自己破産を決定し,被告Cに対してその旨を指示し(乙4の118頁から122頁),平成8年2月29日にB3は横浜地方裁判所に対し自己破産申立てを行った。

(9) 平成5年火災当時のB3の資本金は1億1000万円,発行済株式総数は22万株であり,株主構成は,被告B2 11万株,B3従業員持株会10万株,U 1万株であった。

上記平成6年2月増資後のB3の資本金は1億6000万円,発行済株式総数は32万株であり,株主構成は,被告B2 21万株,B3従業員持株会10万株,U 1万株であった(乙17資料16)

B3の主要株主であった被告B2の株主構成は以下のとおりである(丙11)。

被告B1 1万6000株 800万円
B7 1万6000株 800万円
B8 1万6000株 800万円
B9 1万6000株 800万円
B10 1万6000株 800万円
B11 1万6000株 800万円

(10) 株式会社帝国データバンク(旧株式会社帝國興信所。以下「帝国データバンク」という。)作成の帝国会社年鑑(旧帝國會社要録。以下「帝国会社年鑑」という。乙26から32)には,B3の売上高及び利益が次のように記載されている。(省略)

(11) (平成8年火災について)
ア 被告B1は,平成8年火災発生直前,出火場所において,同場所の賃貸人であるPの写真を撮影したが,Qが撮影したと撮影者名義を偽った内容虚偽の文書を作成し,公証人役場で確定日付をとらせた(甲12,13,被告B1本人)

イ 被告B1は,平成8年火災におけるB3の関係者の行動状況表(甲15の1・2,16の1・2)を作成したが,上記P写真を撮影したのが真実は被告B1であるから,この行動状況表の内容も事実に反する。

ウ 平成8年火災保険金請求事件において,平成8年火災の焼失品とされていた額装油絵をB3に売却した旨の準消費貸借契約書(平成7年7月20日付け。甲5)が証拠として提出されたが,B3の振替伝票(乙17資料21)のとおり,平成8年火災当時の額装油絵の所有者は被告B1であったから,上記準消費貸借契約書は内容虚偽の文書ということになる。

エ 平成8年火災保険金請求事件において,同火災により焼失した絵画の商品管理台帳として証拠提出された甲6(W特選輸入額装油絵管理表)には,当該絵画は昭和51年から昭和54年にかけてWから購入したものである旨の記載がある。

しかし,上記商品管理台帳には,昭和61年以降にWが使用していたロゴマークが記載されている(乙40)。

(12) (B3の財務諸表の状況,経営状態等)
(乙15から17,25,証人M)
ア 原告は,B3に対し,平成5年火災による製品,商品,原材料等の損害額として,2億3800万8057円の保険金を支払った。しかしながら,製品,商品等の棚卸資産の各期末時点の在庫は,19期から25期(平成2年度から平成8年度)のうち,最大でも22期の1億0860万2125円であった(乙17資料2)。

イ B3は,年次ベースで19期以降,常に営業赤字である(営業損益は常に赤字で,最小は21期「-2452万5338円」,最大は23期「-2億1723万6084円」であり,経常損益も21期の黒字「172万5081円」を除くと,22期「-8591万4527円」,23期「-2億3274万6343円」,24期「-1億4110万4802円」,25期「-2億4246万7611円」と大幅な赤字である。乙17資料2参照。)。これによる運転資金不足を補う手段としては,長期的には,借入金の増大によるか,新たな出資(増資)によるしかない。

B3の場合,結果的には,保険金収入によって運転資金不足を補った形になっている。19期には,推定1億9088万1870円(1億2085万1716円+7003万0154円。乙17資料2),23期には,2億4800万8057円の保険金収入を得ている。23期には,保険金を得たことにより,借入金を返済してもなお現金預金等が2902万0829円増加し,財務状況が大幅に改善している。しかし,保険金収入がなかった場合には,通常の営業,投資,財務活動のみを考えると,現金預金等が期末には1億6101万1618円不足し,資金不足で倒産状態に陥った可能性が高い(乙15,25)。

また,B3では,20期に資本金を5000万円から1億1000万円に6000万円増資し,23期に1億1000万円から1億6000万円に5000万円増資している。これは,ともに火災保険金収入を得た後である(乙17資料2)。

B3の借入金の状況を見ると,借入金が立ち始めるのは22期で,期末時点で,短期借入金9800万円(被告B2から2500万円,Nから7300万円。乙17資料19)で,23期は期中で増減はあるものの,最終的に平成6年2月に保険金で1億7500万円(被告B2に対し3500万円,Nに対し1億4000万円)を完済している。

借入金は一旦ゼロとなったが,24期の平成6年7月に再び借入れが始まり,24期末においては短期借入金が4000万円,長期借入金が4930万円(合計8930万円。被告B2から7530万円,Rから700万円,Sから700万円。乙17資料20)となり,25期の借入金の内訳は不明であるが,平成8年2月時点で合計1億6888万5000円(乙17資料3・12),期中で7958万5000円借入れ(このうち5000万円はTからの借入れである。乙17資料13)が増加している(乙15)。

ウ 平成5年度の棚卸表,平成6年度の棚卸表,本件保険金請求の際にB3が原告に対して提出した損害明細書(乙14の1から4まで)に共通して計上されている商品を抽出し,その単価を比較してみると,上記各棚卸表においてはほぼ同様の単価が計上されているが,損害明細書の単価は,棚卸表のそれよりも約20%から40%高くなっている(乙16)。

2 争点(1)(本件商品の存否)について
そこで,前記「争いのない事実」及び上記1に認定した事実に基づき,まず本件商品が平成5年火災の際本件倉庫内に実在したかどうかについて検討する。
(1) 本件タイル及び本件ステンドグラスは,B3の平成5年度及び平成6年度の各棚卸表(乙22,乙23)にも記載されておらず,被告Cらが本件保険金請求時に提出した商品,原材料等の仕入伝票等の書類にも記載されていなかった。したがって,そのような商品が存在したとすれば,被告らが主張するようないわゆる簿外の棚卸資産であったということになるが,1億円以上という,当時の売上高に照らして巨額の棚卸資産を簿外にすること自体,合理的に了解できる事情のない限り,商品の存在を疑わせる事情であるといわなければならない。

被告B1らは,本件商品を簿外にした理由として,①当初それが預かり品であった経緯を考慮したことと,さらに②棚卸資産額が大幅に増大することを避けるためであったこととを挙げている(被告B1及び被告B2の主張(2)イ(ア))。しかし,①の理由はその趣旨を理解できず,②の理由も,そのような巨額の簿外資産を保有する理由としては十分了解することができない。結局,この点について合理的な事情があったことの説明は不十分というべきである。

(2) 被告C及び被告Dは,本件保険金請求に当たり,上記各棚卸表を提出せず,本件商品に係る資料として,架空のものであることを認識しつつ本件売買契約書等(乙24の1から4)を提出し,原告に対しそれらが架空のものであることを説明しなかった。保険会社が損害てん補のための保険の保険金請求に際し損害を受けた物品に係る資料の提出を求めるのは,現実にどの程度の損害が発生したか,すなわち当該物品が存在したことを確認しその価額がどの程度であったかを認定するためであることは自明の事柄であり,現に被告Cも本人尋問において,原告から商品の裏付けとして仕入伝票,納品書及び領収証等を添付するように言われたと供述しているのであるから,被告C及び被告Dが損害を受けた物品の実在を確認し価額を認定するための資料として虚偽の資料を提出したことは,真実はそのような物品が存在しないのに虚偽の資料でそれが存在するように偽装したことを強く疑わせるものといわなければならない。

(3) 本件商品の実在性については,被告B1らから丙5の本件管理表が証拠提出されている。しかし,これは,関係各種資料と関連付けの要素を全く持たない極めて特異な資料というべきである(この資料の信用性については,さらに別途検討する。)。

すなわち,本件商品については,通常企業が仕入れをした際に関係第三者や当該企業の担当者によって作成される売買契約書,請求書,領収証,発注書,納品書,伝票等の資料が一切証拠提出されていない。そして,本件保険金請求の際にもこれらの資料が提出されなかったことや,本件商品の仕入れやその後の製品化・売却の形態に関する被告B1らの主張内容に照らすと,本件商品についてはそもそも業務の過程において通常作成される資料は一切作成されなかったと認めるのが相当である。もともと簿外資産は正規の帳簿には記載がないものであるが,本件においては,簿外であっても通常は別途存在する関係資料が一切存在しないから,結局,本件商品は巨額の会社資産であるのに通常の会社業務のどこにもそれが存在したことの痕跡を残していないということになる。しかし,そのような商品が存在したと考えることは一般的には困難というほかはない。

もっとも、被告B1らは,部品である本件商品を製品化して売却した場合には、この売上げについて正規の会計処理をしていたかのような主張をしている(被告B1及び被告B2の主張(2)カ(ウ))。しかし,被告B1らは,この場合も,本件商品中から部品として使用した商品が簿外資産であったことから,それを「材料代」として計上することはできず,その分粗利益が増大していたとしているから,この簿外資産は売上原価として計上していないことになり,結局この簿外資産は正規の経理とは何ら接点を持っていなかったことには変わりがないことになる。しかし,翻って考えると,そのような処理自体,利益を追求する企業としての合理的な行動とはいえず,これら簿外資産の管理に関する主張内容は,全体として十分了解可能なものとなっていないというほかはない(なお,被告B1らは,平成13年4月4日付け準備書面〔3頁〕では,本件商品中から製品化した場合にはWに納品する際にその都度仕入れとして計上した旨を主張しており,本件商品の仕入れへの計上の点に関する主張自身確固たるものとはいえない。)。したがって,そのような性格の本件管理表記載の本件商品が存在したとは容易に認定することができない。

(4) 被告B1らは,本件商品をWから購入した際,商品代金は,B3がWに納入した商品の代金との間で相殺処理をしたと主張している(被告B1及び被告B2の主張(2)ア)。

ア 相殺処理自身はあり得ることと考えられるが,本来そのような相殺によって支払った分は仕入れに計上すべきであるのに,被告B1らは,その分については返品処理をしたとしている。そして,そのような処理をすると現実の棚卸資産の数量・内容と帳簿上の棚卸資産の数量・内容とが食い違う(前者が不足することになる。)事態が生じるが,それを避けるため、被告B1らは,返品処理をした分についてはプラスして生産をするものの,帳簿上はプラス分を計上しなかったと主張している。そうすると,そのような商品は売上げに計上できない結果になるのはもとより,今度はそのような処理によって新たに現実の棚卸資産の数量・内容と帳簿上のその数量・内容との間に食違いが生じると思われ,どこまで行っても,そのような処理は合理的なものとはいえず,したがって,そのような処理が現実にされていたともにわかに考え難い。そうすると,結局は,一番元の相殺処理自身が疑わしいといわざるを得ない。

イ また,被告B1は,本件管理表記載の商品等は,Wから仕入れたものであり,Wに納品した他の商品の代金と相殺勘定でWに対して代金を支払ったもので,その代金は,B3のWに対する売上高の3%から10%をもってこれに充てた旨を供述している(ちなみに、相殺の割合は,被告B1らの主張内容と異なっている。)。

本件管理表記載の相殺代金合計1億7649万5000円分の商品を相殺勘定で買い入れるには,すべてを3%で相殺した場合には,Wに対する売上額が本件管理表記載の相殺期間である昭和51年11月から昭和55年2月までの間に58億8316万6666円,すべてを10%で相殺した場合には,Wに対する売上額が同期間に17億6495万円必要になる計算になる。

しかし,帝国データバンクの資料等(乙26から30)によると,B3の売上総額は,昭和51年度約1億1000万円,昭和52年度約1億6000万円,昭和53年度約2億5000万円,昭和54年度約4億1400万円,昭和55年度約5億9000万円,合計約15億2400万円であり,被告B1の供述するWとの相殺勘定が可能であったとは考えられず,本件管理表に関する被告B1の上記供述は採用できない。

なお,被告B1は,丙14の1から5の文書を根拠として,B3には相殺処理に当たって十分な売上げがあった旨を供述しているが,一部同一文書と思われる甲9の1から11の2までの文書と対照すると,その記載内容等に相違があり,丙14の1から5までの文書を直ちに信用することはできず,それを根拠とする供述も採用することができない。

(5) 前示のとおり,原告はB3に対し製品,商品,原材料等の損害額として2億3800万8057円の保険金を支払った。ところが,B3の製品,商品等の棚卸資産の期末時点の在庫は,19期から25期(平成2年度から平成8年度)のうち,最大でも22期期末の1億0860万2125円であり(乙17資料2),本件倉庫に正規の期末在庫の倍以上の2億3800万8057円相当の棚卸資産が存在していたとはにわかに考えにくい。

(6) 被告らは,丙5の本件管理表を重要な根拠として,平成5年火災当時本件商品が本件倉庫に存在していたと主張している。しかし,次のアからウまでのような事情を併せ考えると,本件管理表は信用することができず,これによって本件商品が実在したと認めることはできないというべきである。

ア 前示のとおり,本件管理表は,これら商品に係る売買・預託等の契約書,納品書,伝票等の被告ら主張の購入先であるW作成文書による裏付けもなく,これら通常の業務の過程において作成される各種資料との関連付けが全くないものである。本来企業経営は,他との関わりで成立するものであり,また内部的には確立した企業会計原則に従って運営されるものであるのに,そのような企業経営において通常作成される多くの各種資料の裏付けや関連付けを全く持たない資料は,その記載内容の検証が不可能であり,資料としての価値を認めることは困難である。

また,前示のとおり,Wとの間の現実の取引額との関係でも,本件管理表記載の商品の代金支払について被告B1らの主張する相殺処理が行われたと認めることは困難である。

イ 被告B1は,平成2年3月の代表取締役交替に当たっての引継ぎの際、被告Dに対し簿外の商品の管理表として本件管理表の原本を渡し、それは本件倉庫に保管されていたところ,平成5年火災で焼失してしまったが,経営を離れた被告B1が上記原本のコピーである本件管理表を所持していた旨を供述している。

本件管理表の原本が簿外商品の管理表であるならば,商品の管理表という面からだけではなく,それが簿外のものであることにより,一層強い理由で,会計部門か担当役員が本社において管理保管しておかなければ適正な企業経営は不可能というべきである。したがって,保管場所に関する上記供述は不合理なものとして,信用することはできない。

ウ 前記認定のとおり,平成5年火災当時B3の資金繰りは逼迫していたと認められ,そのような経営状況に照らし,15年以上もこのような高額商品を倉庫で死蔵していたというのは余りに不自然である。

(7) まとめ
以上のように,本件においては,本件商品が存在していたと考えるについて不合理な事情が多々存在するところ,反対に本件商品が存在していなかったと考えれば,これらの事情はすべて合理的に了解可能であるから,結局本件商品は平成5年火災当時本件倉庫内に存在していなかったと認めるのが相当である。

被告B1らは,Gが現場で本件商品らしい物を確認したなどと主張し,乙19(Gの陳述書)を援用している。しかし,乙18や乙19によって本件商品が存在したと認定することはできない。

また,丙13,24から28,丁2,3中及び証人K,被告B1,被告C,被告Dの各供述中の被告らの主張に沿う部分は,いずれも採用することができない。

2 争点(2)(被告C及び被告Dによる詐欺の成否)について
(1) 前示のとおり,両名ともに本件保険請求に際し直接の責任者の立場にあった上に,現実に両名が保険金請求書類を作成又は取りまとめて原告に提出したものであり,本件で問題になっている架空の本件売買契約書等(乙24の1から4まで)も,被告Cが被告Dから受け取って原告に提出したものと認められるから,本件保険金請求は,被告Cと被告Dとが共同して行ったものと認めることができる。

そして,上記事情に加え,被告C及び被告DのB3における地位及び職務内容をも考えると,被告C及び被告Dは,本件商品が存在しないことを認識していたものと認めるのが相当である。そうすると,上記被告両名が本件保険金請求に当たり存在しない本件商品に係る資料として架空のものであることを認識しつつ本件売買契約書等(乙24の1から4)を原告に提出したことは,上記被告両名が共謀による詐欺行為に及んだことを推認させるものというべきである。

(2) 次に,前記認定のとおり,B3は平成5年火災当時資金繰りが逼迫し,保険金の支払がなければ資金不足になる状態であったものである。そして,実際に平成5年火災後は保険金の受領により倒産を免れたと評価することができる(乙15,25)。そうすると,被告C及び被告Dには,本件保険金請求に当たり,より多くの保険金を得てB3の倒産を免れるために,平成5年火災の際に本件倉庫に実在していなかった商品を実在していたなどとして虚偽の損害申告をする動機があったと認めることができる。

また,前記認定のとおり,損害明細書の単価は,棚卸表の単価に比べ約20%から40%高い単価となっているから,被告Cらが損害の単価を不正に水増しして保険金請求をしたと認めるのが相当である。

結局,被告Cらには,架空の損害に係る保険金請求をする動機がある上に,実際に上記被告両名は現実の損害についても水増し不正請求をしていたということになる。

(3) 以上によれば,被告C及び被告Dは,原告から保険金を詐取することを企てて共謀の上,平成5年火災当時本件商品が本件倉庫に実在していなかったにもかかわらず,原告に対し,上記商品が本件倉庫において焼失したとの虚偽申告をし,その商品の存在及び価額の証拠として架空の本件売買契約書等(乙24の1から4)を提出して原告に対し欺罔行為をしたものと認められる。そして,その結果,原告は本件保険金請求が真実に基づくもので,本件商品が平成5年火災により焼失したと判断し,B3に対し,本件商品の損害額8795万2500円を含む合計2億4800万8057円の保険金の支払をしたものと認められる。

そうすると,被告C及び被告Dは,共謀して少なくとも本件商品に係る損害額8795万2500円を原告からだまし取ったというべきであるから,原告の上記被告両名に対する請求はいずれも理由があることになる。

3 争点(3)(被告B1と被告Cらとの共謀の有無,被告B2の責任の有無)について
(1) 前記1の認定事実によれば,被告B1は,被告B2の支配を通じてB3を支配し,B3の人事権を掌握して事実上B3を経営し,破産申立ても同被告が決定したものと認められる。そして,被告B1は,その立場上,本件管理表中の本件商品が現実には存在しないことを知っていたものと推認することができる。

しかるところ,平成5年火災当時B3の資金繰りは逼迫した状況であり,被告B1はB3の経営者としてそのことを当然認識把握していたものと認められる。このような状況下において,巨額の架空保険金請求をすること自体重大な経営判断に関わることであり,さらに,そのことが発覚した場合には保険金が全く得られず,B3が倒産に至ることも十分考えられる状況であったと推認されるから,被告C及び被告DがB3のオーナーである被告B1に相談なく本件のような巨額の架空保険金請求をするなどということは到底考えられないことである。

その上,本件保険金請求によってB3が得た保険金のうちから,被告B2は短期借入金の返済として3500万円の支払を受け,被告B1は合計5800万円の支払を受けているから,被告B1は本件保険金請求によって大きな利益を受けたものと認めることができる(なお,その後5800万円のうちの5000万円が,被告B2による出資という方法によってB3の増資に使用されたが,被告B2は被告B1の同族企業と評価されるから,この増資を考えても,被告B1に対する5800万円の支払が被告B1の利益になっていることには変わりがない。)。したがって,この点も,被告B1と被告Cらとの間に本件保険金請求に関し意思の連絡があったことをうかがわせる事情ということができる。

さらに,被告B1には,平成8年火災について保険金請求との関係で不審ないし不正な行動が見られることも指摘することができる。

以上によれば,被告B1は,本件保険金請求における本件商品に係る虚偽申告について被告C及び被告Dと意思を相通じ,共謀の上前記の詐欺行為に及んだものと認めるのが相当である。

(2) 上記(1)にみたように,被告B2とB3とは,B3の株式所有の関係からも密接な関係のあるグループ企業であり,被告B2が本件保険金の中から短期借入金返済として3500万円の支払を受け,また被告B2が5000万円をB3の増資資金として提供していること等に照らしても,B3の資金繰りに関する事柄は,B3からの資金回収等被告B2の経営に直接の影響を及ぼす関係にあったと認めることができる。したがって,B3の営業資金を得るための被告B1の本件保険金請求に関連する行為は,同時に被告B2の代表取締役としての経営行為の性格をも有していたものと認めるのが相当である。

そうすると,被告B2は,その代表取締役である被告B1が不法行為をしたことについて,民法44条の責任を負うものというべきである。

(3) 以上によれば,原告の被告B1及び被告B2に対する請求も理由がある。

第5 結論
以上の次第で,原告の被告らに対する請求をいずれも正当として認容することとして,主文のとおり判決する。

横浜地方裁判所第4民事部
(裁判長裁判官・岩田好二,裁判官・竹内純一,裁判官・宇田川公輔)