最近の判決

保険関連事件

003

H15.5.28 横浜地裁

保険金請求事件

平成15年5月28日判決言渡
平成12年(ワ)第3967号 保険金請求事件

判   決

原告 X
同訴訟代理人弁護士 F
同訴訟復代理人弁護士 G
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔 同 小倉秀夫 同 大下信

主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由
第1 請求
被告は原告に対し,727万1500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成12年11月9日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 前提事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨(争いのない事実を含む)によれば以下の事実が認められる。

(1) 原告は,宝石貴金属,カバン等の販売を主たる業とする会社であり,かつて,(住所)に店舗を設け営業していたものである。

(2) 平成11年7月15日,原告は,Yとの間で以下の保険契約を締結した(このうち保険契約①ないし③を一括して「本件保険契約」という。)。

ア 店舗総合保険(以下「保険契約①」という。)(甲1)

証券番号 4654870683
保険期間 1年間
保険金額
店舗賠償 1億円
借家人賠償 1500万円
什器・備品 200万円
商品(自社商品)
皮革製品 400万円
貴金属 100万円

イ 店舗休業保険(甲1)

証券番号 4654870683
保険期間 1年間
保険金額 1日あたり4万4000円

ウ 保管物賠償責任保険(以下「保険契約②」という。)(甲2)

証券番号 4654870684
保険期間 1年間
保険金額 貴金属(委託販売商品) 500万円

エ 保管物賠償責任保険(以下「保険契約③」という。)(甲3)

証券番号 4654870685
保険期間 1年間
保険金額 皮革製品(委託販売商品) 2000万円

(3) 平成11年9月1日午前2時55分ころ,原告の店舗で盗難事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(4) 本件事故について,Yが原告に支払った保険金は以下のとおりである(甲5の12月27日の貸方欄)。

ア 什器・備品に対する保険金 88万7624円
イ 店舗休業保険金 4万4000円
ウ 合計 93万1624円

(5) 原告はYに対し,本件事故による商品の被害について以下のとおりの申告をした。

ア 被害品47点(委託品44点,買取品3点)
イ 被害金額2874万7000円

(6) これに対し,Yは,原告の申告は不実の申告であるとして,賠償責任保険普通保険約款17条3項(乙2の1)により保険金の支払を拒絶する旨通知してきた(甲9)。

2 原告の主張
(1) 本件事故により原告の被った損害のうち,以下の損害について,被告から保険金が支払われていない。その内訳は別紙被害品目録記載のとおりである。

ア 皮革製品(委託販売商品) 318万1100円
イ 貴金属(委託販売商品) 10万1400円
ウ 皮革製品(自社商品) 398万9000円
エ 合計 727万1500円

(2) 仮に,本件保険契約が買取商品の盗難事故を対象としていないとしても,以下のとおり,被告は原告に対して,契約締結上の過失責任(ないしは従業員Bの過失による不法行為責任)を負うものといえる。

ア 原告は,Aの代理店のCの斡旋で,買取商品の事故も対象とする保険契約をAとの間で締結していた。
Cが,Aの代理店からYの代理店になることとなった。
Cは原告に対し,Aと締結していた保険契約についてYとの契約とすることを要望したので,原告は,これを了承した。

イ Cは,正式には,Yの代理店となっていなかったので,Cは,YのD支店のBを連れて来た。
本件保険契約締結に際し,原告は,Bに対し,委託商品及び買取商品の双方についての事故をカバーできる保険であることを強く指示し,Bはこれを了承した。

ウ Yは,原告の要望に沿った保険契約を締結すべき義務があるのに,その注意義務を怠り,原告の指示とは異なる保険契約を原告と締結した。
原告は,原告の要望どおりの保険契約が締結されていれば支払われたであろう保険金相当額727万1500円の損害を受けた。

(3) Yは,その過失により,原告の要求する内容(盗難事故による買取商品に対する保険金給付)の保険契約を締結しなかった。
本件事故後,Bは原告に対し,本件契約時の説明不足を謝罪し,「何とかするから,買取商品を委託商品であったことにして申告するように。」と懇願された。

原告はYに対し,損害の算定は一任する旨申し出た。

上記事情のもとで,不実申告を理由に被告が原告に対し,保険金の支払を拒絶するのは,信義誠実の原則に反し,権利の濫用であり,許されないものといえる。

(4) よって,原告は被告に対し,本件保険契約(予備的に債務不履行ないしは不法行為による損害賠償請求権)に基づき,保険金(予備的に損害金)727万1500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成12年11月9日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3 被告の主張
(1) 保険契約①は,約款上(店舗総合保険普通保険約款1条4項,7項),什器・備品の盗難には保険金が支払われるが,商品・製品等の盗難については保険金は支払われない。

(2) 保険契約②,③は,約款上(賠償責任保険普通保険約款1条,保管物特別約款1条),盗取された保管物について保険金が支払われる。

(3) 本件保険契約は買取商品の盗難事故を対象とはしていない。買取商品が保険対象となっていないのは,原告代表者が原告の業務形態について全て委託商品と説明したことによる。

(4) 原告が主張する損害内容は以下のとおり不実であり,明確な意図をもってなされたものといえるため,Yは,約款上(賠償責任保険普通保険約款17条3項),保険金を支払えない旨原告に通知した。

ア 原告の決算書(平成10年12月14日から平成11年11月30日)から次の事実が明らかとなった。

a 期末の在庫表に,原告の損害申告書のNo.1(52万円),No.46(86万円)が含まれていた。
b 盗難品一覧表が添付されており,それによると盗難品は23点,342万6000円となる。

イ Yが,高額委託品の調査のため,北海道居住の4名の調査を実行しようとしたところ,原告代表者は,この4名の委託品の調査の中止を要請し,原告はこの4名の委託品についての保険金請求権(合計1088万8000円)を放棄した。

この4名以外にも,原告代表者が調査拒否を行っている委託者が存在する。

第3 当裁判所の判断
1 本件保険契約の内容について
(1) 保険契約①について
保険契約①の保険の目的は,鉄筋コンクリート造陸屋根2階建店舗(所有ないしは占有延面積47.841平方メートル)内に収容された什器備品及び商品である(甲1)。当裁判所は,以下の理由から,保険契約①においては,商品・製品等の盗難に対しては保険金は支払われないものと解する。

ア 保険契約①の保険約款(乙1)の1条4項によれば,「保険の目的である建物,家財または設備・什器等(設備,装置,機械,器具,工具,什器または備品をいいます。)」については,盗難によって損害保険金が支払われる旨規定されており,「商品」が除外されている。

イ 保険の目的である商品について損害保険金が支払われる場合については,保険約款(乙1)の1条7項のように「保険の目的である設備・什器等または商品・製品等(商品,原料,材料,仕掛品,半製品,製品,副産物または副資材をいいます。)」と明確に条項の中に「商品」を入れている。

(2) 保険契約②,③について
当裁判所は,以下の理由から,保険契約②,③においては,委託販売商品の盗難に対しては保険金は支払われるが,買取商品の盗難に対しては保険金は支払われないものと解する。

ア 保険証券(甲2,3)の表題が,「賠償責任(一般)保険証券」となっており,保険契約者が他者に損害を与えた場合に,保険契約者が負担する賠償責任を保険会社が填補する内容の保険であることを明示している。保険契約②,③の保険約款(乙2の1)の1条にも,同様のことが規定されている。

イ 保険証券(甲2)には,「保管物」,「保管価格500万円」,「保管物の明細貴金属」,「保管の目的委託販売物」と明示されている。

同様に,保険証券(甲3)には,「保管物」,「保管価格2000万円」,「保管物の明細皮革製品」,「保管の目的委託販売物」と明示されている。

ウ 保険契約②,③の保管物特別約款(乙2の2)の1条には,保険証券記載の保管物が,滅失,毀損,汚損,紛失,盗取されたことにより,保管物について正当な権利を有する者に対し,被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を,保険会社が填補する旨規定している。

2 本件事故による原告商品の被害について
(1) 証拠(原告代表者本人,甲6)によれば,本件事故による原告商品の被害は別紙被害品目録記載のとおりであることが認められる(原告代表者本人調書11頁)。

(2) なお,原告の確定申告書(乙69)に添付された前払費用等の内訳書には,Yに対する盗難未収保険金として342万6000円が計上されている。証拠(甲17の5頁)によれば,同金額は,現実に盗難にあった委託商品について原告が委託者に賠償した金額を記載したものであることが認められ,同金額をもって,そのまま本件事故による被害金額と解するのは相当でない。

3 本件保険契約に基づく保険金請求の当否について
上記1(1)で述べたとおり,保険契約①は,商品の盗難については,保険金の支払対象となっていない。また,上記1(2)で述べたとおり,保険契約②,③は,買取商品(自社商品)の盗難については,保険金の支払対象となっていない。

また,委託販売商品の盗難については,保険契約②,③に基づき,保険金の支払対象となるものの,当裁判所は次の理由から,被告が原告に対し,保険金の支払を拒絶したのは正当な行為と解する。

(1) 本件事故のあった日(平成11年9月1日)以後,盗難品の明細資料として,原告が,最初にYに提出した盗難チェッククエリー(乙61)には,被害品47点(委託品44点,買取品3点),被害金額2874万7000円と記載されている(原告代表者本人調書12頁)。

(2) 決算期(平成11年11月末)を過ぎて,盗難品の明細資料として,原告が,Yに提出した盗難チェッククエリー(乙62)には,被害品45点,被害金額2562万1500円と記載されている(原告代表者本人調書12頁)。

(3) その後の調査により,原告は,Yから,住所がいずれも北海道となっている4名の委託者の商品(商品総数13点,商品総額1088万8000円)について事実と違う旨の指摘を受けたため,平成12年6月30日付けで,これら商品についての保険金請求を放棄した(乙62,68,原告代表者本人調書10頁)。

(4) 平成12年4月17日付けで原告はYに対し,被害品の点数及び被害金額についてはYに一任する旨の陳述書(甲8)を提出した。

同陳述書(甲8)には,資料の紛失,仮納品書の廃棄,従業員の退職等により,被害品の点数及び金額を立証する資料を提出できない旨の記載がある。

しかしながら,上記(1),(2)のように,原告は,実際の被害額の3.5倍ないしは4倍もの過剰申告をYにしており,その誤差は単なる資料不足では説明のつかないものである。

(5) 原告が,上記(1),(2)のように,自社商品を委託商品として提出する以上に,委託商品を増やして提出したことについて,原告代表者は,本人尋問において,周りの知人などから全額出るものではなく,大体請求額の3分の1ぐらいしか出さないケースが非常に多いと言われていたことや,仕入れた商品がプレミア商品で定価より高い価格で仕入れていたが,保険会社は基本的に定価に対して何掛けという金額でしか査定しないと周りから言われていたため,多めに出さないと自分の被害の実態に合わないと思ったためである旨供述する(原告代表者本人調書9頁)。

(6) すなわち,原告は,確定的故意に基づき,実際の被害額の3.5倍ないしは4倍もの過剰申告を行ったものであり,仮に,原告の申告どおりにYから保険金が支払われた場合,原告は,巨額の不当利得を得ていたことになる。

したがって,原告の行った不実申告は故意かつ重度のものといえるから,Yが,賠償責任保険普通保険約款17条3項(乙2の1)の故意による不実申告の場合の損害不填補の規定に基づき,保険金の支払を拒絶したのは正当といえる。

(7) なお,原告代表者は,本人尋問において,Bが原告代表者のところに菓子折を持ってきて謝罪し,自社商品を委託商品としてYに提出するように言った旨供述する(原告代表者本人調書8頁)。

証人Cも,YのD支社に行き,Bに対し,「とにかく,どうするんですか。」と言ったところ,Bが「買取商品を委託商品に回すしか手がない。」と答えた,Cは,虚偽申告だとは思ったが,保険会社の社員が言うことだから,何とかなるんじゃないかと思った旨供述する(証人C調書18頁)。

しかしながら,これら供述は,証人Bの次の供述に照らして措信できず,他に,Bが原告に対し,不実申告を勧めたことを認めるに足りる証拠もない。それゆえ,不実申告を理由に保険金の支払を拒絶するのは信義誠実の原則に反し,権利の濫用であるとの原告の主張は採用できない。

ア 平成11年9月16,17日ころ,YのEが,本件事故の調査に行ったが,Bは,Eから自社所有物について保険金が出る出ないで問題になっているとの報告を受けた,そのことを,BがCに伝えたところ,Cは,買取商品に保険が出ないのは困ると言った(証人B調書8頁)。

イ BはCと一緒に,保険金が支払えない理由を原告代表者のところに説明しに行こうということになったが,Bが,具体的な日取りのセッティングをCに頼んだところ,Cからの連絡がなく,原告代表者のところに説明に行けなかった。(証人B調書8頁,9頁)

ウ Bは,保険金請求に必要な書類を原告代表者に渡すのが遅れて,原告代表者のところに謝りに行ったことがある,そのときはB1人で行っており,Cはいなかった,その際,自社所有物について保険金が出る出ないの話もなかった(証人B調書9頁)。

エ 平成12年7月11日,Yが原告に不払通知を送った,同年8月,Cが,電話でBに会いたいと言ってきた,支社長と一緒にCの指定する場所に行ったら,原告代表者もおり,保険金が出るとか出ないとかの話になった,Bは,確認書(乙73)に署名しろと言われたが,事実と違う内容なので署名を断った,Cと原告代表者は,それ以上要求しなかった(証人B調書9頁,10頁)。

 

4 本件保険契約に至る経緯について
証拠(証人C,証人B,原告代表者本人,後掲証拠)によれば以下の事実が認められる。
(1) 平成8年ころ,原告が,業務拡大により高額商品を扱うこととなり,原告は,幼なじみのCの勧誘により,当時Cが代理店をしていたAとの間で,商品の盗難事故にも対応した保険契約(契約者は原告代表者個人)を締結した(証人C調書1頁,2頁,甲15の1ないし3)。

原告とAとの保険契約は,1年契約の掛け捨てであり,保険契約期間中,原告に盗難事故が2回起こった(証人C調書4頁)。2回の盗難事故に対し,Aから保険金(1回目が約20万円,2回目が約120万円ないしは130万円)が,原告側に支払われたものの,リスクが大きいということで,保険契約の期間が切れても,Aは保険契約の更新を拒絶した(証人C調書5頁,原告代表者本人調書16頁)。平成10年1月22日ころ,原告とAとの保険契約が切れた(証人C調書6頁,原告代表者本人調書16頁)。

(2) 平成10年末ころ,YのBから,Cに対し,Yの代理店になるようにとの誘いがあった(証人C調書6頁,証人B調書1頁)。
平成11年5月ころ,Cは,Yの代理店をやってもよいということになり,当初は,AとY双方の代理店になることになっていたが,のちに,CはAの代理店を辞めることになった(証人B調書2頁)。CがYの代理店になったのは,平成11年9月半ばである(証人C調書14頁)。

(3) Cは,Bに対し,貴金属の委託販売をしている会社の保険契約が直前に切れているので,AではなくYで保険を募集して欲しいと言ってきた,(証人B調書2頁,11頁)
平成11年6,7月ころ,Cは,Bに対し,原告が,とにかく盗難を担保できる保険を希望している旨話した(証人C調書7頁)。

Bは,Cに対し,まだYの正式な代理店ではないので,代理店を介在しない形の直扱いの契約であることを説明したが,Cは,それでも早くやって欲しいとのことであった(証人B調書2頁)。

BがCに対し,原告の商売を確認したところ,他から預かった物を売るのが主体であるとのことであった(証人B調書2頁)。

原告が,貴金属を扱う商売ゆえ,Yの本店に伺いをたてる必要があったため,BはCに対し,Aとの契約内容について詳しく教えて欲しいと言った(証人C調書29頁,証人B調書2頁)。

過去の契約内容や事故歴等を調べるために,BがCに対し,Aとの保険証券か申込書を確認させて欲しいと言ったが,Cは,「今すぐには控えというのは分からない。契約者にもお願いする。出すように努力する。」とのことであった(証人B調書3頁)。

BはCに対し,原告がAとの保険契約の更新を拒絶されているのかどうか確認したところ,Cは,更新を拒絶されているわけではない,原告や原告代表者がAに保険金請求をしたことはなく,保険事故はゼロであると答えた(証人B調書2頁,3頁)。

(4) Bは,Cとともに,原告店舗を見に行ったが,そのときの原告代表者の説明では,原告は貴金属,皮革製品を委託販売しているとのことであった(証人B調書3頁)。
また,原告代表者の説明では,過去に窃盗未遂に終わったような事故があったので,厳重にしている,そのときは保険を使っていないとのことであった(証人B調書3頁,4頁)。

Bは,原告代表者に対し,Aとの保険証券や申込書を出して欲しいと言ったところ,原告代表者は探してみますと言ったが,結局,提出してもらえなかった(証人B調書4頁)。

(5) 平成11年7月7日,Bは,QuickReport(乙72)を書いて,Y本店の伺いをたて,その許可を得た(証人B調書4頁,5頁)。
Bは,本店の許可を得たあと,Cのところに,原告と契約する場合の契約内容について,「火災・賠償責任保険のご案内」と題する書面(甲4)を作成して送付した(証人C調書9頁,証人B調書5頁)。

(6) 平成11年9月1日本件事故が発生し,同月2日,Cは本件事故を知り,2日後,Bに本件事故のことを知らせた(証人C調書14頁,15頁)。

5 契約締結上の過失等について
原告代表者は本人尋問において,店舗総合保険証券(甲1)はAとの動産総合保険と同様,自社商品も盗難保険の対象になると思っていた旨供述している(原告代表者本人調書5頁)。

しかしながら,上記4で認定した事実によれば,次の理由から本件保険契約締結にあたって,被告の契約締結上の過失責任は存在せず,従業員Bの過失の存在も認められないものといえる。

(1) 原告は,Aと同じ内容の保険契約の締結を希望しながら,原告代表者は,Aとの保険証券や申込書をBに見せていない。
Cも,保険会社の代理店として,自分が扱った保険契約の申込書等の代理店控えを保管しているものと思料されるにもかかわらず,Aとの保険契約の申込書等の控えをBに渡していない。

(2) Bが作成したQuickReport(乙72)には,「委託販売業者」,「Aで5年間(開業して以来)付保しているが保険事故0である。」,「引受条件,保管物賠償責任保険」等の記載があり,同記載内容を原告代表者やCがBに話していたものと推認できる。

(3) Cは,本件保険契約に先立って,「火災・賠償責任保険のご案内」と題する書面(甲4)をBから受け取っている。同書面(甲4)には,原告が締結予定の保険契約の内容として,店舗総合保険,店舗休業保険,保管物賠償責任保険と明記されている。

証人Cは,このうち店舗総合保険は火災保険であって買取商品の盗難事故は補償されないものである旨供述しており(証人C調書9頁),店舗総合保険の内容を理解していたものといえる。

また,証人Cは,保管物賠償責任保険は委託商品についての保険である旨供述しており(証人C調書10頁),保管物賠償責任保険の内容も理解していたものといえる。

(4) もっとも,「火災・賠償責任保険のご案内」と題する書面(甲4)について,証人Cは,当然,買取商品の盗難事故も火災事故も補償されるところの動産総合保険になっているものと思っていた旨供述している(証人C調書10頁)。

そして,証人Cは,「火災・賠償責任保険のご案内」と題する書面(甲4)を見たが,動産総合保険がないことについては見間違えた,動産総合保険がないのは気づかなかった旨供述している(証人C調書32頁ないし34頁)。

すなわち,仮に,原告が,本件保険契約の内容を誤解していたとした場合,その一因は,Cが原告に対し,本件保険契約の内容を正確に伝えなかったことによるものと推認できる。当時,Cは,Yの代理店ではなく,原告のためにYのBと交渉していた者である。それゆえ,仮に,Cに何らかの落ち度があったとしても,そのことにつきYが責任を負うことはないものといえる。

6 よって,主文のとおり判決する。

横浜地方裁判所第2民事部
(裁判官・小林元二)
目録省略